紅い桜が夜闇の中で、ひらり、はらりと舞っている。
ある者は『狂い桜』と呼ぶ様になった。何故、狂い桜という異名を付けたのかは植えられている土地にあった。
大昔から、この土地は吸血鬼が棲んでいるとされているからだ。

一切混じりっ気のない純粋な血を引く者達。大きな桜の木は吸血鬼が棲むとされる一族の庭に聳え立っていた。
だから…『狂い桜』だと言うそうな。


「私達一族には深い歴史があるのね…」


私こと、神崎 漆幸(かんざき うるさき)は一族に伝わる歴史書を閉じた。
神崎家は唯一正しき、純血の吸血鬼一族。初代姫神こと『神崎 魅羽』の血を引き継いでいる。

つまり、私で六十代目になる訳で。
何も女だけが姫神として崇められていた訳じゃない。私の先代なんて男性だったんだからね。
間接に説明すれば、神崎家の他にも純血の吸血鬼一族は存在していた。
それが…『神崎 魅羽』の夫である『御月 冬羅』。

と、まぁ…特殊な家系と云えば特殊なのだ。


「昔とは随分変わったわよね。祖父様…」


窓から射し込む月明かりを眺め、私は幼き記憶を遡るのであった。