巨大校舎、胸に抱いた希望。

俺は目を細めてまた校舎を見る。
自分が憧れてた学園の生徒に選ばれ、仕事仲間から祝福され、嬉しくて仕事も前より数多くこなして、現在。
今から自分はこの「希望ヶ峰学園」の生徒。そう思うだけで笑みがこぼれる。


そして希望ヶ峰学園に足を踏み入れ…







目が覚めた。
何だろう、さっき校門に足を踏み入れた瞬間に視界が歪み、気づいたらここにいた。
ここは希望ヶ峰学園の校内だろうか。そして頭痛い。

「あの、起きましたか…?」

可愛らしい声。顔を上げると、俺の前には栗色の長い髪の女性がいた。

「…良かった。皆目が覚めてたのに、貴方だけ目覚めなかったから心配に」

彼女は安心したように笑う。
周りには、個性豊かな少年少女がいた。彼彼女等も、超高校級の肩書きを持つ生徒達だろうか。

「えと、ここはど」
「自己紹介遅れました。私は楠山京架、超高校級の女優です」
「きょっぴー、その人起きたー?」

質問しようとすると彼女は自己紹介を始めた。彼女…京架さんの背後から、ひょこっと小柄な女性が現れた。青いジャケットに、黒髪を赤いバラの髪飾りでまとめている。

「名前言ってなかったね、私は神楽坂千代。師匠ほどの腕じゃないけど、超高校級の殺し屋なのだ!」
「殺し屋……!?」

千代さんの言葉に一瞬血の気が引いた。

「私が殺し屋だからって、案外怯えなくて良いんだよー? ねー、みさきちー?」
「何だそのあだ名は」

白い軍服の男性。警察…いや違うかな。

「みさきちは超高校級の提督っていうんだよ。こう、敬礼するんだって!」

千代さんは元気に敬礼してみせた。そして彼が無表情のままこちらを向いたので、一瞬ビクッた。倒れたり、ビクッたり、忙しいな俺。

「俺は山口海咲、よろしく頼む。唐突だが戦艦に興味あるか?」
「え、いや、あまり……」
「そうか…でも、俺が一から教えてやるから安心しろ」

断りにくいなーと思って苦笑いで返す。あと安心できない。

「君も…ここに来た瞬間に意識を失ったの?」

振り返れば俺より低い身長の男性…いや、ショタっぽいから少年にしよう。正直言えば女子とか思った。

「そ、そうですけど」
「やっぱり皆同じなんだあ」

ここにいる人達は俺と同じように意識を失ってここにいる。何とも不可思議な現象だ。

「ああ、そういえば貴方の名前聞いて無かったっけ」
「俺…ですか?」

京架さんはそうと言うように頷く。

「えっと、望月麻人。超高校級のガンナーです」

俺が名乗ると千代さんがうげっ…とでも言いたそうな顔をする。ガンナーとかにトラウマでも…

「麻…あっくんは銃使うんだよね?」
「そうですけど…?」
「師匠が銃使うとか論外って言ってたけど、ううん、これは殺し屋としての進歩だと考えるのよ神楽坂千代…! あっくん銃貸して!」

疑問を抱きつつ、腰のベルトについてるホルスターから拳銃を取り出して千代さんに渡す。するとどうだろう。

「うっひゃあー!!! やっぱ銃とか無理ィー! 眩暈がぁ助けて師匠ー! 」

ブンッと腕を振って俺の銃を投げる。きっと千代さんの声とかでその場に全員が振り向いただろう。

「…え、ちょ、おい!人の物投げんな!!」
「銃とかホント論外だわー……あ、ごめんあっくん! 銃投げちゃった!!」
「良いですよ別に…」
「ごめんなさーい…あ、全然関係無いけどあっくんさっき敬語じゃなかったね」

さっきの発言を思い出してハッとする。思いっきり暴言みたいなの吐いてた、かあっと顔が赤くなってるのがわかる。本当何故あそこで平静を装えなかったのか…

「あは、あっくん面白いじゃん。私も大事な物や人傷付けられたらガチで殺っちゃうし。…まあ、お互い様っつーことだね!」

二カッと笑う。
憎めない人だなあ千代さんは。

『これは望月さんのですか…?』
「あ、ありがとうございます。…可愛い人形ですね」

女の子の人形を持った女性から俺の拳銃の受け取って、パッと思いついたことを言った。言ってしまった。…というか腹話術、っていうやつかな。
一方、腹話術師? の女性は急に腹話術のことを言われて混乱してる…のかな、まあそう見えた。

