《子供の頃のボスとソラ男》

二人がまだ子供の頃、25年くらい前の昔。
この頃はまだボスこと司郎(しろう)は、“猫憑き”の能力で白猫姿に変身すると、サイズの違いで着てた服が脱げてしまうので、年下の従兄弟であるソラ男が脱げた服を運ぶ役を引き受けていた。

「……ツカサ、また寝ぼけて変身したの?」

ツカサとは司郎の「司」の字にちなんだ、ソラ男的ボスの愛称だ。

「うん、そうみたいだね。家の中だから知らない人に見られないようにと逃げる必要がない、という以前に寝ぼけてたから。布団の中の脱げた浴衣にくるまったまま、元の姿に戻ったから、ギリ、全裸になってないけどね」

「うん、そうだろうと思ったから。代わりの服を持ってこなかったよ」

「そうかい。でも不思議だね?どこで変身しても……ソラ男の目の前でじゃなくても、ソラ男が気づいて服を持ってきてくれるから、いつも助かってるよ」

「うん、……なんかね、ツカサが猫に変身すると、ぼくまで服が脱げて裸になったような感じがして。落ち着かない感じで、いてもたってもいられなくなるんだよ」

「共感性羞恥心というやつかい?」

「きょうかんせい……?」

「共感性羞恥心(きょうかんせいしゅうちしん)。誰かが恥をかいている場面や、恥知らずなことをしている場面を見ると、本人ではない、見ているだけの自分まで恥ずかしくなって、いたたまれない気持ちになる心理……心の働きのことだよ。
ソラ男はそれが強く働いているのかな?」

「なんだか難しいことを知ってるね、ツカサは」

「まぁ、僕……俺のほうがソラ男より5つ年上だし?」

「うん、でもその知識は、きっとぼくの父さんの受け売りだね」

「うっ、確かに継人(つぐひと)叔父さんに聞いたことだけど。ちゃんと理解した上で、だね、俺は……」

「うん、うん、わかったから……もう、寝よう?ぼく、眠いよ」

「そうか、俺が寝てるところを起こしちゃったようなものだからな。ごめんよ。おやすみ、ソラ男」

「おやすみー、ツカサ」

※※これはフィクションです※※