何をしているのかと問われれば、何もしていないと答えるしかない。
不明瞭な意識、不透明な視界。
まばたきをすると、涙が一粒ころりと落ちる。
何もしたくなかった。
何処へも行きたくなかった。

夜が明けなければいいのに。

吐息に混じらせた脆くて弱い呟きは、枕にしていた男の声に呑まれて消える。
緑を育む指先で優しく眦を拭われ、乱れた髪を厚い掌が整えてゆく。
訳もなく泣きたくなる時があるが、まさに今がその時だなと思った。


「いつだって相手してやる。だからそう気を落とすな」
「もっと撫でてくれ」
「ああ」


頬を温める手にすり寄って、己の手を重ねる。
落ちてくる微笑みが、まるで陽光のようだとも思った。


「小十郎、口吸って良いか」
「俺は屈まねえぞ」
「俺が起きるから」
「ならとっとと身を起こせ」


腹に力を込め上体をゆっくりと持ち上げる。
顎に指を添え、角度を合わせ、薄い唇へ唇を重ねた。