劉、君の友人について私の知る全てを話す。こう言われた。
「正確に言うなら、君の友人が関わっていた集団について私が聞き出せたことの全て、ということになる」
かくして再会は成った。
まだ上の空なのか。そう思った。
ドアを開けると同時に「ただいま」と声をかけたが、夕飯の匂いがしている室内からは返答がない。いつもの金田なら「ただいま」に対して「私の家です」と律儀に訂正してくるのに。
「綺麗な顔が更に男前になってますね」
お疲れさまでした、と平素の笑顔で金田が近寄って来る。袂を探っていた手を出すと、氷嚢が握られていた。衝撃を与えると冷えはじめるタイプのそれをハンカチに包んで差し出される。いつ用意したのかは知らないが、受け取ると既に、充分な冷たさだった。
(※金田不在)
「決め手は、ずばり、何だった訳?」
フードメニューの仕込みをする店長に訊かれ、意識だけをそちらに向けた。
人生とは、道なのだろうと思っていた。よく聞かされる話だ。武の道、人の道。道を通るものに個の性質はなく、どの道に置かれ、または選び、どのように踏破したのか、あるいは立ち止まり、引き返したのか。道を通る“もの”でなく、“道程”が人生なのだと、そう思っていた。今でも、そう思っている。
(けれど、はじめて、所有したいと欲するものがあった)
上り坂を行く“私”という個に血が通い、脈を打つ。温度は私と外界を区別し、皮膚という輪郭でかたちどられた体が私の容をつくる。そしてただ一つ、似たような温度を持つ個人に触れようとする。その熱を、私の道行きに連れて行こうとして欲する。
先にレモンシャーベットを食べ終わった金田が、じっと俺を見ている。
私はもう眠っているのだと、氷室さんにはそう思われている。
にこにこ笑っている恋人の、その顔から読み取れるものは少ない。笑顔が基本だからだ。しかし今は、いつも通りの表情にこれでもかというほどの上機嫌を湛えている。それはもう、嫌になるくらい。
「上に四人もいるので、散々先輩風吹かされてきたんです」
だから自分が“吹かす”側になったようで楽しいのだと、金田はそう言った。