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巳弥

普段より苦味は薄いが血の味がする舌。見かけに寄らず重い煙草を吸っている筈の口内が今日は別人めいている。一日中気が立っていたのは、いつもの銘柄を切らしたせいか、仕事のせいか。否、俺達の性だろう。苦笑すれば応えは舌打ち、だが粘つく舌は間髪入れず、また俺の舌に遭いに来た。


西堂は、文中に『髪』を入れて【歯止めが効かない】をイメージした140文字作文を書いて下さい。 #140SS shindanmaker.com
日替わり診断よりお題を拝借(ツイッター掲載時の文に加筆修正)

愛しきブラックスタンダード(目→門/嘘喰い)

 梅雨の晴れ間に死体処理。
 会員権の空きが一枠増えて、門倉立会人の手袋が一組駄目になり。いくら賭けの代償とはいえ、肉は裂けるわ血は飛び散るわで中々無惨な物だった。見慣れた光景ではあるのだが。
「お疲れ様でした、門倉立会人」
「お互いに」
 未だ血生臭い室内、温い微風。青い炎の冷気を拭って、平素の日々が戻ってくる。
 一息吐いたら、もうそれで、俺達はどこにでもいる男二人になった。現状を良しとして現状に収まる歯車が二枚。
「昼、食いっぱぐれたね。門っち」
「今更大儀ィのぉ……なぁ、メカ?」
 そうだね、と素直に同意。本当は、もう少しこうしていても良いと思った。無感動なはずの体内で芽吹いたものの正体を暴く為に。
 窓が切り取る狭い夏空に、入道雲宛らの呼出煙。熱が来る。喜ばしい酷暑の予感。


西堂は、文中に『晴れ』を入れて【好き】をイメージした140文字作文を書いて下さい。 #140SS shindanmaker.com
日替わり診断よりお題を拝借(ツイッター掲載時の文に加筆修正)

食って吐く道草(巳弥/嘘喰い)

(※一つ前の続き)

 本社に繋がっている所を皮膚の上から撫でる。入社した時に、確かこの辺りに発信器を入れたのだと聞かされたような覚えがある。体の下から声。
 触れてその形が判る訳でも無し、自分の肌を撫でてもつまらない。当たり前の事をわざわざ内心で言葉にして、縫合痕の残る胸や入院中に些か衰えた腹筋を撫でる。下敷きにしている男が不平を一つ呟いた。
 一通り撫でたところで体を遠ざけて、最後に繋がっていた所を撫でたら濡れた。
「ようやく降りたか」
 昼日中からの疚しい事を遂に咎めなかった彼は期待に反して優しかった。そろそろこの病み上がりを職場に復帰させねばならない。


西堂は、文中に『昼』を入れて【もどかしい】をイメージした140文字作文を書いて下さい。 #140SS shindanmaker.com
日替わり診断よりお題を拝借(ツイッター掲載時の文に加筆修正)

ただの寄り道(巳弥/嘘喰い)

「なぁ、これってデート?」
 自棄で訊いても返事は無い。
 立ち会いでなくとも申請さえすれば借りられる社の車。今日は多分爺ちゃんの手配だろう、弥鱈は「壱號立会人の使いで」とそう言った。後部座席で久しぶりにネクタイを締める。
 弥鱈は本社に行くと言ったきり喋らない。顔を覗いて舌を睨んでやる。飛ぶ前のシャボンが乗っている舌。ルームミラー越しに初めて目が合った瞬間、視線は逸らされて舌は口内に収まって、信号は青に。
 俺の想像に反してアクセルは平然と踏まれた。
「退院おめでとうございます」
 久し振りに喋った運転手は、本社とは逆方向にハンドルを切った。


西堂は、文中に『デート』を入れて【やりたい】をイメージした140文字作文を書いて下さい。 #140SS shindanmaker.com
日替わり診断よりお題を拝借(ツイッター掲載時の文に加筆修正)
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