スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

D とある警官と男子高校生の午後

世の中も本当、物騒なことになってきた。殺し屋だったり強盗犯だったり…と、警察もかなり忙しくなってきた。
俺こと霧島ショウは新聞一面に大きく書かれた昨晩の事件の記事に目を通す。昨晩の事件の犯人はこれまたキチガイで、ただのお遊びでやってる愉快犯。俺は呆れながらコーヒーを飲む。

「ショーウきゅぅーん!!」
「ぎにゃああああああッ!!?」

何かがタックルしてきて盛大に俺が腰掛けてた椅子ごと倒れる。コーヒーカップはすぐに机に置いたので割れることは無かった。

「うぷぷーのぷー、おっはよー。朝から可愛らしい悲鳴。さっすがわたしが認めたショタ警官」
「あのなあ! 毎朝タックルしてくるなって言っただろ!! というかこれ言ったの何回目だよ!」
「えーとぉ、六千五百」
「……もういい。次からタックルはやめろ、黒乃」
「ごめんなさいてへぺろりん。じゃあ、次からは背負い投げ」
「クビにされたいのか」

ふざけた態度の女性警官・黒乃(くろの)。誰にも本名は名乗ったこと無く…いつここに来たのかもわからない。俺がここに来る前はいなくて、気づいたらいたという感じなのだ。とにかく謎が多い。

「ショウきゅんは朝から仕事熱心だねえ」
「当たり前だろ。あの事件の解決を任せられたんだし」
「あの事件…何それ、美味しいの? マカロンの種類?」
「どうしたらマカロンの種類になる。これ読め」

とぼけてる黒乃に読んでいた新聞を投げつけた。
どれどれぇ、と呟きながら黒乃は新聞に目を通す。やっと理解できたようで、俺に新聞を返却した。

「あそこの美術館に怪盗が現れたんだ! いいなー、黒乃ちゃん見たかったよ。サイン貰いたかったよー」
「俺たち警察に相反する奴に憧れとか抱くな。昨日の怪盗は正真正銘の犯罪者だ」

今日の新聞の一面を飾るのは昨日現れた怪盗のこと。部下たちの目撃情報によると怪盗は若い男で、薄暗くて見えなかったらしいが首元に何かネックレスのようなモノを付けていたと。キチガイ…とは言えないレベルだと思うが、愉快犯という人間としておかしい部類の奴だ。

「…って、盗られたのは美術品だけじゃなくて上杉家のお嬢さんまでなのー?」

そう。そいつは、美術品だけではなく上杉家のお嬢まで攫った。その子はなぜそこにいたかは不明だが、きっと迷い込んでたのだろうか。昨日の夜、無事に帰ってきていて何もされなかったらしい。まあ…無事で何よりだ。
新聞を置いてコーヒーカップを取り、コーヒーを飲み干した。正直今日のコーヒーは苦い。

「ショウきゅーん、中二病みたいに無理してブラックコーヒー飲まなくていいんだよー? カフェオレにしよっかぁー?」
「うるさい黙れチビだからって子供扱いすんなこれでも社会人だ」
「わたしより年上なのに低身長って、クッソワロタ」
「滅べ」

黒乃はうぷぷーと笑ってクルッと回る。そういえば、朝から仕事があったのを忘れていた。

「俺、仕事入ってるからお喋りはここまでだ」
「そーなのー? とりま後でねぃ」
「…あ、一つ前から気になってたことがあるんだが」

なあに? という感じで黒乃は首をかしげてた。

「お前は…一体何者なんだ?」

俺がそう聞くと黒乃はおもむろに考えてるようなポーズをして、ポンッと手を叩く。

「警官兼通りすがりの魔法少女」
「現実見ろ」
「ま、気にしなーいのだよー。お仕事いてらー」

手を振る黒乃に背を向けて部屋を出る。今日も霧島ショウという名の警官として、一日が始まる。







仕事…と言っても地域のパトロール的なやつ兼散歩である。別に昼間は突飛な事件とか起こることないし(あるとすれば時々隣町で殺人事件)、夜は時々。放火とか怪盗とか殺し屋とか…そういう類の事件。とりあえず、昼間はほぼ平和すぎて退屈。
何か起こらないかなー……と考えながらぼーっと歩いてると前から走って来た人と思いっきり正面衝突した。

「…った……!」
「…おい、大丈夫か?」

ぶつかったのは金髪に学ランの少年…この制服は近くの高校やつだ。しかし、今は授業中だと思える時間帯なのだが、なぜ男子高校生がこんなところにいる。

「お前……近くの高校の生徒だよな…?」
「そうだけど。…つーか、こっちも聞きたいんだけど中学生が何でこんな時間帯に」
「誰が中学生だクソガキ。俺は正真正銘23歳の警官だ」

俺が警官バッチを見せながら言うと、高校生は俺の顔を見て引きつった顔になった。初対面だけど腹立つこのクソガキ。

「…その身長で社会人とか」
「小声で言ったつもりだろ。残念、丸聞こえだ」
「…チッ……国家の犬が」
「ちょうどいい機会だから…喫茶店で話すか。いや尋問するか」
「なんか初対面の人に喧嘩売られたんだけど」