我に返った。なぜ、誰が、何のために、俺たちをここに幽閉したのだろう。何かのゲーム……それは違う。思い出せない。確か数年前ここである事が起こったはず。

突然、スピーカーからキィインという耳をつんざくような音がした。

「な、なんだ!?」
「きゃあああ!!」
『マイクテスー、マイクテスー、異常なーし!』

人間の声じゃないような声がスピーカーから聞こえる。
どこかの某青い猫アニメの…

『えー…新入生の皆さん! これより希望ヶ峰学園の入学式を執り行います!』

個性的な入学式だ。
誰もがきっとそう思って、安心している。警戒していた人たちは安堵した。

「…こんなの、私の知ってる希望ヶ峰学園じゃない……」

京架さんがボソッと呟いた。
俺はそれを聞き逃さなかった。
すると、ステージの教壇から何かが飛び出した……ぬいぐるみ?

「クマ……の、ぬいぐるみ」
「ゲコッ」

隣の猫帽子の少女と肩に乗ってる蛙が言う。

「ぬいぐるみじゃないもん! ボクはモノクマ、この希望ヶ峰学園の……学園長なのです!」

が、学園長…? これが……?

「えー、オマエラ! 御入学おめでとうございます。類稀な超高校級の才能を持つオマエラは、未来の希望です。…で、その希望のオマエラを保護するため……この学園で共同生活してもらいます!! しかも無期限!」

わけがわからない。
他の人も混乱したり、呆然としてたり。無期限って…

「ねえどういうことなのよ! 私達は…死ぬまでここで共同生活しないといけないわけ!?」

茶髪ショートカット、首からメジャーを掛けてる子が声をあげた。

「神崎さん! ここで一生を終えるのは嫌だよねえ。…でさでさぁー、ただの共同生活じゃツマラナイじゃん? そうじゃん? なわけで、オマエラはコロシアイをしてもらいまーす! うぷぷぷぷ」

全員は「はあ!?」という声をあげた。今ここにいる、超高校級の生徒達とコロシアイ!?
…いったい何のために。

「つまりー、『学園の中で一生暮らし続けること、外に出たければ誰か他の生徒を殺さなければならない』ってことだよ! 疑心暗鬼共同生活だね!」

誰かを殺せば外に出れるということだ。俺の仕事は戦場で人を撃つ、つまり殺すことだが敵意の無い相手は殺さない。
そんな仕事をしてるが、そんなことしてまで外に出たいとは思わない。他に何か、方法があるはず。

「ふーん、コロシアイ…殺し屋の出番ってことだねえ。ね、りっちゃん!」
「…皆、死んじゃうの、わたしも、そんなの……いやあああああああああああああ!!!!!!」
「わわ、落ち着いてりっちゃん! あのクマ公の言葉に惑わされちゃダメだよ! 殺し屋の出番とか言った私も悪いけど!」

千代さんにりっちゃんと呼ばれる赤い着物の子は泣き崩れた。
一般人に人殺ししろと言えば、そりゃ誰だってあーなる。

「…まっ、校則などの詳しいことはオマエラの生徒手帳に記されてるから、そっちを見るように。では、改めて…ようこそ希望ヶ峰学園へ!! うぷぷ!」

こうして誰も信じられない、まるで絶望に突き落とされたようなコロシアイ学園生活が始まった。







「あのっ…麻人くん!」

解散後、自室に戻る時に京架さんから声をかけられた。
何かあったんだろうか。

「京架さん…?」
「私はまだ思いついてないけど、コロシアイの他に脱出出来る方法あると思うの。食堂に皆集めて話し合ってみない?」
「話し合うか…いいかもしれませんね」
「よかった。じゃあ、私は女子の皆を呼んでくるね」
「あ、はい。俺は男子呼んできます」

京架さんはにこっと笑って、女子の皆を呼びに行った。
話し合いで、何か希望ヶ峰学園のことや脱出方法がわかればいい。そんな微かな希望を持っていた。




ちょうど同時刻、何者かによる最初の殺人事件の準備がどこかで進められていた。コロシアイが始まった。