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とある一人のペテン師と運動好きの一人の女子中学生の破天荒なお話(仮) 一日目

『最近、この周辺でお金を騙し盗ったりする怪しい人が出るので気をつけてください』

下校前の校内放送を聞いてまず私が思ったこと、何言ってんの。
今の時代は殺人あるが、表を堂々と出歩く詐欺師がいるワケない。
私の詐欺師のイメージは、お年寄りに電話とかでATMの講座を云々。…うん、ごめん、勉強苦手だしニュースもあまり詳しく知らないんだったわ。

「怖いなぁ…詐欺師って今もいるんだね」
「いるワケないじゃん」
「雨音ちゃんは信じないの?」
「うん」

私は簡易に答える。
勉強や世間のことより体を動かすことが好きな陸上部の中学生、それが私こと一条 雨音である。
至って普通だと思ってる。でも、誰の影響かわからないけど握力は普通の女子よりは高く、たぶん足も速いはず。
親には暴力が無くなれば普通の女の子…いやちょっと待てや、じゃあ私は何なんだ。

「おーい、雨音ちゃーん」
「ごめんごめん別世界に飛んでた」
「思いっきり声に出てるし、もう皆下校しちゃったよ?」

思ってたことが途中から声に出てたらしい。私の友達以外が聞けばただのおかしい人、私の友達のゆるふわ女子田野真昼ちゃんことたまちゃんは私の癖を昔から知ってるので普通だと思ってる。

「というか、私真昼っていう名前なのにたまちゃんなの?」
「名字の田と名前の真を組み合わせてたまちゃん」
「ま、その名前は嫌いじゃないからいいけどね…」

とたまちゃんはゆるふわな苦笑い(どんな笑いだよ)する。

「よし、私部活行ってくるから。たまちゃんは今日部活?」
「ううん。手芸部休みなの。だから今日は篠田くんと買い物行くんだ」
「はいリア充乙ー」
「……へ?」
「なんでもないよ」

つい本音が出た。ごめん、たまちゃんに恨みは無いんだけどね。

「もう行くね、 また明日!」
「うん。ばいばい」

私は鞄を持って教室から足早に出た。同時刻、私の知ってる場所で異変が起こってるなんて今の私は知らないだろう。




「今日は意外に早く終わったなあ」

約十八時十五分。私、雨音は一人で呟きながら下校。
一人だけど警戒心は完全に無し。変な奴と会った時の護身術は心得てたはず。
ていうか詐欺師が街中を堂々と出歩いてるはず無い、とか現実的なことを考えてみる。…あ、コンビニで菓子買って帰ろうかな。

「そこの子、ちょっと良い?」

聞き慣れない声が背後から聞こえて振り返って身構える。
背後には二十代ぐらいの帽子を被った男の人。

「なっ、なんですか…?」
「今週末に公民館で映画やるんだ。あ、映画は『宮島、部活やめるってよ』なんだけどー」
「…それがどうしたんですか」
「映画が人気だったからこのチケット高いんだよねぇ。もうそろそろチケットも売り切れそうだし、君に割引であげようかなって」

男の人が持ってるのは私の見たい映画のチケット。だけど、何かなあ…うん。

「割引だから二枚で五百円! いる?」
「遠慮しときます」
「そっか……」

男の人はチケットをヒラヒラさせながら私の前から去ろうとした、はず。その人が

「それは残念だなあ」

と横で呟いた瞬間、急に寒気がした。何が起こったかわからずに菓子パン買うために小銭を財布から出して握ってた右手を開いてみた。するとどうだろう、五百円玉を握ってたはずなのにいつの間にかチケット二枚になっていた。