俺は高校生の言葉を無視して近くの喫茶店に連れて行った。
本来ならばサボりの生徒は学校に帰さないといけないが、まあ、こいつのことだからまた抜け出すだろう。いろいろ説得した後に帰すか。

「とりあえず、名前は」
「プライバシーの侵害になる」
「なめとんのかおい」
「……しゃーない。イツキ、それが名前」
「名字はそっちが名乗らなかったから…いいか、俺はショウ。お前も知ってると思うが警官だ」

イツキと名乗ったクソガキ高校生は怠そうに目を逸らす。あ、聞きたいことがあって、ここに連れて来たんだった。とりあえずカフェオレを自分とクソガキ高校生の分を頼んで、話を始めた。

「…今日はサボりか?」
「まあ、そーいうことになるな」
「高校の教師とか友達が心配してると思うぞ」
「サボりの常習犯っていうことは教師も知ってる、友達にはもうサボるって言ってある」

どんだけ学校サボりたいんだよ。

「そんで、どっかで寝ようと思ってうろついてたら先生に見つかって、逃走してる時にショウさんという国家のい…警察に会った」
「お前……警察に何か恨みがあんのかよ」す

別にー、と言ってイツキはスマホをいじり始める。態度悪すぎだろ、どんな教育をしたらこんなクソガキ男子高校生になる。

「じゃあ何故サボり癖がある」
「…理由になるかわからんけど」

イツキは無表情のまま確かにこう言ったのだ。

「平和すぎて退屈だから」

その言葉で一瞬で全てが止まったような気がした。どう考えても、高校生が言うような言葉ではなかった。俺も退屈だとは思ってるが、こいつは本心からこの世を退屈だと思ってる。まるで、一回でも犯罪をしたような言い方。たぶんこのクソガキ高校生はしてないと信じたいが。

「まさかと思うが犯罪はしたこと無いだろ?」
「してたら今高校に通えてない」

一応聞いてみると安定の答えが返ってきた。俺とイツキの会話が一時途切れた時、注文していたモノが届いた。

「…あとで金払えっつーオチは無いよな」
「今回は俺が奢ってやる」
「やるじゃん国家の犬」
「年上は敬えと教えてられてねーのかよクソガキ」
「中学の道徳とか寝てた」

変な奴…それを通り越してキチガイか。最近キチガイ多すぎだろ。
この前は仕事を一緒にしたどこかの探偵、名前…忘れた、まあ探偵が給料三ヶ月分の指輪と手紙を送り付けてきた。今すぐ返事として逮捕状を出そうかと本気で思った。殺人事件が起こって現場に向かってる途中で偶然出会した、歩きながらケータイしてるロングコートを羽織った男に探偵から送られてきた謎の指輪をパスした。その男の妹か何か知らんが女子高生が後ろできゃーきゃー言ってたのは覚えてる。
とりあえず、話を戻す。

「隣町の高校の女子生徒が怪しい人といる…と聞いたが、お前は変わった様子を見てないか?」
「それっぽいのはいた。この前学校の帰りに、真顔でブランコ乗ってる変な男と女子高生らしき人物見た」
「……男の方は成人だよな…?」
「たぶん」

イツキは曖昧な答えを返す。つーか、変人多い。

「警察さーん、帰ってもいいー? あと奢りよろしくー」
「ちょっと待てや。まだ尋問終わってねーよ」
「国家の犬の仕事になんて付き合ってられねーし。第一、そういう系嫌い。今後一切関わることが無いことを願うぜ」

席を立って俺の横を通る時にそいつの片手首に手錠をかけた。
イツキは一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに俺をキッと睨みつけて手錠を外そうとした。

