ワークスから
・慶次
「………」
「あ、あのさ來海ちゃん」
「んー…?」
「いやあの、ちょ…顔近いんじゃないかい?」
「嫌か」
「嫌って言うか…あの、後ろの兄さんがちょっと…射殺さんばかりに睨んでるんだけど」
「髪、長いな慶次」
「聞いてるかい來海ちゃん」
「天辺近くでこれだから…下ろすと脹ら脛ぐらいまで届くんじゃない?」
「おわっ、結い紐解かないでくれよ!」
「ああ、やっぱり長い。凄いな、俺も長いけど、それよりだ。量も多いし…羨ましいなぁ」
「頬…頬!手ぇ退けて!!右目の兄さんが、ちょっと帯電してる!唇くっつく!いや別に嫌ってわけじゃないけど!寧ろ嬉しいけど!」
結論:慶次の髪の毛超長ぇ
松永
「…先刻から何なのかね卿は」
「あんたの瞳、金色なんだなぁ」
「呆れたな、四半刻も私の眼を眺めていたのか」
「綺麗な金色だ…秋の稲穂の色みたい」
「まったく…酔狂な男だ。私としては、卿のその眼が欲しいのだが、如何かな」
「如何とか…なにそれこわい」
結論:松永さんの虹彩超綺麗
月の無い夜だった。
ぼんやりとわかる物の姿に眼を凝らし、男は流れ来る音に耳を澄ませた。
寝静まるほどではない刻の事である。
縁に腰掛け笛に当てた指を滑らかに動かす人影を見付けた男は、ほうと息を吐き口の端を緩ませる。
「ただいま」
へらりと微笑み片手を上げたらしい男を一瞥し、片倉小十郎は奏していた愛笛を懐へと仕舞った。
嗚呼と情けない声で未練たらしく終わりなのかと呟かれ、小十郎は苦く笑んだ。
「随分遅い帰りだな」
「ちょっとね、」
「手こずったのか」
「手間取ったんだよ」
同じじゃねえかと洩らす小十郎の隣へ腰を下ろした男は、気分の問題だと頬を膨らませ、ちらちらと小十郎の懐、もっと言えば仕舞われてしまった小さな楽器へと視線を向ける。
それがまた、さも残念そうな仕草をするものだから、小十郎は小さく噴き出し男の髪をついと引いた。
「ばか、禿げるだろ」
「禿げても似合うんじゃねぇか」
「当たり前だ、俺は何だって似合うさ」
でも禿は嫌だと眉をしかめた男に、小十郎は腹を抱える。
「まぁ、なんにせよ」
わざとらしく咳払いをし、改めてただいまと口角を上げ、男は小十郎の頬に掌を添えた。
武骨な指である。
刀を握る者とは思えぬほどにきめの細かい皮に覆われている。
少しばかりひんやりとしている。
慣れ親しんだ掌であった。
男が覆い被さり、小十郎は廊下へ倒された。
板に落とされた背に痛みはない。
頬の傷をなぞる親指に、小十郎は肩を震わせた。
「…おい、部屋でやれ部屋で」
「ばか、ちげぇよ。つか、部屋なら良いのか」
「そりゃおめぇ…、言葉のあやってやつだろ」
「言質取ったぞ、そっぽ向くな」
男の指に睫毛を擽られ、小十郎は目蓋をきつく閉じた。
目の縁を擦られ、唇を噛む。
男が笑ったような気配に腹が立ち、小十郎は片膝を男の鳩尾へとめり込ませた。
「痛い」
「なら痛がる素振りを見せたらどうだ」
「痛ぇ」
「そんな強く蹴っちゃいねえ」
「…ここが、な。痛かった」
男の薄い唇が小十郎の口へ重なる。
いつの間にやら掴まれた片手は、男の心の臓辺りへ押し付けられていた。
「寂しかった。心細かった。お前に会いたかった」
「來海、」
「お前は、違うのか」
艶の色濃い男の声音に、小十郎は思わず天を仰いだ。
違わねぇ、と。
掠れ洩れた答えにゆっくりと顔をほころばせ、男は柔らかな微笑を口許に浮かべた。
(焦がれ死にそうだったと言う声は)(一体どちらの物なのか)