我が子らよ、サルーインが帰ってきます。
(略)
そのデスティニィストーンを持ち、サルーインを阻止するのです。
“あなたにできないのであれば、できる人を探して渡しなさい。
それがあなたの使命です。”
大いなる母ニーサの託宣に従い、何事もできる人を探して丸投げることにしている。
それがわたしの使命であるらしい。
他人の才能を見抜く才能にだけ特化されているので、自分では何もできない。
歌ったり踊ったりカリスマ振り撒いたりして他人のポテンシャルを引き出すくらいしか仕事がない特殊ユニットである。
支援系ユニットの役割は自ら剣を持って戦うことではないんです。
踊り子の使い方を誤ったままでは無駄に苦労するだけで得るものはありません。
月光剣があっても踊り子は踊り子だから、無駄なことすんな。
月光リーンが最大出力の勇者の剣で殴ったところで、月光リーンには追撃がなく勇者の剣の弊害で連続も出ないので、こんな火力でぺちぺち叩いても返り討ちに遭うだけである。
そんなことをしている暇があったらソードマスターとフォーレストとシーフファイターとセイジを再行動させてくれたほうがよっぽど気の利いた大量殺戮兵器になる。
前線に出るなってば、無駄な回復をさせるな。
己の兵種を履き違えてがんばりさえすればマスターナイトの働きができる気になっている踊り子ほどタチの悪いものはないので、わたしは一切がんばらないし戦わない。
己が役割である歌って踊ってカリスマ振り撒くことにだけ専念する。
リングと守りの剣はファッションだ。
そして生まれや育ちに関係なく全人口の約半数は本質的にそういう兵種なので、踊り子隊のみなさんは魔の無限行動に全力を傾け、決して自らマスターナイトになろうなどと血迷ったことは考えないでほしいと思う。
………喩えを変えようか。
珠魅族が『戦う者』と『癒す者』の二人一組で行動するのと同じである。
より正確に言うなら『守護する者』と『与える者』。
珠魅族は核が傷つかない限り悠久の命を持つが、ひとたび核を傷つけられると脆く儚い種族である。
珠魅の傷は珠魅の命を削って生み出す涙石でしか癒せない。
そのため珠魅族はかつて自らの命を分け与えながら生きる友愛の種族と呼ばれていたが、永きに渡る珠魅狩りの時代を経て分け与える力を失った時から、彼等は滅びに向かい歩き始めた。
与える力を授かった者は心痛むままに涙すればよい。
自身が満たされていない者に分け与えることなどできはしないのだから。
何処までも澄み渡る青ざめたフローライトの儚い劈開面を見る度に、蛍姫の尽きることなき心の豊かさを思い出すだろう。
騎士しかいない珠魅など滅びるだけである。
涙を捨ててまで何を守ろうというのか、小一時間問い詰めたい。
わたしが珠魅だったら、部屋でワンピース読んでるだけで何万人もの同族を救える自信があります。
ドラッグオンドラグーン2を一周走っただけで名医です。白い巨塔です。ドクターXです。
でも涙を流せる最後の一人である蛍姫に騎士の役割を求めたらどうなるでしょう。
戦うことに慣れるためには感傷を捨てざるを得ないでしょうね。
らびちゃんやおたまちゃんをザクザク切り裂いても屁とも思わない嗜虐性を持った蛍姫なら、一族を背負って立てるほどの泣き虫さんになれたでしょうか。
そういうのは好戦的で残忍なホモサピエンスにやらせておけばいい。
てか瑠璃君弱いんだから前線に出ないでよ!ノーフューチャーだってばよ!
心痛め、ほろほろ泣いている『だけ』の蛍姫だから、滅びゆく珠魅族の最後の生命線たりえたのではないでしょうか。
己の役割を正確に把握するって、三次元から二次元を見下ろすくらいの視点に立たないとなかなか難しいよねって話である。