「何のつもりだ」
「どうせ暇だろ。なら俺の捜査を手伝え」
「ゲーセン行ってきます」
「暇じゃねえかクソガキ」

手錠を外すとイツキは舌打ちをしたり文句を言いつつも元の席に戻った。

「で、ショウさんの仕事っつーのは何ですかー?」
「今朝のニュースのやつだ」
「何それ」

イツキは知らん、と言いたそうな表情で答える。今朝のニュースといえば誰でもわかるだろうと思っていたけど。

「昨夜の事件。それのことだ」
「あー、はいはい。昨夜の怪盗さんのことね」

興味なさそうに言う。
最近の高校生はニュースとか新聞とか見ないんだろうな。

「美術品を盗った挙句上杉のお嬢にまで手を出しやがった。こっちにもちゃんと対策もあるし…」
「明確な計画立てれば?」

イツキは少し真剣そうな表情で言う。さらにまた続けて話し始めた。

「あっちにも何か考えがあるはず。それを推測して動くのが良いんじゃね?」

なるほど、と思いながら聞いてると突然ケータイの着信音が聞こえた。…あ、上司からだ。

「もしもし…」

上司は俺と確認して、早々に用件を伝えた。その用件を聞いた俺は薄く笑った。…あいつを捕まえる機会が増える。

「どうした?」
「警備の仕事を任された。…そろそろ次の仕事があるから帰るぞ」

俺が席を立つとイツキもいじってたスマホをしまって立ち上がった。俺が会計してる時、イツキは外に出ると同時になにか言った。小声だったが確かにこう言った。

「まあ、せいぜい頑張れよ。霧島さん」

名字は名乗ってないはずなのに、あいつが俺の名字知ってることが疑問だった。
まあ、どうでもいい。知られても問題は無い。俺は次の仕事のために足早に外に出た。







静かなフロア。
そこにいるのは警察の俺と例の少年怪盗の二人。
やっと追い詰めてこっちの方が有利な状態だが、あいつは追い詰められてるというのに余裕そうな顔つきだった。
そして場の空気を破るようにそいつは挑発的に言った。

「さて、そろそろ決着をつけようぜ。……霧島警部!」
続きを読む

C 泥棒少年窃盗遊戯

俺はわざと姿がバッチリ見られるようなところに立つ。
暗いけど、相対してる奴等が数十人いることがわかる。
……そろそろ、だ。

「そこで何をしてる!!」
「はいざーんねん。一歩遅かったぜケーサツ共」

ガラスケースを壊して手に入れた美術館の展示品である結晶をおもむろに見せる。

「お、お前……怪盗か?!」

一人の警察の言葉でフッと薄く笑ってしまった。

「怪盗、怪盗ねぇ……今までは一般人のモノを盗ってた普通の『泥棒』だったけど、美術館でこーいうのを盗る『怪盗』もいいかもしれないな。まあ、どっちも窃盗を犯す仕事だけど」

結晶をおもむろに見せたまま言う。警察の方々は動揺してくれていて、すごく面白い。

「んー、俺も何か目的があってこれ盗んだワケじゃないけど、何というか俺の『遊戯』だけで盗んだ。納得できます?」
「誰が納得するか愉快犯!」
「さて、在り来たりな台詞でも言っとこうか…これ、返して欲しければ俺を捕まえてみろよ」

そう言って、踵を返し一目散に走って逃げた。
後ろから追う足音が聞こえてくる。
一人の警察が追いつきなんとか俺を捕まえようとしたが軽い足取りで避け、曲がり角をうまく使って一時的に警察を振り切った。

「…これ、本当に価値なんてあるのかよ」

盗った結晶を見て、ぼそっと呟く。そういえばチヒロはうまく逃げてるだろうか。
やり過ごせているかあるいは警察に見つかってるか……。
悩んだ挙句、きっとまだ館内にいるであろうチヒロを探しに行くことにした。
影から様子を伺うと警察の方々が一生懸命捜索中だった。ここで出るとか自殺行為になりそう。

「…えっと…あのっ………!」

聞き覚えのある声が後ろの方から聞こえて振り返る。やっぱり、チヒロが見つかっていた。
想定外のことでチヒロは焦って目を逸らしたりしていた。

「なぜ上杉家のお嬢がこんなところに…? ま、御両親に迎えに来てもらうように連絡するから、署まで来てください」
「や…嫌ですっ…!」

警察の手を振り払うようにチヒロは後退りする。
こうなったときの対策方法ぐらい考えてるが……実行してみるか。
そう決めて、俺は素早くチヒロと警察の間に入って警察に不敵な笑みを見せる。

「いたぞ!」
「たちば……きゃっ…!」

突然の出来事で困惑しているチヒロを抱きかかえ、さっき把握しておいた脱出ルートへ逃げる。そのまま逃げるのは面白くない、そう思って警察が集まってるところを見る。

「…美術品と上杉のお嬢は貰っていくぜ」

そんなよくあるような台詞を言って外へ逃げる。
美術館から少し離れた大通りの路地裏に逃げ、未だに困惑中のチヒロを降ろす。

「ありがとうございます、橘さん」

チヒロは感謝の言葉を述べたが俺はギロッと睨む。そんな俺を見て「ひゃっ…」とチヒロは怯えた声色で言った。

「…あのなあ、お前ホント世間知らずのアホか! のこのこ警察の前に出た挙句、すぐに見つかるとかただのアホだろ!! あと、あそこで俺の名前呼ぶな。名前がバレるだろーが」
「ひゃあぁ…すみません……あ、橘さんお一つ質問です。あのどこぞの怪盗が言うような台詞は何なんですか?」

空気読め世間知らずお嬢、と俺は思った。

「…思いつかなかったんだよ。わ、悪かったな…! あれ、言うの結構勇気いるぞ」
「確かにそうですね」

チヒロはクスッと笑う。
このお嬢にはわかりはしないと思うが、あの台詞言うにはは結構度胸がいる、言ったやつは勇者と言ってやりたいぐらい。

「橘さん、まさかと思いますが姿は見られてませんよね…?」
「大丈夫だろ。暗かったし、しかも前髪で左目隠れてた。さすがのケーサツ達も俺の顔見れてないだろ」
「指名手配、とかされるんですかね? なんか今回は怪盗らしいことしたんですし」
「指名手配とかごめんだ。俺の嫌いなケーサツと探偵が関わるから。しかも名前知られてない」
「この際だから、怪盗ネーム的なのを名乗ればいいんじゃないですか? 橘とかの」
「嫌」
「…ですよね」

