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独白風味



デスクの隣で耳を澄ませた。
電話対応に追われる声、キーボードを滑る指、接客用の横顔、ふと見せる談笑中の笑顔に胸が軋む。
社会に入ったばかりの若造になど見向きもせず、今日もあの人は優しい。
手の触れ合うような肩合わせの距離で一挙一動に喜び悲しむ毎日は心地好かった。

休憩終わり、スーツに染みた煙草の臭い。
夜も更け、心底草臥れた声で呟かれた“疲れた”。
お疲れさまですに返された微笑。
甘い物を好むギャップ。
後ろを向けば、スラックスの丸い膨らみに自然と目が行き、椅子に座れば己と比べた太股の細さに驚かされた。
裾から見える革靴との境界、背から腰に至る流線型のライン。


誰かのものであろうと、欲しくなってしまったのだ。

結婚秒読みの年上なんて勝ち目は零だし無謀にも程がある。
解ってる。解ってるんだよ、そんな事は。
仲の良い職員と連れだって煙草を吸いに行く姿にぢりりと咽が焼ける。
擦れ違い様に聞こえた“大丈夫ですよ”にどうしようもなく無力を抱えた。
あの人が慰められていたのは、あの人に悩みがあったから。心配があったから、不安があったから。何も出来ない、己には話す必要も無い。当たり前だ、当たり前の事が何故こんなにも心を抉る。
泣き喚いたって手に入らない事は知っていた筈なのに。

近付きたい。
年の差とか経験とか全部全部取っ払って、彼女とか恋人とか全部全部遥か彼方にうっちゃって、貴方の隣に、並びたい。




車のキーを開け、夜空を仰ぐ。

俺の好きなあの人が、よく眠れますように。
溢れそうな星空に情けない笑い顔を向けた。

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