帰り道に彼岸花を見つけた嬉しさで一噺。
白い彼岸花はありますよ。
地域が限定されているみたいですけど。
小太郎は足を止める。
薄ぼんやりとした闇の中、あおしろい月の光を受けた簡素な土手の一角だけが、赤赤と燃えていた。
己の髪に似た朱、
墓守りであると同時に、不吉とされ忌み嫌われる華
――あのひとのすきな花だ
有毒であるはずの花は、身を寄せ合うようにひっそりと群れ、涼しさを増した風と戯れていた。
夜露に濡れた丈の低い草を掻き分け河原へ下りる。
ひとつ手折って持ち帰ろう、あの人に渡そう、あの人はきっと喜んでくれる、
ひとしきり華を楽しみ、それから、慈しむような瞳で己にありがとうと言うのだ、
自分に似た朱を愛でる主を想うだけで、真一文字に結ばれた小太郎の唇はほぐれ、自然と笑みが浮かんだ。
流れる風に、小太郎はおやと首を捻った。
赤々とした茂みの中、一輪だけが白銀に輝いている。
訝しさに眉を垂らし近寄るが、回りに生えるものと形は同じである。
色以外変わった処はない彼岸花だった。小太郎は傾げた首をさらに曲げ、珍しいのならば一緒に持ち帰ろうと手を伸ばした。
「小太郎」
――來海さま
触れてはいけないよ、と、手首を優しく押し止める大きな掌。
「毒があるって知ってるだろう?」
咎めるような、たしなめるような声音。
知っている、けれど、でも、
「白い花には気をおつけ、黒い禍に連れていかれてしまうから」
遅いから帰ろうか、と
寂しそうな、悲しそうな、ひどく優しい何時もの顔で笑う來海にこくりと頷き、小太郎は一度だけ白い花を振り返った。
色を塗り忘れたような光景に、もしも…、と思考を巡らせる。
ただの花だ、高々触れたぐらいでどうにかなるとは思わない、だが…
黒い厄災に焦がれているような、來海の表情が頭から離れなかった。
背筋を走る寒気を払い除け、小太郎はそっと來海の手を取る。
(つれていかれるのはどちら?)
`