そもそもチヒロだけに教えてる『橘』という名前は、もろに本名入ってる。というか俺は名乗らない主義。

「それより、ここどこですか?」
「大通り。ゲーセンとかそういうのがあるところ」
「ゲーセン! 面白そうですね!」

チヒロが目をキラキラとさせて俺を見る。……少しぐらいなら、いっか。財布に小銭ぐらい入ってたはず。

「時間あるからいけるか…23時には家に帰さないと、お前の親がケーサツとか探偵呼ぶだろ?」
「そうですね。…では、そうと決まれば早速行きましょう! 私、初めてなので楽しみなんです」

お嬢にとって庶民の遊び場がそれほど楽しみなのか、チヒロは俺の手を引いて一直線にゲーセンに入っていった。







入ってすぐに人が絶叫しながらゲーセンを出て行った。しかもその人は巫女服の男。そいつは「琴羽とゲームするのもう嫌だあああああああ! 俺のプライドズタズタああ!!」と叫んでた。…一体何があった。

「橘さん、ゲーセンって傘売りの人もいるんですね」

チヒロの方を振り向くと、UFOキャッチャーの前のところで持参物であろう敷物に座って傘を売っている少女…がいた。近未来大名って、漫画の読みすぎだと思う。

「おいそこの者」

傘売りの少女に声かけられた。

「近未来大名・柚葉の傘…今なら割引きにするが、どうだ?」
「あ、遠慮しときます」

断っておいた。その少女が不満げな顔をして刀を抜こうとしていたが、見なかったことにしてチヒロを連れてその場を去った。

「類稀なる電脳銃士よ! 禍神様に愛されし俺から、決闘を申し込む!!」
「決闘! 面白そう、やろやろ中二くん!! で、何で勝負するの?」
「格闘ゲームだ!! 俺が勝ったら禍神様を信仰してもらうぞ!」
「オッケー。もしあたしが勝ったらー…今夜オールナイト休憩なしでゲーム完全攻略に、付き合ってもらうよっ!」

格闘ゲームのところには中二発言する少年と電脳銃士と呼ばれてる少女がいた。

「琴羽さんのオールナイトゲーム完全攻略、楽しそうですね」
「やめとけ由茉、あれは琴羽以外のやつがやったら死ぬ。この前は暁が餌食になってたから」
「もー、人聞き悪いなあサクヤ兄! 暁生きてるじゃん!」
「今はな。あいつ、お前の餌食になったあと目が死んでた」
「あのあと暁、ちづるに甘えてきてうざかった」
「ちづるさん、毒吐きまくりですね。あ、そういえば暁さんどこに行ったんでしょうね…?」
「しょうがない。ちづる、暁探してくるね」

そんな会話をしていた学生達の会話を聞きながら俺は金の両替をしていた。

「今日は学生が多いですね」
「変な奴もいるから気をつけろよ。時には不審者っぽい人も」
「犯罪者の橘さんが言えることでは無いと思います」
「はいはい」

両替した金を財布にいれて、ポケットにしまった。

「あ、橘さんあそこのやつやりたいです」
「UFOキャッチャーか」
「あの人形のやつです」

チヒロが指差した先には二足歩行の猫が景品のUFOキャッチャー。猫が二足歩行はあり得るはずな…あるか、モンハンのアイルーは二足歩行だった。でも二足歩行の猫は違和感がある。

「まあいい、やってやるよ」

財布から百円玉を出して入れる。
どうやって取るかの知識はあまり無いが勘で操作してみる。

「おお……! そう動くんですね」

チヒロが関心してるが、もちろん取れてない。掠ってもない。
実を言うとUFOキャッチャーは、友達に任せてたからあまり経験は無い。

「難しいんですね…」
「おい、お前!」

急に声が聞こえて振り向くとさっき絶叫しながらゲーセンから出て行った巫女服の男だった。

「俺がやってやるから代われ」

巫女服の男は俺が持っていた百円玉を取って、慣れた手つきでUFOキャッチャーを操作した。
その男は簡単に景品を取った。プロかと思った。

「ほら、やる」
「あ…ありがとうございます!」
「暁! やっと見つけた…!」
「…お、ちーづーるぅー!!」

俺が礼を言おうとすると巫女服の男は少女の方に走って行った。
………変な奴。

「可愛いですこの人形」
「そ、そうか…?」
「はぁー、もう満足です! 眠たいので家帰りましょう」

チヒロは眠たそうに欠伸をする。
まあ、お嬢は夜遊びに慣れてないからしょうがないか。
チヒロに帰ると声をかけて、主に学生達で賑わうゲーセンを出る。




「…まだ親、仕事中っぽいです」
「そうか。なら良かった」
「今日はここまでですね」
「ああ」
「それでは、おやすみなさい泥棒さん」
「おやすみお嬢。また今度な」

二人でクスッと笑いあって、別れを告げた。
今夜も長い泥棒としての時間が終わった。特に今日はスリルを味わったり、夜遊びしたり…

盗んだ結晶を眺めて今日のことを思い出し、微笑する。
続きを読む

B 泥棒少年・箱入り少女、ミッション始動

「…こんばんは、橘さん。お会いできて嬉しいです」
「今、親いるのか?」
「いますけど下の書斎で仕事中です」
「…俺のために起きてたのか?」
「はい。きっと橘さん来てくれると思って」

