自分の筋組織が千切れる音なんて、生涯聞く事はないと思っていた。



「ッい、が、あああああー―――――!!!!!」


捻り入れられた嘴がぐりりと肉を削り、己の口から絶叫が迸る。
漆黒で塗りつぶされた木々の間から溢れる月の光が嘴に貫かれたままのグロテスクな肩口を照らし、流れ出る生臭い液体が自分の血だと言うことに漸く気付いた。
弱った獲物をいたぶることに酔っているのだろう捕食者の瞳が、ニタリと歪む。
ああ、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い怖い痛い痛い痛い助けて痛い痛い痛い痛い痛い痛い怖い痛い痛い痛い痛い痛い痛い嫌だ痛い痛い死にたくない痛い痛いいた

ビガァアアアア!!!!
ギャギャギャ!!

ぎゃんぎゃんと泣き叫ぶ小さなイキモノの声に飛びかけていた意識を引き摺り戻し、小さな身体を背に隠す。
死んでたまるか、私が死ねば、次はこの子達だ。
この世界に"動物"は居ない、居るのはポケモンで、食物は連鎖している。
食べて、食べられて、それが当たり前で、当たり前だけれど、当たり前にする訳にはいかない。
涙腺から滲み落ちる涙で霞む視界に映る拳大の石を掴み、眼前のオニドリル目掛け降り下ろす。
ごりりと嫌な手応えの後、今度は大鳥が絶叫した。
乱暴に嘴が抜かれ塞き止められていた血液が噴き出す。
いつの間に傍へ来ていたのか、キャタピーが白い糸を吐き傷口をがんじがらめに巻いてくれた。


怒りを露に赤い嘴をがちがちと打ち鳴らすオニドリルを睨み付ける。
体が重い。
私はもう限界に近い。
物言わぬ躯が鳥に啄まれるイメージが途切れることなく脳内を巡る中、考えたことは連れてこられたエサ達の事と、


「あ、は…、さ、すがポッポさん、じぶ…の、出ば、を、解って、ら…しゃ、る…」


文字通り風を切り颯爽と現れ、オニドリルの潰れた片目へ容赦のないエアスラッシュを連続で繰り出した小鳥兼保護者の事である。
耳を塞ぎたくなるような威嚇の鳴き声と共に上空へ昇った二羽を見送り、ずるずると地面へ崩れ落ちた。
ポッポさんが来たなら、もう大丈夫、ポッポさんはああ見えて面倒見がよくて、優しいから、きっと皆の事を、ああ、いしき、が、うす て も、


【暗転】