「まさかさっきの……!!」

男の人の姿を探したが見つからなかった。最悪、五百円盗られた。

「てか、あれが詐欺師なのかなあ……?」

もしかしてと思ったが私は気にせずに帰ることにした。
詐欺師の目撃情報を親と警察と先生に伝えとかないと。







「ただいまー」
「おかえり雨音」
「お父さん帰ってるの? あともう一足靴あるからお客さん?」
「あ、そうだ! 雨音に嬉しいお知らせよ。こっち来て」

上機嫌のお母さんに着いてリビングに行く。そこに入って、私の顔が引きつったのがわかった。
お父さんともう一人、お客さん…いや、さっきの詐欺師がいた。

「お、雨音じゃん! 久しぶりだな!」
「…へ!?」
「そっか覚えてないのか。この人はお父さんの弟、雨音の叔父の一条 橙真。お前が小さい頃よく遊んでた人だよ」

帽子をとってるけど確かにさっきの詐欺師だった。

「違うお父さん! この人……さっ、さささ」
「さ?」
「雨音はごぼうのささがきのことを言ってるんじゃないの? 家庭科の授業で習ったとか」

もちろんこの詐欺師が言ったことは違うが、一応誤魔化すためにそう! ごぼうのささがき! と言っておく。何を言ってるんだ私。

「お父さんと髪色とか目の色違うじゃん! お母さんならわかるでしょ!?」
「橙真さんは髪染めてるんだって」
「あは、試しに染めたら派手な色だったけど結構気に入ってるんで。あと目はカラコン」
「チャラい!!」

両親はいつも通りで詐欺師はにこにこ、私はご乱心。

「雨音、疲れてご乱心のところ悪いんだけど橙真がここに住むようになったから、お前の隣の元お兄ちゃんの部屋に案内してやって」
「よろしくー」
「うわあああああああああああああああ!!!」

一条家に私の叫び声が木霊した。



「おーい雨音ー、聞いてるー?」
「信じない信じない信じない信じない信じない信じないこいつが私の叔父なんて信じない」
「えーと」
「何よ!!」

一応返事をして詐欺師を睨みつけた。女子中学生の金の恨みを思い知らせてやろうか。

「いやまあ、ご立腹だから大丈夫かなーって」
「詐欺師よりは正常」
「元気そうだー。…つーか、俺の仕事、知っちゃってるんだね」
「詐欺師ってお父さんもお母さんも知らないんでしょ?」
「イエス。一応雨音の家庭教師って言ってる。と、言っても本業は詐欺師だけど」

今カミングアウトしたよね。
ちゃんとした証拠が出来た。いつでも警察に突き出せる。

「…声に出てますけど?」
「あ、やばい」
「別に捕まってもどーだって良いけどさー、とりあえず俺のやりたいことやったら出頭も考えてる」
「…そうなんだ……ごめん、私も言い過ぎ」
「え、何騙されちゃってんの。バッカじゃね?」

やっぱりこいつ嫌い。今までに貯めたお年玉使って殺し屋、あるいはよくわからないデリバリーアサシンっていうのに殺人依頼しよっかな。

「そうだ、詐欺師金返せ」
「へ? 何のこと?」
「だから! 今日コンビニ前で私から盗った金!」

私は真剣に言ってるのに、詐欺師はニヤニヤしながら戯けたように言う。

「詐欺師に騙される雨音が悪い」

まだニヤニヤしてる詐欺師に蹴りを一発喰らわせてドアの方に行く。くるっと振り返って、詐欺師をキッと睨む。

「私はあんたが叔父なんて絶対認めない!! 大っ嫌い!!」

部屋のドアを乱暴に閉めて、隣の自室に戻って詐欺師対策のために鍵を閉めた。
ふらーっとベッドにうつ伏せになって、枕に顔を埋めた。

「いいもん…私一人だけでも詐欺師から一条家を守ってみせるし」

明日にでも通報してやる。
そう決めたと同時にお母さんが私と詐欺師を呼ぶ声が聞こえた。


「奥さんの料理良いねぇ! そんな人と結婚できたなんて、兄さんも幸せ者じゃん」
「橙真さんは口がうまいのね!」

大人たちがあははうふふ言ってる間に私は黙ってお母さんのハンバーグを食べる。
話の間を狙ってカミングアウトするんだ、こいつが詐欺師だって。

「そうだ。今週の土日に時間があったら、雨音連れてどっかに遊びに行って良い?」
「じょっ…冗談じゃな」
「土日は午前部活で、午後からだったら良かったはず…だよね、雨音?」
「う…うん。あのね、お母」
「雨音はどこ行きたい? 県内ならどこでもいいよー」

