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D とある警官と男子高校生の午後

世の中も本当、物騒なことになってきた。殺し屋だったり強盗犯だったり…と、警察もかなり忙しくなってきた。
俺こと霧島ショウは新聞一面に大きく書かれた昨晩の事件の記事に目を通す。昨晩の事件の犯人はこれまたキチガイで、ただのお遊びでやってる愉快犯。俺は呆れながらコーヒーを飲む。

「ショーウきゅぅーん!!」
「ぎにゃああああああッ!!?」

何かがタックルしてきて盛大に俺が腰掛けてた椅子ごと倒れる。コーヒーカップはすぐに机に置いたので割れることは無かった。

「うぷぷーのぷー、おっはよー。朝から可愛らしい悲鳴。さっすがわたしが認めたショタ警官」
「あのなあ! 毎朝タックルしてくるなって言っただろ!! というかこれ言ったの何回目だよ!」
「えーとぉ、六千五百」
「……もういい。次からタックルはやめろ、黒乃」
「ごめんなさいてへぺろりん。じゃあ、次からは背負い投げ」
「クビにされたいのか」

ふざけた態度の女性警官・黒乃(くろの)。誰にも本名は名乗ったこと無く…いつここに来たのかもわからない。俺がここに来る前はいなくて、気づいたらいたという感じなのだ。とにかく謎が多い。

「ショウきゅんは朝から仕事熱心だねえ」
「当たり前だろ。あの事件の解決を任せられたんだし」
「あの事件…何それ、美味しいの? マカロンの種類?」
「どうしたらマカロンの種類になる。これ読め」

とぼけてる黒乃に読んでいた新聞を投げつけた。
どれどれぇ、と呟きながら黒乃は新聞に目を通す。やっと理解できたようで、俺に新聞を返却した。

「あそこの美術館に怪盗が現れたんだ! いいなー、黒乃ちゃん見たかったよ。サイン貰いたかったよー」
「俺たち警察に相反する奴に憧れとか抱くな。昨日の怪盗は正真正銘の犯罪者だ」

今日の新聞の一面を飾るのは昨日現れた怪盗のこと。部下たちの目撃情報によると怪盗は若い男で、薄暗くて見えなかったらしいが首元に何かネックレスのようなモノを付けていたと。キチガイ…とは言えないレベルだと思うが、愉快犯という人間としておかしい部類の奴だ。

「…って、盗られたのは美術品だけじゃなくて上杉家のお嬢さんまでなのー?」

そう。そいつは、美術品だけではなく上杉家のお嬢まで攫った。その子はなぜそこにいたかは不明だが、きっと迷い込んでたのだろうか。昨日の夜、無事に帰ってきていて何もされなかったらしい。まあ…無事で何よりだ。
新聞を置いてコーヒーカップを取り、コーヒーを飲み干した。正直今日のコーヒーは苦い。

「ショウきゅーん、中二病みたいに無理してブラックコーヒー飲まなくていいんだよー? カフェオレにしよっかぁー?」
「うるさい黙れチビだからって子供扱いすんなこれでも社会人だ」
「わたしより年上なのに低身長って、クッソワロタ」
「滅べ」

黒乃はうぷぷーと笑ってクルッと回る。そういえば、朝から仕事があったのを忘れていた。

「俺、仕事入ってるからお喋りはここまでだ」
「そーなのー? とりま後でねぃ」
「…あ、一つ前から気になってたことがあるんだが」

なあに? という感じで黒乃は首をかしげてた。

「お前は…一体何者なんだ?」

俺がそう聞くと黒乃はおもむろに考えてるようなポーズをして、ポンッと手を叩く。

「警官兼通りすがりの魔法少女」
「現実見ろ」
「ま、気にしなーいのだよー。お仕事いてらー」

手を振る黒乃に背を向けて部屋を出る。今日も霧島ショウという名の警官として、一日が始まる。







仕事…と言っても地域のパトロール的なやつ兼散歩である。別に昼間は突飛な事件とか起こることないし(あるとすれば時々隣町で殺人事件)、夜は時々。放火とか怪盗とか殺し屋とか…そういう類の事件。とりあえず、昼間はほぼ平和すぎて退屈。
何か起こらないかなー……と考えながらぼーっと歩いてると前から走って来た人と思いっきり正面衝突した。

「…った……!」
「…おい、大丈夫か?」

ぶつかったのは金髪に学ランの少年…この制服は近くの高校やつだ。しかし、今は授業中だと思える時間帯なのだが、なぜ男子高校生がこんなところにいる。

「お前……近くの高校の生徒だよな…?」
「そうだけど。…つーか、こっちも聞きたいんだけど中学生が何でこんな時間帯に」
「誰が中学生だクソガキ。俺は正真正銘23歳の警官だ」

俺が警官バッチを見せながら言うと、高校生は俺の顔を見て引きつった顔になった。初対面だけど腹立つこのクソガキ。

「…その身長で社会人とか」
「小声で言ったつもりだろ。残念、丸聞こえだ」
「…チッ……国家の犬が」
「ちょうどいい機会だから…喫茶店で話すか。いや尋問するか」
「なんか初対面の人に喧嘩売られたんだけど」

俺は高校生の言葉を無視して近くの喫茶店に連れて行った。
本来ならばサボりの生徒は学校に帰さないといけないが、まあ、こいつのことだからまた抜け出すだろう。いろいろ説得した後に帰すか。