今の時刻は22時をすぎたところ。お嬢ならこの時間帯は就寝中だと思ってたが、このお嬢は意外に遅くまで起きていた。

「お仕事は終わりましたか?」
「いや、まだこれから。さつきまで今回狙うモノの目星を付けてた」
「へぇ……どんなモノを盗るんですか?」
「こいつだ」

スマホに保存しておいた標的のモノの画像とさっきまとめた情報のメモをチヒロに見せた。
チヒロはしばらく俺のスマホの画像とにらめっこして、驚いたように小さく声をあげる。

「もしかして…今あの美術館に展示されてる作品じゃ…」
「そう。もしこれが盗まれたらケーサツとかがどうなるか想像して、面白そうと思ったからな」
「もろに犯罪ですね」

チヒロはさらっと言ったが、その言葉に動揺せずに俺は自信ありげにチヒロに問いかけた。

「…俺の仕事、なんだと思ってるんだ?」
「ふふっ……『泥棒』でしたね」

頭の回転が早くて助かる。
そろそろこんなところで立ち寄って話をしてる時間は無い。
話を切り上げて仕事…俺にとっては遊戯の場所に行こうとすると、チヒロは悲しげに呟いた。

「橘さんのように自由に外へ出ることが可能の人って羨ましいですね……」
「勝手に出ても大丈夫じゃね?」
「いえ、勝手に出ると親が警察に電話するし…他の方にも迷惑がかかるので」
「お人好しだな」

そう言いつつも、俺は考えてた。
これから俺とチヒロが会う時間帯は外の世界のことを教えてやろうかとか。
でも、万が一ケガでもしたら俺の責任。何せ生粋の箱入り娘のお嬢を危険な目に遭わすワケにはいけない。しかも時間帯的に不審者(俺も十分不審者だが)がいたりする。それで俺は悩んだ。

「一度、旅行も行ってみたいですね。親の反対を押し切ってでも」
「チヒロ、外の世界に慣れるため……的な感じで俺の仕事、一緒に行ってみるか?」

ダメもとで言ってみた。
すると、チヒロは嬉しそうに頷いた。

「い、良いんですか!? でも足手まといになっ…」
「今のうちに慣れた方が良いだろ? 世間知らずのお嬢になるぞ」
「せ、世間知らずとは失礼ですよ橘さん!」
「まあ、行くなら準備しろ。あとお前の想像以上に外の世界は複雑だぞ」

はーい、とチヒロは返事してクローゼットから靴を取り出した。
学校以外では外に出ないから外出用の靴はここに置いてるのか、と察した。まあ、手間が省けるからいいか。

「準備終わりましたよ。部屋のドアはオートロックになってるので、たぶん大丈夫です。寝てると勘違いしてくれると思います」
「すげえな。さすが上杉家」

一応褒めた。

「さてと、行くか」
「はい。………って、どこから行くんですか?」
「ここから脱出」
「…えええええええっ!!?」

2階のチヒロの部屋から飛び降りて外に脱出すると言ったらチヒロは驚いた。普通、お嬢はこんなことしないからな。

「…怖いのか?」
「正直言えば、怖いです」
「しょうがない。ちょっと失礼」

俺はチヒロを抱きかかえて2階の窓を開けて桟のところに乗って、そして飛び降りる。

「きゃああああああっ!?」

足に少し衝撃がきたがなんとかいつも通り着地。

「大丈夫か?」
「ええ。新しい感覚でした!」

チヒロがにこっと笑う。
ホントに大丈夫かこのお嬢は。

「夜道には気をつけろよ。キチガイ殺し屋とか超弩級ロリショタコン探偵がいたりとかするからな」
「橘さん、呼び方が失礼ですよ。てか、その人たちになんか恨みでもあるんですか?」
「内緒。けど、近くでその人たちと関わってる女子高生の噂があるから」

俺の話にチヒロはにが笑いだった。キチガイ殺し屋さんと超弩級ロリショタコン探偵さんには恨み無いけど、探偵と殺し屋っていう響きが嫌。そもそも探偵とかケーサツとかそーいう系苦手。

「さっさと盗って帰るぞ。お前の親がケーサツとか探偵に連絡する前にな」

チヒロの手を取って、暗い夜道を辿って目的地へ向かった。







目的地の美術館。
チヒロは初めて見る実物の美術館に興味を示していた。

「すごいですね! えと、これってもう閉館してますよ?」
「そんなことはどうでもいい」

チヒロが美術館に感動してる間に俺は関係者以外立ち入り禁止と書かれた裏入口を見つけた。ここらへん無防備すぎる。
チヒロを連れてそこから入ると、早速防犯カメラを見つけた。