詐欺師が私の言葉を遮る。何かわざとらしい。
ついに私の堪忍袋の緒が切れる寸前かもしれない。

「橙真は雨音のお兄さんみたいだなあ」
「そうなれば嬉しいけど」
「…いい加減にしてよ!!」

私がバンッ!と机を叩くと、両親と詐欺師は静まり返った。さすがにもう我慢の限界。

「大人たちはもう認めてるけどさ、私はこんな奴が叔父だなんて認めてない!! この変な人が伯父なら私は一条家との縁切った方がマシよ!!」

両親が引き止めようとするが、それを聞かずに一目散に部屋を出て行く。そして靴を履いて行く当ても無く家出した。







家出したのは良いけど、行く場所なんて決めてなかった。

「絶対あの詐欺師は叔父じゃない。認めない」

とりあえず走ってきた場所の近くにあった自動販売機のジュースを買うことにした。
財布には野口が一枚と、百円玉が六枚…ジュースぐらい買えるか。
百円玉二枚入れるとピッという音がした。ファンタファンタ…は、売り切れ。ミルクセーキで良いや。

「ねえ、そこの人」

急に声が聞こえてビクッた。
警戒しながら振り返ると二、三人の男の人、大学生ぐらい…かな。

「なんですか」
「君、あそこの中学の子でしょ。今あいてる?」

ナンパか。キモ。

「すみません、友達待たせてるんで」
「じゃあ友達も呼んできてよ。俺ら今からボーリング行こうって思ってて…」
「もうそろそろ門限なので友達と帰るつもりです」

振り切ろうとしたが、まだ話しかけてくる。しつこい。年上だろーが蹴ろうと思って足を動かす。

「あっるぇー、なーんで大学生二、三人が女子中学生と絡んでのー? まさかナンパとか? うっわあ引くわー」

どこからか声が聞こえたその瞬間に目の前の黒髪のチャラい感じの男の人が後ろに吹き飛んだ。
数秒で理解した、あの詐欺師が蹴り飛ばしたんだ。
そしてこっちを向いた。あの茶化すような顔じゃなくて、詐欺師の表情は真顔に近かった。

「雨音は下がってろ」

普段よりも少し低い声で言われたから私はビクッとして詐欺師の言う通り、後ろに下がった。

「はいどーもー、この女子中学生の保護者でーす。つーかさあ、うちの子にかまってる暇があるなら自分のことを心配すれば?」
「はあ? お前ケータイ見せて、通報するって脅すつもりか?」
「…あは、違うかもよ。そこの茶髪ピアス男、お前の自宅と思える場所が火事っぽかったけど、大丈夫なの?」
「証拠はあんのかよ!」

詐欺師は得意気にケータイを男性に見せた。それを見た男性の顔が青ざめた。…詐欺師の狙い通り容易く騙されたらしい。

「ほら、嘘ついてないでしょ? 俺は優しいから消防と救急ぐらいなら呼んであげるよ。お安くたった三千円で命助けてやってもいいぜ? あ、割り勘でいいよ」

男性達は本当に信じてるようで割り勘で三千円を詐欺師に渡した。

「確かに三千円受け取った。君たちは今できることをしといて。俺は消防呼ぶから」

詐欺師の言う通りに男性達は一目散に自宅の方向に向かった。
電話をかける"フリ"をしていた詐欺師は、いなくなったのを確認するといきなり吹いた。

「うっわ騙されてやんの! これ、あいつらの住所特定して写真撮って加工しただけなのに! 超傑作!!」

人の不幸を嘲笑ってる。何このガチ系の犯罪者。

「あ、雨音くん大丈夫ー?」
「詐欺師殺す。……というか来るの遅いバカ!!」
「なんだかんだ言って寂しくなってんじゃん。んー、まあ…心配させてごめんねー」

詐欺師を軽く叩きながら悪口を言い続ける。

「雨音探しに行く前に見つけたんだけど…これ、俺がお前の叔父っていう証拠ね」

一枚の写真。笑顔で写ってる小さい頃の私と、隣には制服姿の赤茶色の髪の男の人。
この詐欺師が私の叔父って本当だったんだ。

「加工…してないよね」
「するわけない。てか、小さい頃は本当可愛かったわー。今みたいに暴力はしないし、いっつもお前とお前の兄さんが『橙真お兄ちゃん』ってさー…」
「そんなこと言っても詐欺師に対する態度は変わらないから」

すると詐欺師は舌打ちをした。微かに聞こえたからね、聞こえてないって本人は思ってるつもりらしいけど。

「つーか、詐欺師っていう呼称はやめましょうや。雨音パパとママに俺が詐欺師ってバレる」
「じゃあ叔父さん?」
「俺まだ二十代だからね」
「えー、もうあれでいい。橙真さんでいいや」
「それで許してやろう」

