『ア・リ・エ・ナ・イ!!』

 小林はそう言いながら顔の前で腕を交差させて大きくバツを作る。そんな小林に心底面倒臭そうな顔をして溜息を吐く森田の横には一台の自転車。

『なんでよ? 後ろに乗るだけだぜ』
『ムリムリムリっ』

 早く帰りてぇんだけど、とぼやく森田に対して小林は頑なに首を横に振り続ける。

『だって、よく考えてみろよッ数センチの車輪を縦に二つ並べて繋げただけの乗り物だぞッ?! 一人で乗るのさえスッゲーバランス要るだろ!! んなの二人乗り出来るかっ!!』
『だからテメェは大げさなんだよ、つか今時チャリに乗れねー高校生なんて……それこそアリエネー』

 真剣そのものの表情で拳を堅く握り締めた小林は、自転車が如何に恐ろしい乗り物かを力説するが、森田はひとつ欠伸をすると半眼で小林を見遣り、自転車のサドルにまたがる。

『いーから乗れ。俺が漕ぐんだからいーだろ』
『何がいーんだよ!? 普通ヒトにそう簡単には自分の命を預けらんないだろっ!!』
『……なに、小林オマエ』
 相手をするのも億劫になってきたのか森田が投げ遣りに呼び掛ければ、小林は必死な形相で森田に詰め寄る。その言葉に森田ははっとした表情をしたかと思うと急に下を向いて。

『俺が、信じらんねぇの?』

 肩を小刻みに震わせて、小さな声で小林に訊ねる。

『えっ、そ、れは……ッ』
『なぁ小林……俺を、信じろよ?』

 僅かに震える森田の声に小林が焦れば、森田はばっ、と顔を上げる。その目にはうっすら水の膜が張られ、眉は哀しげに寄せられていて。

『う……うんっ俺、森田を信じるよッ』

 小林は反射的に頷いて力強く森田を抱き締める。

『って何抱きついてんだ!』
『痛いっ……てアレ? 森田、泣いてたんじゃ……』

 泣いた後とは思えない森田の暴挙に小林は訳が分からず疑問符を飛ばす。

『はぁ? 何で俺が泣かなきゃなんねーの』
『だっ、だって肩とか声とか震えてたしっ涙、溜まって……』
『あぁ、アレは笑いを堪えてたダケ』

 衝撃的な科白に小林は音を立ててぴしりと固まる。

『は……?』
『なんだよオマエ、何だと思ったわけ?』
『お、俺の言葉に傷ついて……とか?』

 そんな的外れな事を言う小林に森田は綺麗に笑うと。





『それはアリエナイ』





 その笑顔のまま、きっぱりと言い切ったのだった。






 ―――――

 なんだかやけに長くなってしまった……。気持ち的には小林×森田、だけど……どっちにもとれるような……。
 小林と森田はイラ描いたんでまたのっけるかも。