「橘さん、あの防犯カメラは電源を切ればいいと思います」
「そうだな。とりあえず、さっきPCルーム的なのがあったし…やってみるか」

そしてPCルームに入ると誰もいない。やっぱ、防犯カメラの電源はここか。

「やるか」
「橘さん解除方法わかるんですか?」
「俺なりの強制解除方法だが」

懐からジャックナイフを取り出して防犯カメラの電源と思われるコードを断ち切る。
手に少量の電流がきたが、一応防犯カメラは全て停止したっぽい。

「…った……!」
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ、一応な」

すぐにPC室を後にする。
俺が歩くの早いのか、チヒロはパタパタと軽く走って追いかける。

「…緊張しますね」
「俺は緊張っていうより楽しみだな。盗ってケーサツ共混乱させよーぜ」
「橘さんキチガイです」
「うるせえ」

何気無い会話をしているうちに標的のモノがある場所に着いた。標的は特に欲しいワケでも無いが、なんか高そうな結晶。貴重品らしく周りにはロープが張られている。ガラスのケースも防犯対策がされてそう。

「またジャックナイフの出番ですか」
「当たり前だろ?」

標的を囲むロープをジャックナイフで断ち切って人が入れるようにした。

「あとはガラスを破壊して盗るだけ……っと」
「頑張ってください橘さん」

ガラスは指すにジャックナイフでは無理。
よし、蹴りで壊すか。
俺は少し距離をとって標的に被害が出ずガラスを壊せそうな位置まで移動する。
狙いを定めてかかと落とし。
案外簡単にガラスは粉々になり、標的もすぐそばにあるがガラスを少し浴びた。
その時だった。

「きゃっ…!? た、橘さん、警報鳴ってますよ!」
「おいおいマジかよ……!」

けたたましい警報が鳴った。
俺に危機感。なんて感じなかった。
寧ろすごく楽しみ。やっと本格的な泥棒ができる。

「やばい。すっげぇ、スリルがあって楽しみなんだけど…!」
「な、何言ってるんですか…?」

俺は冷静な素振りのまま、チヒロに伝えた。

「チヒロ、美術館のどこかに逃げて隠れてろ」
「ダメです! 橘さんも逃げましょう!」
「俺には作戦があるから大丈夫」


近づいて来る大勢の足音に俺は心臓が高鳴って、楽しみなのを抑えきれず思わず口角があがる。
続きを読む

A 泥棒少年ハイスクールライフ

俺とチヒロの間で少しの沈黙が続く中、俺のケータイが鳴る。
LINEだ。友達が俺にメッセージ送ってきたんだ。
あいつ、今俺が家いると思ってるんだったけ。実は不法侵入なうだけど。

「橘さん、何ですかそれ」
「LINE。あれ、よくCMで告知してるやつ」
「……うーん、知らないです」
「…マジで?」
「はい。私、ケータイ持ってないので」

高校の近くにある中学では、下校時に腹立つほど慣れた手つきでスマホいじってる奴ばかりなのに、チヒロはLINEもスマホも知らないとか。

「…チヒロ、お前は『箱入り娘』ってやつか」
「なんか世間知らずみたいな言い方ですね」

チヒロは拗ねたような表情で言う。ただの大人しいだけの箱入り娘だと思ってたけど、少々気が強いらしい。

「お前の親、絶対過保護だろ」
「わかりませんが…ここの地域での行動範囲は決められてます。あとはー、学校からの帰宅は執事さんが来てくれてます」

チヒロが正真正銘のお嬢だということが判明した。

「やっぱりお嬢だったか。俺みたいな凡人に縁の無いような」
「そうでしょうか? こうやって橘さんと会ったのも何かの縁、だと私は思いますよ」
「ふーん」

俺は興味無さそうに答えた。

「さて、何か盗って次のところ行くか」
「あら。まだ盗ってなかったんですか?」
「お前の相手してたからな」
「盗ったら警察に電話しますよ?」
「うわ、裏切りやがった」

冗談混じりで言うと、チヒロはうふふと笑って冗談です。と言う。実はケーサツより恐い奴かもしれないとかありえる。

「で、何を盗るんですか? 一応親には黙っときますけど」
「うーん、そうだな……チヒロ、とか。まあ、ただの冗談だけどな」
「若干引きました。警察呼びたいです」
「おい待て冗談って言ってるだろーが」

軽くデコピンをする。
チヒロは痛っ、と小さく呟く。
俺が単独で盗るモノを探しに行ってる時、チヒロは面白がってるようについて来る。強気、というか若干腹黒いなこのお嬢。

「特に盗るモノ無し。しかも、ここいるのは警戒心の無いお前だけで面白くない」
「意外に酷いこと言うんですね」
「まあ……もう、既にお前から盗ってるからな」

チヒロが尋ねる前に、俺が付けてる黒い十字架のペンダントを見せた。それを見せると、チヒロは理解したようだった。さすが、元所有者。

「…確かに盗ってましたね」
「というか、これはチヒロが渡したからだろ」
「まあ、渡す人とかいないので橘さんにあげますよ」
「もしかしてだけど友達、いる?」
「失礼ですね。学校に友達くらいいますよーだ」
「そっか。なら良かった」

