「起きろ」


ばしん。

耳慣れてはいたが既に遠い記憶の中にある音に瞼を擦り、上体を起こし眉根を寄せた。
昨日は確かに柔らかい布団に躯を潜り込ませ眼を閉じたはずだ。
なのに何故、俺は今じめじめとした冷たい石畳に転がっているのだろう。


「貴様、何者だ」


お前が誰だよという呟きに男の腕が軽く上げられた。
頬の切れる感触に続き打撃による微かな痛みと熱がじわりと広がる。


「質問に答えろ」


指に付着した朱を眺め、眼前に仁王立つ男に視線を投げる。
男は奇妙な格好をしていた。
先の尖った黒いブーツ、緑を基調とした、これは軍服なのだろうか。
肩の辺りに光る金の勲章にぼんやり見とれていると、二度目の衝撃が首筋を襲った。
白装束の裂ける音、切れた皮膚から伝う赤。
情けないが、そこで漸く男の振るっている物が鞭であると認識した。


「聞こえているのか」


米噛みに硬質な足先がめり込み石の壁へと叩きつけられ、糸が切れたように横たわる。
傷付いた肌と固い壁が擦れて不快である。
寝起きに回らない頭でもヤバいところへ来てしまったのだろうなと見当がついた。


「此処、何処」


途切れぬ困惑に辛うじてそれだけ口にすると、軍服の男は眼前にしゃがみこみ俺の髪をわし掴んで強く引いた。

頭皮の痛みに顔を歪めて男を見ると、秋の稲穂のように綺麗な男の金髪が鉄格子から差し込む光にきらりと光る。
何処までも澄んだ晴天のような色の瞳が、凄く綺麗だった。


「ドイツ軍の心臓部だ。何をしに来たのか、吐いてもらおうか日本人」



どんな手を使ってもな。
そう吐き捨てられた言葉に、心中で涙が止まらなかった。



help me!!!!
(その後直ぐに戦争は終わったらしい)
(頼むから背中が版画版みたいになる前に終わって欲しかった)



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どSなお兄さんが大好きです。
戦争中はこんなんだっただろうなと妄想