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ss小十郎





先の戦の恩賞をやんわりと退けた男に、欲の少ねぇ野郎だ、と。
呆れた風に呟く小十郎を横目で見遣り、当て付けられた当人は空惚けながら虚空の月を酒に映した。


「ない訳じゃないけど、俺は元々死人だからな。唯此処に有るだけなら、禄も金も要らない」
「それでも飯は喰うだろうが」
「厳密に言えば喰わなくても死なないんだよ」


まぁ、飢えるし餓えるし腹も減るけれど、と。
男は何が面白いのかふくふくと頬を緩め、だしぬけに小十郎の唇へ己が其を重ねる。
風に乱れた髪を撫で付け、群青の瞳を猫のように細めた。


「ん、充分。これ以上望んだらバチが当たる」
「…回りくどい真似しやがって」
「何だよ、はっきり『お前がいれば他になにも要らない』とか言えば良いのかよ」
「…いや、無いな」
「わがまま!」


【蜜事】
(黄金に輝く弦月はするりと男の喉を下り、はらわたの底へと沈んで落ちた)




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