チヒロと立ち話していると、玄関の方から誰かのチヒロを呼ぶ声が聞こえた。
俺は思わず反射的に身構えた。

「誰か帰って来たか…?」
「……お母様が、帰宅したんだと思います」
「俺帰るわ。じゃあな、お嬢」
「…ふふっ、今日はさようなら。泥棒さん」

近くの窓から脱出する。
遠くで手を振るチヒロの姿が見えなくなっていた。母親に呼び出されたんだろーな。
裕福な家庭のお嬢が凡人の泥棒と関わったことあるなんて、チヒロの親が知ったらどう言うのか。
とりあえず、暇つぶしに何か盗ろうと思ったがもう気力無いから帰ろ。明日はかなり高額なモノ、盗ってみようか。
今日は早めに帰れた。親はまだ俺の行動知られてないから、置手紙に書いた通り、友達のところに行ってたと思い込んでるからセーフ。こうして、常識人には理解出来ないような俺の日常が終わる。







「イツキー、おーい、起きてるかー?」
友達の声で現実に引き戻った。
昨夜のことを考えてたら、いつの間にかボーッとしてたらしい。

「お前、珍しく授業中も喋りかけてこなかったし、ノートも全然とってねえじゃん。熱でもあるか明日大雨か」
「……ひでぇなおい」

何気無い会話で少し盛り上がる。
これはいつも通りの光景だ。

「なあ、今日CDショップ行こーぜ」
「いい…って、お前最近部活はどうしたんだよ?」
「最近行ってないな」
「大丈夫かよイツキの部活…」

俺が所属する剣道部、部員も俺含めて七人ぐらいしかいないし(その中の一人は初心者)顧問も剣道の経験の無い素人で、しかもテニス部と剣道部の顧問してる。顧問はテニス経験者なので、だいたいはテニス部の方にいて、剣道部は自主練が多くある。真面目に頑張る奴もいるが、俺は基本的に竹刀で素振りだけして帰る。
試合とかあまり無い。俺が真面目に練習するのは試合が近くなった時だけ。

「いいのか? 部活サボって」
「別にいい。めんどくせぇし」

他の生徒は部活だの帰宅だの忙しそう。
俺、カバンを持ち友達と足早に教室の外に出た。



行きつけのCDショップ。俺は一直線に好きなバンドのコーナーへ行く。最新のやつを手にとって収録曲を見る。
さすがに、友人がいる時に窃盗はしない。

「イツキ、ホントそのバンド好きだよなー」
「中学生の頃からハマってる」

と、少し話して会計のところへ行く。今日はCD買う時のために貯めていた金を持ってるから問題無し。
会計を済ませて、CDショップの外を見ると見覚えのある制服姿の少女がいた。一瞬、疑ったが確かに……あれはチヒロだ。
一人であそこに立ってるんだから迎えでも待ってるのか。
声かけても無駄、とはわかっていた。あいつは俺の高校生としての姿を知らない。

「あいつは俺の秘密、知らないけらな…」

制服のポケットから、昨夜チヒロから貰った黒い十字架のペンダントを取り出して呟く。

……今日もあいつのところ、行ってやろうかな。
続きを読む

@ 泥棒少年・橘 イツキ

初めはただのおふざけだった。


学校帰りにコンビニに寄って、面白半分で万引きしてみた。
すぐにバレて学校&親に通報でもされるだろーなー…と思ってたが、全然バレなかった。
あなた(店員さん)の目は節穴ですか? と某小説の台詞っぽいクレームを言ってやりたいぐらい、俺は驚いたのである。
…その『窃盗』という犯行は、俺の面白半分で結構エスカレートしてるけど。
両親も知らない、いつもどーり生活してる人も知らない、部活の人も顧問も、国家のい…警察も、探偵ごっこ云々してる純粋な小学生も、誰も知らない。
――俺が泥棒してることなんて。





脳内でRPGのような選択肢が出現した。
・遅刻覚悟でとりあえず学校行く
・言い訳を使って欠席する
俺、橘 イツキは8:21と表示されたデジタル時計を呆然と見る。
両親がもう仕事に行ってたらなんとか休めると思ったが、残念なことに…母親の仕事は午後から=なんとか言い訳で論破しないと、いろいろ面倒なことエトセトラがあるのだ。
とりあえず具合の悪そうなフリ、具合の悪そ…

