Q真面目にss
余りにも離れていたので文を練習。
↓ケルベロス
付かず離れずカツカツと響く半歩後ろの足音が、あまり好きじゃなかった。
「ケルベロス」
伽藍堂に居座る暗闇のように黒い瞳が満天の星空から光を盗んだ。やや間を置いて、なんでしょう、と粘着質な声がふわりと宙を舞い、紅い唇が戦慄く。
「お前、もうちょっと早く歩けないのか」
「貴方様は脚が長くいらっしゃるので、」
着いていくことで精一杯ですよ、と。
困ったような笑顔がころりと滑り落ちた。困らせたい訳じゃないのだが、コイツはいつも困っているのか笑っているのか判らない顔をする。判らないなら確かめようと、間に図々しく横たわっていた邪魔な半歩を蹴飛ばし距離を詰める。所謂抱き締めるのにちょうど良い位置で顔を覗き込めば、ケルベロスは困ったような笑顔を引っ込め、もっと困ったような、吃驚したような、不思議な顔をしていた。
「……驚くなよ」
「無茶を言いますね」
「顔色悪い、寒いのか」
「いいえ、寒くはありません」
汗ばんだ前髪を払い、ついでに睫毛にくっついていた汗を拭ってやる。汗独特のツンとした臭いと、ケルベロスの匂いと、僅かな獣臭さがやけに胸を突いた。
所在無さげにもぞもぞ身動ぐ最も忠実な番犬の腕、正確には5本の指に指を絡ませ、さっきよりも半歩遅く歩き出す。
「知識様、」
「行くぞ」
スピードを落とし、猫背男の歩幅で歩く。無感動に流れていた景色はたちまち色を持ち、街角の猫に目を細めた。
汗ばんだ熱い手、節々の固い感触。
「暑く、ありませんか?」
「…お前が嫌なら離す」
「嫌なわけ、」
続きを待たずぷくぷくした唇を奪えば、人前で、なんて柄でもなく恥じらうケルベロスに笑いが込み上げる。
「見せ付ければ良いだろ、恋人なんだから」
くしゃりと笑顔を歪ませた番犬に、もう一度唇を重ねた。
【麗らかな陽気に当てられて】
(たまには)(合わせてやろうかと思ったんだ)
ケルベロス好きですマジで。