※誰も知らない彼女の話






よりによってこの日にと思わないでもなかったけれど、出会ってしまったのなら仕方がない。
私は目前で一言も発せず此方を凝視する青いジャージの軍団に内心で乾いた笑みを溢し、あまりあまる羞恥心を捩じ伏せて、にゃあと鳴いた。
その瞬間の、なんとも言えない、空気ときたら!
スカートの端をぎゅうっと握って誤魔化すように口を開いた。


「い、いらっしゃ」
「ねぇ、何してるの」


越前!
触れてくれるなオーラに気付いてくれた上級生のたしなめが入るが、唯我独尊のスーパールーキーには全く通じなかった。
じろじろと観察されて顔の温度が上がっていくが、越前くんは容赦なくこの情けない姿をこころゆくまで堪能したらしい。


「…学校の、行事でね」


端的に言えば別名【生徒会の悪ふざけ】で猫の日は猫耳を着けることと相成ってしまったのである。
詳しくは行事じゃなくお祭りなんだけれども。
私だけじゃないから楽なんだけどねと呟き、後ろへ視線を飛ばせば、猫耳を着けたジャージ姿の体育教師が同じく猫耳の保険医と歓談している風景が目に入る。
うわぁと言ったのは果たして誰だったのか。


「ふぅん、似合ってるじゃん」


トレードマークの帽子をつい…、と上げた越前くんは、喜色を孕んだ瞳で私の頭上を見据えると、バックの中から猫じゃらしを取り出し、生意気な表情で、ねぇと問い掛けてきた。


「遊んであげようか、オネエサン」


年下とは思えない凄味に結構ですと私が答えると同時、越前くんの頭には手塚くんの拳が落とされましたとさ。



にゃんにゃんにゃん!


後日、何処から漏れたのかは知らないが、猫耳ジャージ軍団と化した青学テニス部メンバーと同じく猫耳な私の写真を見た弦一郎が激怒したことは言うまでもない。
ちなみに今の私の待受は、胡座をかいた足の上に白い猫耳を着けた私を抱き締め、酷くご満悦なドヤ顔を晒す黒い猫耳の弦一郎だ。
柳くんが爆笑して、切原くんは恐怖のため失神した。
ちなみに幸村くんは呼吸困難になっていた。
失礼な話である。