「イツキ!! いつまで寝てんのよ!」

言い分けターイム。

「今日何曜日……?」
「月曜日よ」
「あー、熱出た。母さん、俺熱ある」
「だから何」

HPが半分削られる。
希望は前に進む!はず。

「明日行くから、ホントに!」
「…その同じ言い訳昨日聞いた。あんた、いい加減にしなさい! 仮病で学校休むの何回目と思ってるのよ!!」

はい論破。さすが大人。
母親の怒号を聞いてしまったら後戻りはできない。
今日もだるい現実の一日が始まる。







もちろん遅刻。そして放課後は説教。
ほぼ毎日こんな感じで、さすがに飽きてきた。
怒鳴る教師を俺は挑発的な態度で、あー、はいはい。とふざけて言う。
おー…恐い恐い。
立ちっぱなしは疲れた。よし、嘘の用事を帰ろ。

「せんせー、今日病院行く予定あるんで帰りまーす」
「あのなあ! お前反省してるのか!?」
「してない」
「お前、自分の成績下がってるって自覚し」
「隙アリーっと」

近くの窓を勢いよく開けて、そこから外に出る。靴はあらかじめ隠し持っておいたので問題無し。
教師が俺の名前を呼ぶがお構いなしに振り向かずそのまま帰宅する。
もうそろそろ、だろうか。あの時間まで。




帰宅した俺は自室の机の上にある紙切れに母宛の置手紙(もちろん嘘)を書いて、タンスの中から黒っぽい服を出してそれに着替える。
黒のバイク用グローブ(父から借りた)を着用してジーンズのポケットにスマホを入れ、リビングに友達の家行って来ると偽りの手紙を置いて、人目が付かないような場所から外に出る。


この時間から夜にかけて、俺は男子高校生じゃなくて『泥棒』。
面白半分で始めていくつかのモノを盗った。ニュースでも俺が起こした事件のことが取り上げられてるが、まだ一度も警察に顔を見られてない。
ある意味ラッキー、とでも思っとく。
行き当たりばったりで標的探しをしてると、如何にも裕福な家庭です的な家を見つけた。
勝手な想像だけど警備万全そう、そんなことを思うと自然と口角が上がる。
『楽しそう』なんて思ってしまう。よし、今日の標的はここだ。
モノを盗るだけが俺の泥棒としての仕事じゃない、それでも自分が満足しなかったらその家庭を壊す。いわゆる『家庭崩壊』っていうやつの原因を作るのも面白いのだ。
こーいうのを見ると壊したくなるのが、俺。今日は忙しくなるな。






身体能力だけは優れている。
母曰く、それが俺の長所。
その長所を生かして高い所、この家の2階の窓近くに飛び移る。
窓開けっ放しって……無防備な家。

「というか、警備とか全然ねぇじゃん」

期待はずれ。人もいそうにないし、違うところに行くか…と考え、脱出しようと元来た道を引き返すと物音がした。
思わず反射的に身を隠して様子を伺う。
しばらくしてまた物音が聞こえて、少し安心する。脱出を試みて身を隠しながら元来た道へ戻ろうとすると、ピアノの音色が聞こえた。誰かいる。

「…綺麗……」

思わず声に出してしまって、慌てて息を殺す。もう遅かった、らしい。
ピアノを演奏していた人物はこっちに来てるようだった。
そして足音は近くで止まった。

「こんにちは泥棒さん」

可愛らしい鈴のような声、しかも全然ビビってないとか。
俺の姿を見た少女はにっこり笑って俺を見ていた。バッチリ見られたな。







「私以外の誰もいませんよ。私は警察に通報もしませんし」
「それが真偽かは疑うけどな」
「そうだ! 私の部屋でお話ししませんか? 一緒にお話しする相手、あまりいないので」

少女は俺に警戒する素振りもせず、俺と話したいとか言ってきた。
承諾する代わりに、俺は人差し指を口に当てて約束を少女に言う。

「俺の姿を見たこと、誰にも内緒にしてくれるなら…話し相手になるぜ?」



「あ、自由に座っちゃってください。お菓子とか用意できますけど」
「すぐ帰ると思うからいい」
「わかりました。そういえば、名前聞いてませんね。私は上杉 チヒロです。……あ、泥棒さんだから本名じゃなくてもいいですよ。プライバシーというのがありますし」
「橘。そうとでも呼んでくれ」

名字で名乗った。

「橘さんって学生ですよね?」
「ああ」
「高校生…ぐらいですかね。私は中三ですけど」
「年下なんだ。俺は高二」

彼女が何か思い出したような素振りをすると、引き出しから黒い十字架のペンダントを取り出した。

「これ、橘さんにあげますね。私の白い十字架のペンダントとお揃いです。これからも私と仲良くしてください、という契約です」

チヒロは黒い十字架のペンダントを差し出して微笑む。
こんなに優しくされちゃ、裏切れないな。俺は黒い十字架のペンダントを受け取って、早速付けてと言われたから付けてみた。

「似合ってますね! そのお揃いのペンダント、お父様が大切な人に渡しなさいって言われたんですけどね…」
「そんな大切なモノ、こんな泥棒なんかに渡していいのかよ」
「大丈夫です。友情の証なので…来れたら明日も来てください。いつでも待ってます」

ふふっとチヒロは笑う。
ホント、泥棒とか警戒しないし、怖いモノ知らずでマイペースな奴だ。
続きを読む
前の記事へ 次の記事へ