詐欺…橙真さんは腕を組んで言う。よし、帰ったら飛び蹴りだ。

以上が、女子中学生の私と金好き破天荒詐欺師の叔父との日常の一日目だった。





*茅野反省会
泥棒少年と箱入り少女の初期物語の小説だったりします。Twitterで見たいって言ってくれた人いたので、調子に乗って書きました。
まだまだ続くはず。うん。

そして久しぶりに書いたから完全に鈍ってて日本語わけわからぬ。ニホンゴシャベレマセーン、エイゴモシャベレマセーン。アハ。
今回の微妙に長いタイトルはサブタイトル的なやつ。このシリーズの正式タイトル決まってません。たぶん、いつか決める。…考えてくれてもいいんだよ?((

【学生戦争】一話

舞台は日本。
とある日に各学校のトップの争いにより日本公帝国軍 通称:白軍、大和皇国鎖環連合 通称:黒軍、インペラトル 通称:赤軍による戦争が始まった。
その戦争に参戦するのは大人では無い、学生である少年少女達だ。
人々はこの戦争を『学生戦争』と呼んだ。

これは『学生戦争』に参戦する少年少女達の話。







武器を持つ右手が震える。
攻撃が出来なければ戦場では生きていけない、と卒業した先輩から聞いたけど…やっぱり私には無理なのかもしれない。
標的はすぐ目の前なのに。

「……や、やっぱり…訓練用の人形でも…絶対無理です…!!」
「茅場りみ、失格。次」

私はため息をついて肩を落とし右手に持っていた武器を納める。

「りみにはまだ攻撃は無理かあ…卒業まではまだ時間あるし気にしちゃダメ、なのです!」
「うぅ……ちかちゃん…」

慰めのつもりで私の頭に軽くチョップをする黒髪に緋色の目の少女、玉依ちか。この学校に入学した時に知り合ってそれ以来の友達。というかほとんどサポートしてもらってる。

「でも、そろそろ攻撃出来ないと留年になるかもよ。りみは救護の腕は一人前なのにねぇ」
「うっ…」
「メイスで殴ったぐらいで人は即死しないし大丈夫だと思うよ。刃物で心臓グサはさすがに死ぬけど」

言葉の刃物が私にグサッと刺さったよちかちゃん。彼女は私が失敗する度「気にしたら負けなのデース!」と言ってくれるけど、さすがにここに来て二年も経っているのだから、そろそろ攻撃出来ないとなあって思ってる。
私の武器、メイス。新品のようにあまり傷付いてないのは、私が戦いであまり使わないから。いつもは避けるか他の誰かが助けてくれるからだ。
私はとある出来事がキッカケで人を攻撃していない。あれは、とある日…

「つぎゃあ…!!」
「りみー、別世界に行ってたでしょー?」

ちかちゃんにコツンと頭を叩かれて我に返る。辺りを見回すともう訓練は終わったらしく、クラスの人たちは解散していた。

「昼間から白軍との戦争あるんでしょー。やだなー、ちかは昼寝しないと生きていけないのに」
「あはは……」

学生戦争のルール、戦争は午後から。死んだ命は仕方ないが、救える命は救う。だから私が所属する救護班は重要。
今日は白軍から予告が来ていたから、午後からの授業は無しでずっと戦い。

「マルマルヒトマル。玉依提督は愛と友情の詰まったメロンパンを頬張る時間なのです」
「ちかちゃん、週に二回はメロンパンだよね……って、もう買ってきてる」
「朝早くに学校来て、メロンパンとっておいてって言ったら購買の人が残してくれた」
「…へえー……」

訓練場の近くのベンチに座って、私は作ってきた弁当を開ける。一人暮らしだから料理は出来て当然、なわけない。簡単な料理しかマトモに作れないし初挑戦の料理は作るのに二時間もかかる。

「このまま昼寝したいわー」
「そうだね。戦いなんて疲れるだけだか」

訓練場から私の言葉を遮るような爆音が響いた。白軍の奇襲かと思い警戒して訓練場を覗くと、訓練用の的に穴が空いていて、その前にはバズーカを持ってる赤茶色の髪の人がいた。
その人は私達に気づいて笑顔で手を振った。黒軍でも無いのに普通に敵の訓練場を使う度胸が凄い。

