『最近、この周辺でお金を騙し盗ったりする怪しい人が出るので気をつけてください』
下校前の校内放送を聞いてまず私が思ったこと、何言ってんの。
今の時代は殺人あるが、表を堂々と出歩く詐欺師がいるワケない。
私の詐欺師のイメージは、お年寄りに電話とかでATMの講座を云々。…うん、ごめん、勉強苦手だしニュースもあまり詳しく知らないんだったわ。
「怖いなぁ…詐欺師って今もいるんだね」
「いるワケないじゃん」
「雨音ちゃんは信じないの?」
「うん」
私は簡易に答える。
勉強や世間のことより体を動かすことが好きな陸上部の中学生、それが私こと一条 雨音である。
至って普通だと思ってる。でも、誰の影響かわからないけど握力は普通の女子よりは高く、たぶん足も速いはず。
親には暴力が無くなれば普通の女の子…いやちょっと待てや、じゃあ私は何なんだ。
「おーい、雨音ちゃーん」
「ごめんごめん別世界に飛んでた」
「思いっきり声に出てるし、もう皆下校しちゃったよ?」
思ってたことが途中から声に出てたらしい。私の友達以外が聞けばただのおかしい人、私の友達のゆるふわ女子田野真昼ちゃんことたまちゃんは私の癖を昔から知ってるので普通だと思ってる。
「というか、私真昼っていう名前なのにたまちゃんなの?」
「名字の田と名前の真を組み合わせてたまちゃん」
「ま、その名前は嫌いじゃないからいいけどね…」
とたまちゃんはゆるふわな苦笑い(どんな笑いだよ)する。
「よし、私部活行ってくるから。たまちゃんは今日部活?」
「ううん。手芸部休みなの。だから今日は篠田くんと買い物行くんだ」
「はいリア充乙ー」
「……へ?」
「なんでもないよ」
つい本音が出た。ごめん、たまちゃんに恨みは無いんだけどね。
「もう行くね、 また明日!」
「うん。ばいばい」
私は鞄を持って教室から足早に出た。同時刻、私の知ってる場所で異変が起こってるなんて今の私は知らないだろう。
「今日は意外に早く終わったなあ」
約十八時十五分。私、雨音は一人で呟きながら下校。
一人だけど警戒心は完全に無し。変な奴と会った時の護身術は心得てたはず。
ていうか詐欺師が街中を堂々と出歩いてるはず無い、とか現実的なことを考えてみる。…あ、コンビニで菓子買って帰ろうかな。
「そこの子、ちょっと良い?」
聞き慣れない声が背後から聞こえて振り返って身構える。
背後には二十代ぐらいの帽子を被った男の人。
「なっ、なんですか…?」
「今週末に公民館で映画やるんだ。あ、映画は『宮島、部活やめるってよ』なんだけどー」
「…それがどうしたんですか」
「映画が人気だったからこのチケット高いんだよねぇ。もうそろそろチケットも売り切れそうだし、君に割引であげようかなって」
男の人が持ってるのは私の見たい映画のチケット。だけど、何かなあ…うん。
「割引だから二枚で五百円! いる?」
「遠慮しときます」
「そっか……」
男の人はチケットをヒラヒラさせながら私の前から去ろうとした、はず。その人が
「それは残念だなあ」
と横で呟いた瞬間、急に寒気がした。何が起こったかわからずに菓子パン買うために小銭を財布から出して握ってた右手を開いてみた。するとどうだろう、五百円玉を握ってたはずなのにいつの間にかチケット二枚になっていた。
「まさかさっきの……!!」
男の人の姿を探したが見つからなかった。最悪、五百円盗られた。
「てか、あれが詐欺師なのかなあ……?」
もしかしてと思ったが私は気にせずに帰ることにした。
詐欺師の目撃情報を親と警察と先生に伝えとかないと。
*
「ただいまー」
「おかえり雨音」
「お父さん帰ってるの? あともう一足靴あるからお客さん?」
「あ、そうだ! 雨音に嬉しいお知らせよ。こっち来て」
上機嫌のお母さんに着いてリビングに行く。そこに入って、私の顔が引きつったのがわかった。
お父さんともう一人、お客さん…いや、さっきの詐欺師がいた。
「お、雨音じゃん! 久しぶりだな!」
「…へ!?」
「そっか覚えてないのか。この人はお父さんの弟、雨音の叔父の一条 橙真。お前が小さい頃よく遊んでた人だよ」
帽子をとってるけど確かにさっきの詐欺師だった。
