当時はただのエンジニアとただの新入隊員で、実のところ同じ建物で働いていても接点はなかった。 その後も特に接点が生まれる予定でもなかった、と思う。
 冬島さんを紹介されるに至ったきっかけは「面接で似たようなことを言ったから」だった。採用面接のときに滔々と述べた戦術まがいの夢物語を、なぜか忍田本部長が耳に入れ、しかも割と気に入ったらしく、いきなり開発室に連れていかれることになった。
 確かに、似たような問題意識ではあった。けれどそれを達成するために考えた手段は違った。そのあとも、冬島さんのことを知れば知るほど、俺たちは似ていない、そう思う。
「じゃあなんで付き合ってんだよ」
 上家の諏訪が苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。下家の堤は普段と変わらない穏やかな表情で、しかし、回答を促すように頷いていた。そして対面の恋人は、長考せずにツモ切りして、緩み切った笑い方の口を開く。
「三年経っても独り身だったら結婚しようって約束したから」
 結婚には、まずお付き合いでしょうよ。冬島さんがのらくらと言った台詞に、「そうそう」と便乗する。
「だからなんでそんな約束になったんだって話」
 諏訪は牌を一旦置き、結局は捨てた。煙草の灰を落とす。
 俺は不誠実な回答であるのを承知で「どれだけ共通点があるかよりも、どんな共通点かが大事だったから」などと呟き、山へと手を伸ばした。
 自模った牌は不要なピンズだったが、冬島さんがニヤニヤしているので捨てたくない。流局間際、イーシャンテンの手にしがみついても仕方がないか。手を崩し、振り込まないことだけを考えて手出しの牌を切る。
 冬島さんの唇が動いた。ロンではなかった。
「『なんでそうなった』って言うなら、そもそも遠征で死んだ時の後始末をどうするかって話で、そうなっただろ」
「諏訪が訊いてるのは、後始末係の選び方の話でしょう」
 単語が物騒だと諏訪が口を挟んでくる。
「いや、恋人だろ?……後始末係?」
「元々はそう」
 冬島さんがそう言って、「下心もあったけど」と言い足した。わかんねえと諏訪が唸っている。手牌を見るときより真剣に唸られても面白いだけだが。中途半端な好奇心で話をふったことを後悔しているのがありありとわかる。
「冬島さんと俺にとって大事だったのは、束縛されないことと、仕事への理解、あとは、正反対の価値観を面白がれるかどうか」
 だから、この他は全部正反対でむしろ都合がいいんだよ。それが面白いんだから。
 意識してそうしたわけじゃなかったはずが、存外に、噛んで含めるような口調になってしまった。普段の東隊での講義が癖になっている。
 諏訪は後頭部をがりがり掻いて、「後始末係にも都合がいいって?」と食い下がる。
「好きなひとに、骨、拾ってほしいしなぁ」
「あーわかった、わかりました、あんたたちのは理屈じゃないってことが分かった」
 そもそもあの東春秋とあの冬島慎次が理屈じゃない恋愛してるってのが変。この期に及んで諏訪はまだうるさい。
「恋愛って理屈じゃないと思う」
 冬島さんが顎を撫でながら知った風な口をきく。
 ツモです、と、堤が牌を倒した。