※奇術師







真っ白な猫耳に同色の尻尾を着け、あからさまなあざとさでにゃあんと媚びるように鳴いた狛枝へ、奇術師はゴキブリでも見るような視線を投げた。
女豹のポーズでベッドを占領する青年は、悲しいかな奇術死の恋人である。
誠に残念なことだが、無情にも、恋人である。


奇術師は両手を塞いでいた書類をサイドテーブルへ放り、ジャケットを脱いだ。
ネクタイの結び目をゆるめつつ狛枝を盗み見れば、先程までの勢いはどこへ消えてしまったのか、膝を抱え隅の方でぐずぐずと鼻を啜っている。


「狛枝」


大袈裟なまでに青年の肩が跳ね、薄く細長い身体はますます縮こまる。
溜め息を吐いた奇術師がもう一度呼び掛けると、だんごむしだった青年は涙と鼻水で汚れた顔を恋人へ向けた。
汚ないな、意図せず漏らした呟きに、狛枝の涙腺は決壊する。
ごみくず、やら、喜ばせたくて、やらと途切れ途切れの言葉を受け流し、奇術師は片腕の無い狛枝を抱き締めた。


「お前がいれば他には何も要らない。誰に何を言われたのかは大体見当がつくが、もっと俺に愛されている自信を持て」
「十八くん…」


すき、すき、と拙く繰り返しすがり付く狛枝に、奇術師の唇が弧を描いた。



にゃんにゃんにゃん!



後日談として、狛枝にマンネリ解消方法を吹き込んだ葉隠とジェノサイダーが三日ほど行方不明になった事については、別に知らなくていいことなので割愛する。