うすぼうやりとした靄に包まれた彼を見て來海は微笑った。
輪郭すら曖昧な人影は酷く物悲しい。
夢際の岸辺で交わされる会瀬が幾度目なのか、來海はすでに数えるのを止めてしまっていた。
触れることは愚か、声さえ聞こえぬ相手と顔を合わせる毎、愛しくて、哀しくて、息をするのさえ億劫になってしまう。

(生きていることが無意味なような、そんな、気すら)

なぁ、そろそろそっちへ逝っても良いだろうか。
音にならなかった声に、薄れ行く影は來海を睨み付け、それからゆるりと首を振った。






     追憶

(死ねばそれまでだと豪語できるのに)