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ある森のはなし

ふたりはいっしょに暮らし始めました。


狼はやさしくて、うさぎはたくましくて、反対だったらよかったね、と、ふたりで笑い合いました。

花がさいて、日がてって、虫がないて、雪がふって、ずっとふたりで暮らしました。

わらって、おこって、なかせて、ないて、
とてもとても幸せでした。

狼はうさぎが大好きでした。
うさぎは狼が大好きでした。

好きで好きでたまらないくらい、ふたりはふたりが好きでした。




あれから何度花がさいたでしょう。

狼はすっかり痩せてしまいました。
ふさふさだった毛は細くなり、ほっぺたは削げ、やがて歩けなくなりました。
狼は空腹でした。
どんなに果物を食べてもおなかはいっぱいになりません。
どんなに野菜を食べても涙が出るほどおなかがすきました。


うさぎは泣きました。
狼のくちに果物を押し込みながら、うさぎはボロボロ泣きました。
うさぎは、狼が一度も肉を食べていないことを知っていました。
肉を食べない狼がどうなるのかも、うさぎは知っていました。



狼がうさぎに言いました。
――このままだと、おれは君を食べてしまう

うさぎは言いました。
――食べればいい、頼むから俺を食べてくれ



狼はうさぎが大好きでした。
やさしくてたくましくて、大切なうさぎを絶対に食べたくありませんでした。


うさぎは狼が大好きでした。
また独りになるくらいなら、いとおしい狼の血肉になりたいと思いました。


狼のこきゅうが段々と弱くなりました。
うさぎは雑草を刈る鎌で耳をちょんと切り、狼のくちに押し込みました。
それから指をちょんと切り、狼のくちに押し込みました。
痛かったけれど、狼の顔に安心しました。
涙をながして慟哭しながら美味しそうに食べてくれています。
安堵しながらうさぎはからだを削りました。



小さくなるうさぎを見ながら狼は泣きました。
うさぎはとてもとても美味しかったのです。
血の一滴、毛の一本まで骨ものこさず平らげました。
久しぶりにお腹がいっぱいでした。
筋っぽいうさぎは筋肉質で、お肉らしい感じでした。


美味しかった。
美味しかった。
でも、
うさぎのくれた果物のほうがずっとずっと美味しかった。



涙が止まりませんでした。
狼は狼で、うさぎはうさぎで。

お腹はいっぱいだったのに、ちっとも幸せではありませんでした。



狼はぼんやり立ち上がり、いちまいだけ残った、土のにおいがするうさぎの耳を大事に抱え、森の奥深くへと消えていったということです。





ある森のはなし

むかしむかし


うさぎが一羽おりました。

うさぎはうさぎであったのに、どうしてだか誰も食べてくれませんでした。

雪がふって花がさいて日がてって虫がないて、また雪がふってまた花がさいてまた日がてってまた雪がふっても、うさぎはずっと独りでした。
やわらかかった肉は固くなり、白かった毛は薄汚れうさぎはますます食べられなくなりました。


うさぎは寂しくなりました。
とてもとても寂しくなりました。








一匹の狼がおりました。

狼は肉が大好きでした。
だからたくさん食べました。たくさんたくさん食べました。
固い肉、柔らかい肉、脂ののったお肉はとてもとても美味しくて、たくさんたくさん食べました。

ある日のことです。

狼は、自分のまわりに誰も居なくなってしまったことに気が付きました。
みんなみんな食べてしまったのです。
悲しくて悲しくて仕方がありませんでした。

狼はみんなを食べることしかできません。
肉を食って生きることしかできません。

狼は決めました。
もう肉は食べないと決めました。

白いほねが転がる森を出て、しくしくしくしく泣きました。

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