時々、こわくなるんだよ



日の当たる縁側に投げ出された体躯に、つ…、と視線を投げる。
光を吸い取る長い黒髪に指を通せば温かそうだなと。
読みかけの書物へ手製の栞を挟め、小十郎は後ろ姿へ膝を向けた。


殆ど零れ落ちたと相違ない、囁きか、呟きか。
判断の付かない音は、ひどく寂しげな色をたたえていて。



「なんだ、……泣いてるのかと思ったぜ」

「さびしいだけ、」

「らしくねぇな」

「…俺、いつだって寂しがり屋だぜ」


真似するなと呟いて男の額をピシャリと叩き、小十郎は何故か落ち込んでいるらしい相手の頭を柔らかく撫でた。

指に絡む髪はやはり暖かかく、微かに日向のにおいがした。



(全部夢だったらイヤだなって)(そう)(思っ、て)(そんなわけあるか。馬鹿げたこと考えんな馬鹿)
(ばかって二回言われた死にたい)
(……元から死人だろ)