「とりあえず、名前は」
「プライバシーの侵害になる」
「なめとんのかおい」
「……しゃーない。イツキ、それが名前」
「名字はそっちが名乗らなかったから…いいか、俺はショウ。お前も知ってると思うが警官だ」

イツキと名乗ったクソガキ高校生は怠そうに目を逸らす。あ、聞きたいことがあって、ここに連れて来たんだった。とりあえずカフェオレを自分とクソガキ高校生の分を頼んで、話を始めた。

「…今日はサボりか?」
「まあ、そーいうことになるな」
「高校の教師とか友達が心配してると思うぞ」
「サボりの常習犯っていうことは教師も知ってる、友達にはもうサボるって言ってある」

どんだけ学校サボりたいんだよ。

「そんで、どっかで寝ようと思ってうろついてたら先生に見つかって、逃走してる時にショウさんという国家のい…警察に会った」
「お前……警察に何か恨みがあんのかよ」す

別にー、と言ってイツキはスマホをいじり始める。態度悪すぎだろ、どんな教育をしたらこんなクソガキ男子高校生になる。

「じゃあ何故サボり癖がある」
「…理由になるかわからんけど」

イツキは無表情のまま確かにこう言ったのだ。

「平和すぎて退屈だから」

その言葉で一瞬で全てが止まったような気がした。どう考えても、高校生が言うような言葉ではなかった。俺も退屈だとは思ってるが、こいつは本心からこの世を退屈だと思ってる。まるで、一回でも犯罪をしたような言い方。たぶんこのクソガキ高校生はしてないと信じたいが。

「まさかと思うが犯罪はしたこと無いだろ?」
「してたら今高校に通えてない」

一応聞いてみると安定の答えが返ってきた。俺とイツキの会話が一時途切れた時、注文していたモノが届いた。

「…あとで金払えっつーオチは無いよな」
「今回は俺が奢ってやる」
「やるじゃん国家の犬」
「年上は敬えと教えてられてねーのかよクソガキ」
「中学の道徳とか寝てた」

変な奴…それを通り越してキチガイか。最近キチガイ多すぎだろ。
この前は仕事を一緒にしたどこかの探偵、名前…忘れた、まあ探偵が給料三ヶ月分の指輪と手紙を送り付けてきた。今すぐ返事として逮捕状を出そうかと本気で思った。殺人事件が起こって現場に向かってる途中で偶然出会した、歩きながらケータイしてるロングコートを羽織った男に探偵から送られてきた謎の指輪をパスした。その男の妹か何か知らんが女子高生が後ろできゃーきゃー言ってたのは覚えてる。
とりあえず、話を戻す。

「隣町の高校の女子生徒が怪しい人といる…と聞いたが、お前は変わった様子を見てないか?」
「それっぽいのはいた。この前学校の帰りに、真顔でブランコ乗ってる変な男と女子高生らしき人物見た」
「……男の方は成人だよな…?」
「たぶん」

イツキは曖昧な答えを返す。つーか、変人多い。

「警察さーん、帰ってもいいー? あと奢りよろしくー」
「ちょっと待てや。まだ尋問終わってねーよ」
「国家の犬の仕事になんて付き合ってられねーし。第一、そういう系嫌い。今後一切関わることが無いことを願うぜ」

席を立って俺の横を通る時にそいつの片手首に手錠をかけた。
イツキは一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに俺をキッと睨みつけて手錠を外そうとした。

「何のつもりだ」
「どうせ暇だろ。なら俺の捜査を手伝え」
「ゲーセン行ってきます」
「暇じゃねえかクソガキ」

手錠を外すとイツキは舌打ちをしたり文句を言いつつも元の席に戻った。

「で、ショウさんの仕事っつーのは何ですかー?」
「今朝のニュースのやつだ」
「何それ」

イツキは知らん、と言いたそうな表情で答える。今朝のニュースといえば誰でもわかるだろうと思っていたけど。

「昨夜の事件。それのことだ」
「あー、はいはい。昨夜の怪盗さんのことね」

興味なさそうに言う。
最近の高校生はニュースとか新聞とか見ないんだろうな。

「美術品を盗った挙句上杉のお嬢にまで手を出しやがった。こっちにもちゃんと対策もあるし…」
「明確な計画立てれば?」

イツキは少し真剣そうな表情で言う。さらにまた続けて話し始めた。

「あっちにも何か考えがあるはず。それを推測して動くのが良いんじゃね?」

なるほど、と思いながら聞いてると突然ケータイの着信音が聞こえた。…あ、上司からだ。

「もしもし…」

上司は俺と確認して、早々に用件を伝えた。その用件を聞いた俺は薄く笑った。…あいつを捕まえる機会が増える。

「どうした?」
「警備の仕事を任された。…そろそろ次の仕事があるから帰るぞ」

俺が席を立つとイツキもいじってたスマホをしまって立ち上がった。俺が会計してる時、イツキは外に出ると同時になにか言った。小声だったが確かにこう言った。

「まあ、せいぜい頑張れよ。霧島さん」

名字は名乗ってないはずなのに、あいつが俺の名字知ってることが疑問だった。
まあ、どうでもいい。知られても問題は無い。俺は次の仕事のために足早に外に出た。







静かなフロア。
そこにいるのは警察の俺と例の少年怪盗の二人。
やっと追い詰めてこっちの方が有利な状態だが、あいつは追い詰められてるというのに余裕そうな顔つきだった。
そして場の空気を破るようにそいつは挑発的に言った。

「さて、そろそろ決着をつけようぜ。……霧島警部!」
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