鳩尾の辺りを抑え、男は歪な笑みを浮かべた。
笑おうとして、失敗した。
そんな顔だった。

暗く沈んだ色の群青が見詰める視線の先では、小十郎が男へ背を向け鍬を振るっている。
抉れ、掘り返される土の茶に吐き気が込み上げた。
短く息を吸い、吐く。
その動作すら、今は苦しい。
小十郎。
口にしたはずの音は、風に掠れて消えた。


汗を拭った小十郎は何を思ったか、くるりと振り返り形の良い眉を見る見るうちに吊り上げ、唇を引き結ぶ。
そうして鍬を担ぎ大股で男へ近付いた小十郎は、土に汚れた無骨な手で男の頭を強くひっぱたいた。


「いたい」
「今度は何だ。不安か、不満か、寂しいのか、腹が減ったのか。…どうした、言ってみろ」


小十郎は腰に手を当て、頭一つ高い男を見据える。
男は呆気にとられたような表情をくしゃりと崩し、泣きそうなのか笑いたいのか判別の付かない様相で弱々しく小十郎へと腕を伸ばした。
平素からでは考え付かないような気弱な仕草で引き寄せられた小十郎は、ああこの男はまた下らないことで思い悩み寂しくなったのだなと悟り、苦笑をもらす。


「大丈夫だ…何にも怖い事はねえぞ」


飼われた獣のようにすり寄る男の背を撫で、耳元で囁く。
男はいとけなく頷き、己より少しだけ小さな小十郎を抱き締めた。


「全く…仕様のねえ化物だなてめぇは」
「…もっと褒めろ」
「…褒めてねぇだろうが」


きつい口調ながら、よしよしと男をあやす小十郎の眉間に皺は無い。
甘ったるい声で幾度も名を呼ぶ男が、こうして小十郎を頼るのは存外稀である。
それなりに矜持が高く、ほどほどの立ち位置に居るらしい男の精神は可笑しな方向に繊細で、ある意味砂糖細工よりも脆いものだった。
大概のことには耐えられるが、許容できず一杯一杯になると小十郎を求め、死に体でふらふらと近づき何に遠慮をしているのかぴたりと止まる。
もう弾かれることは無いその手を宙にさまよわせ、怯えながら顔色を窺うように小十郎を見る。
何もかもを赦し、赦された間柄だというのに、本当に仕様のない男だと、小十郎は口の端を緩めた。




「…土臭いし汗臭え…」
「埋められてえならそう言え、肥溜めの隣に植えてやる」
「ごめんなさい」