「違うお父さん! この人……さっ、さささ」
「さ?」
「雨音はごぼうのささがきのことを言ってるんじゃないの? 家庭科の授業で習ったとか」
もちろんこの詐欺師が言ったことは違うが、一応誤魔化すためにそう! ごぼうのささがき! と言っておく。何を言ってるんだ私。
「お父さんと髪色とか目の色違うじゃん! お母さんならわかるでしょ!?」
「橙真さんは髪染めてるんだって」
「あは、試しに染めたら派手な色だったけど結構気に入ってるんで。あと目はカラコン」
「チャラい!!」
両親はいつも通りで詐欺師はにこにこ、私はご乱心。
「雨音、疲れてご乱心のところ悪いんだけど橙真がここに住むようになったから、お前の隣の元お兄ちゃんの部屋に案内してやって」
「よろしくー」
「うわあああああああああああああああ!!!」
一条家に私の叫び声が木霊した。
「おーい雨音ー、聞いてるー?」
「信じない信じない信じない信じない信じない信じないこいつが私の叔父なんて信じない」
「えーと」
「何よ!!」
一応返事をして詐欺師を睨みつけた。女子中学生の金の恨みを思い知らせてやろうか。
「いやまあ、ご立腹だから大丈夫かなーって」
「詐欺師よりは正常」
「元気そうだー。…つーか、俺の仕事、知っちゃってるんだね」
「詐欺師ってお父さんもお母さんも知らないんでしょ?」
「イエス。一応雨音の家庭教師って言ってる。と、言っても本業は詐欺師だけど」
今カミングアウトしたよね。
ちゃんとした証拠が出来た。いつでも警察に突き出せる。
「…声に出てますけど?」
「あ、やばい」
「別に捕まってもどーだって良いけどさー、とりあえず俺のやりたいことやったら出頭も考えてる」
「…そうなんだ……ごめん、私も言い過ぎ」
「え、何騙されちゃってんの。バッカじゃね?」
やっぱりこいつ嫌い。今までに貯めたお年玉使って殺し屋、あるいはよくわからないデリバリーアサシンっていうのに殺人依頼しよっかな。
「そうだ、詐欺師金返せ」
「へ? 何のこと?」
「だから! 今日コンビニ前で私から盗った金!」
私は真剣に言ってるのに、詐欺師はニヤニヤしながら戯けたように言う。
「詐欺師に騙される雨音が悪い」
まだニヤニヤしてる詐欺師に蹴りを一発喰らわせてドアの方に行く。くるっと振り返って、詐欺師をキッと睨む。
「私はあんたが叔父なんて絶対認めない!! 大っ嫌い!!」
部屋のドアを乱暴に閉めて、隣の自室に戻って詐欺師対策のために鍵を閉めた。
ふらーっとベッドにうつ伏せになって、枕に顔を埋めた。
「いいもん…私一人だけでも詐欺師から一条家を守ってみせるし」
明日にでも通報してやる。
そう決めたと同時にお母さんが私と詐欺師を呼ぶ声が聞こえた。
「奥さんの料理良いねぇ! そんな人と結婚できたなんて、兄さんも幸せ者じゃん」
「橙真さんは口がうまいのね!」
大人たちがあははうふふ言ってる間に私は黙ってお母さんのハンバーグを食べる。
話の間を狙ってカミングアウトするんだ、こいつが詐欺師だって。
「そうだ。今週の土日に時間があったら、雨音連れてどっかに遊びに行って良い?」
「じょっ…冗談じゃな」
「土日は午前部活で、午後からだったら良かったはず…だよね、雨音?」
「う…うん。あのね、お母」
「雨音はどこ行きたい? 県内ならどこでもいいよー」
詐欺師が私の言葉を遮る。何かわざとらしい。
ついに私の堪忍袋の緒が切れる寸前かもしれない。
「橙真は雨音のお兄さんみたいだなあ」
「そうなれば嬉しいけど」
「…いい加減にしてよ!!」
私がバンッ!と机を叩くと、両親と詐欺師は静まり返った。さすがにもう我慢の限界。
「大人たちはもう認めてるけどさ、私はこんな奴が叔父だなんて認めてない!! この変な人が伯父なら私は一条家との縁切った方がマシよ!!」
両親が引き止めようとするが、それを聞かずに一目散に部屋を出て行く。そして靴を履いて行く当ても無く家出した。
*
家出したのは良いけど、行く場所なんて決めてなかった。
「絶対あの詐欺師は叔父じゃない。認めない」
とりあえず走ってきた場所の近くにあった自動販売機のジュースを買うことにした。
