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Guten Tag,Emil.(沢猿/ミスフル)

※「Gute Nacht,Emil.」から脱線ギャグ(笑えない)


 泥の中から這い上がるような速度で目を覚ます。猿野が遠慮なく欠伸をしながら両腕を真上に引っ張ると、机に伏していた間に曲がっていた腰がこきりと鳴った。しかし、聞こえない。同時に本鈴が鳴ったからだ。
「あー……今は……」
「今、五限開始」
「……昼休みは?」
「ねーよ。ほら」
 沢松が差し出した手には購買のパンが乗せられていて、猿野は寝ぼけ眼でそれを受け取る。
「唐揚げ定食は?」
「寝てたお前に買っといてやっただけでもありがたく思え」
「えー」
「つーかそんなメニュー最初からねーから」
 教師を兼ねた司書は留守、図書室を使う授業も無いと来れば、二人の格好の寝床となる。本来は飲食禁止である図書室で遅い昼食の包装を破いた猿野は、パンの端を銜えて喋る。
「つふぃのてふほろこほらふぇほ」
「そうだなー……前回十点だったし二十点でいいんじゃねーか?」
 猿野の発した不明瞭な「次のテストの事だけど」を正確に聞き取った沢松は、手元でシャープペンシルを弄びながら答えた。「遂に倍になったじゃないか、って褒められるかもしれねーぜ?」と笑顔で続けたところで、猿野はパンの半分を咀嚼して飲み込んだ。残りのビニールを剥がしながら、こちらも笑顔で答える。
「そりゃいいな。でもそろそろ傾向分かってきたしルール変えねえ?」
「まあ流石に今までの定期考査合計点が毎回十点きっかりじゃ怪しまれるな」
「七教科十科目だったよな? ってことで新ルール発表ー」
「おう」
「合計点は五百五十点」
 猿野と沢松が話しているのは、次の定期考査の点数に関する賭けについてのことだった。普通と違うのは、得点の大きさを競うのではないというところ。
 猿野は続けた。ただし、どの科目も点数は十の倍数であること。尚且つ、同じ点数を取る科目のないようにすること。
「五つの満点プラス一つの五十点とかは駄目で、十点刻みでとらないといけないってことか」
「そういうこと」
「怪しまれるぞ……」
「一回くらいいいだろ。あとさ、もう一個追加」
 猿野は言うが早いか、あと半分のパンに噛みついて、別の調理パンのビニールを裂いた。


「で、結局どうなったのさ」
 部室で、返却された猿野の成績表を見ながら兎丸が尋ねる。猿野は、苦虫を噛み潰したような顔をして、結果を口にしようとはしない。
「これ見る限り、兄ちゃんの勝ちだよね?」
「それがな……」
 猿野は言い淀む。十から百まで綺麗に並んだ印字がされている紙から目線を外した兎丸は、きょとんとした顔で続きを待った。
「もう一つ追加ルールがあったんだよ」
「賭けに?」
「ああ。仮に採点ミスがあっても、後から訂正された成績表の得点じゃなくて、純粋に返却された時点での点数で競うっていうルール」
「ミスがあったの?」
「ミスというか……」
 どこまでも言い淀む男に痺れを切らした兎丸は、猿野の腰をめがけてタックルを仕掛けた。
「ここまで来たら教えてよ!」
「あーあーわかったわかったからやめろ!」
 床に不安定な姿勢で崩れ落ちた猿野は、兎丸が自分の膝から降りるのを待って、それを話した。
「サービスされたんだ」
「へ?」
「あの人の性格を考えない俺が馬鹿だった……つまりな、満点取ったら、その科目採点した教師が感激して点数上乗せしたんだよ。もちろん成績にはつけてあげられないけど、気持ちだけ受け取ってね、とか言われた。俺は絶望した……他の科目で満点取った沢松はカンニングを疑われただけで済んだっていうのに!」
「うーんちょっと美談とは言い切れないね」
「だろ?」
 呻き声を上げて後悔に悶える猿野をちらりと見やり、兎丸は尋ねた。
「罰ゲームは?」
「女子更衣室にカメラを持って……」
「やっぱいいや」
 あんまり変わらないならいいじゃないか、と考え、兎丸は猿野を置いていく。



脱線に脱線を重ねて終着駅がとんでもないことになりました
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