泡のように漂う意識。
焦点の合わない虚ろな世界は、二重、三重にぶれ、心をくすませる。


(…………ああ、)


思い出だとか記憶だとか言われる何かは、滑らかな忘却に侵蝕され始めていた。

例えば声

例えば顔

例えば…
例えば…あとは、何?


(…………あ、あ)


ぼんやりと輪郭をなくしたあの人、
あの人
あの人
あの人


(あの人、って……)


胸に空いた穴に気付くことなく、何時まで生き続けなければいけないのだろうか。
未だ悲しみは見出せず、いっそ、そんな自分が哀れですら有る。






「おい、飯が出来たぞ………來海?」

「今…、行くよ。小十郎」







重い腰を上げ男に近付いた。


(果たして)

(彼は、誰だったのだろう?)




「今行くよ」






(人は意外と頑丈である。)(何故ならば、誰かが消えても笑えるからだ。)

(消えた誰かが、)

(誰であろうと)


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