財布には野口が一枚と、百円玉が六枚…ジュースぐらい買えるか。
百円玉二枚入れるとピッという音がした。ファンタファンタ…は、売り切れ。ミルクセーキで良いや。
「ねえ、そこの人」
急に声が聞こえてビクッた。
警戒しながら振り返ると二、三人の男の人、大学生ぐらい…かな。
「なんですか」
「君、あそこの中学の子でしょ。今あいてる?」
ナンパか。キモ。
「すみません、友達待たせてるんで」
「じゃあ友達も呼んできてよ。俺ら今からボーリング行こうって思ってて…」
「もうそろそろ門限なので友達と帰るつもりです」
振り切ろうとしたが、まだ話しかけてくる。しつこい。年上だろーが蹴ろうと思って足を動かす。
「あっるぇー、なーんで大学生二、三人が女子中学生と絡んでのー? まさかナンパとか? うっわあ引くわー」
どこからか声が聞こえたその瞬間に目の前の黒髪のチャラい感じの男の人が後ろに吹き飛んだ。
数秒で理解した、あの詐欺師が蹴り飛ばしたんだ。
そしてこっちを向いた。あの茶化すような顔じゃなくて、詐欺師の表情は真顔に近かった。
「雨音は下がってろ」
普段よりも少し低い声で言われたから私はビクッとして詐欺師の言う通り、後ろに下がった。
「はいどーもー、この女子中学生の保護者でーす。つーかさあ、うちの子にかまってる暇があるなら自分のことを心配すれば?」
「はあ? お前ケータイ見せて、通報するって脅すつもりか?」
「…あは、違うかもよ。そこの茶髪ピアス男、お前の自宅と思える場所が火事っぽかったけど、大丈夫なの?」
「証拠はあんのかよ!」
詐欺師は得意気にケータイを男性に見せた。それを見た男性の顔が青ざめた。…詐欺師の狙い通り容易く騙されたらしい。
「ほら、嘘ついてないでしょ? 俺は優しいから消防と救急ぐらいなら呼んであげるよ。お安くたった三千円で命助けてやってもいいぜ? あ、割り勘でいいよ」
男性達は本当に信じてるようで割り勘で三千円を詐欺師に渡した。
「確かに三千円受け取った。君たちは今できることをしといて。俺は消防呼ぶから」
詐欺師の言う通りに男性達は一目散に自宅の方向に向かった。
電話をかける"フリ"をしていた詐欺師は、いなくなったのを確認するといきなり吹いた。
「うっわ騙されてやんの! これ、あいつらの住所特定して写真撮って加工しただけなのに! 超傑作!!」
人の不幸を嘲笑ってる。何このガチ系の犯罪者。
「あ、雨音くん大丈夫ー?」
「詐欺師殺す。……というか来るの遅いバカ!!」
「なんだかんだ言って寂しくなってんじゃん。んー、まあ…心配させてごめんねー」
詐欺師を軽く叩きながら悪口を言い続ける。
「雨音探しに行く前に見つけたんだけど…これ、俺がお前の叔父っていう証拠ね」
一枚の写真。笑顔で写ってる小さい頃の私と、隣には制服姿の赤茶色の髪の男の人。
この詐欺師が私の叔父って本当だったんだ。
「加工…してないよね」
「するわけない。てか、小さい頃は本当可愛かったわー。今みたいに暴力はしないし、いっつもお前とお前の兄さんが『橙真お兄ちゃん』ってさー…」
「そんなこと言っても詐欺師に対する態度は変わらないから」
すると詐欺師は舌打ちをした。微かに聞こえたからね、聞こえてないって本人は思ってるつもりらしいけど。
「つーか、詐欺師っていう呼称はやめましょうや。雨音パパとママに俺が詐欺師ってバレる」
「じゃあ叔父さん?」
「俺まだ二十代だからね」
「えー、もうあれでいい。橙真さんでいいや」
「それで許してやろう」
詐欺…橙真さんは腕を組んで言う。よし、帰ったら飛び蹴りだ。
以上が、女子中学生の私と金好き破天荒詐欺師の叔父との日常の一日目だった。
*茅野反省会
泥棒少年と箱入り少女の初期物語の小説だったりします。Twitterで見たいって言ってくれた人いたので、調子に乗って書きました。
まだまだ続くはず。うん。
そして久しぶりに書いたから完全に鈍ってて日本語わけわからぬ。ニホンゴシャベレマセーン、エイゴモシャベレマセーン。アハ。
今回の微妙に長いタイトルはサブタイトル的なやつ。このシリーズの正式タイトル決まってません。たぶん、いつか決める。…考えてくれてもいいんだよ?((