「ちーす。りみりん、ちかりん」
「こりゃー、また派手にやってくれたなあ」
「いやー、ちかりん褒められても困るわー」
「いや褒めてないから。褒めようとも思ってないよ」
「今日はどうしたの? 五月雨くん」

彼こと五月雨くんに問う。
彼は赤軍の一般部隊所属で白軍の人とも黒軍の人とも友好関係が広い。楽天的な性格だから、友好関係が広いんだと私は思ってる。

「暇だったからねえ。で、黒軍の今日の予定は?」
「…午後から白軍との戦争、かな。はあ……戦争とかやだなー」
「良いじゃん。好きなだけ武器使えるしさ」
「私の鞭剣威力は強いけどさー、長いから超引きづるんるん」
「ちかりん、牛乳買ってこよっか?」
「五月雨くん絶許ギルティ!! 身長高すぎてもデカ女って言われるだけだし、お前はソロモンの悪夢でも起こしとけ!」

私は二人の話に着いていけずあはは……と、苦笑いで答えた。
艦これの話はわからない、うん。

「今日は五月雨くん一人?」

もう一つ質問すると五月雨くんはクスッと笑った。意味深だ。

「わからない。もしかしたら神南が来てるかもね」
「 かっ…神南さんが!?」
「つーか赤軍暇人多すぎでしょ」
「暇人じゃねーよ、あまり予定の無いフリーダムな組織だよ!」
「=暇人なのだよ」
「ちかりんの自由気ままな性格には着いていけないや」

この二人の会話は何かわからない用語も飛んだりするけど和むなあ……と思いながらぼーっと聞いてると、ケータイの着信が鳴り出した。

「……もしもし、救護班三年の茅場りみです」
『奇襲班一年小城です』
「あ、シオンくん。……どうしたの…?」
『諜報部から白軍の襲撃予定時刻の情報を受け取ったから。確か十三時過ぎぐらいに襲撃予定らしい。だから昼食が終わり次第、ちかと一緒に第六部隊の会議室に来て』
「わかった、ありがとう」

通話を切る。
ちかちゃんに伝えようと二人のいる後ろを向いた時、武器有りの地獄の鬼ごっこが始まっていた。
ちょっと待って、一体何が。

「購買の人の愛と友情の詰まった私のメロンパン返せぇええ!」
「よし、ソロモンの悪夢見せてやる!!」

…何しているんだろ。

「ね、ねえ! どうしたの?」

私が聞くと二人は

「五月雨くんが私のメロンパン盗った」
「ちかりんが鞭剣振り回して追いかけてくる」

と言った。
心配した私が馬鹿だったかも。

「えっとね…ちかちゃん、シオンくんが昼食が終わり次第会議室に来てって」
「メロンパン盗られた。腹が減っては戦は出来ぬ」
「私の卵焼きあげるよ」
「やったー」

私がちかちゃんに卵焼きをあげると、ちかちゃんは五月雨くんに「ざまあ」と言いたそうな顔で五月雨くんを挑発した。この二人仲が良いのか悪いのかわからない。

「りみりん達はこれから会議?」
「…うん。そうっぽい」
「へー、俺は観光か何かしてくるわー。またね!」

そこに置いていたバズーカを持って壁を乗り越えて五月雨くんは観光に行った。

「しっかし、あいつはギルティ。食べ物の恨みは恐ろしいっつーこと教えてやらねーと」
「…五月雨くんに盗られたの何回目だったけ?」
「今日で十五回目」
「さすがにそれはギルティだね」

私もさすがにやりすぎだ思った。

「よし、りみ! 出撃するよ!」
「もういいの?」
「うん。シオンの奴、男のくせに時間に煩いし」

さあ行くかー、と言ってちかちゃんは背伸びをしてすたすたと歩き出した。私はそれを追いかけるように着いて行く。
ちかちゃん、歩くスピード早い。







「…来た。今日は遅刻無し」
「男のくせに細かい」

ストップウォッチを持って会議室の椅子に座ってる少年、彼は小城シオン。帰国子女でしかも頭脳明晰、頭の良さは黒軍で一番。
無愛想だけどさすが帰国子女、というべきなのか、人に対して優しいし頼み事したらやってくれる。

「ねー、数学の宿題教えてー。まだ時間あるでしょー?」
「今から第六部隊の作戦会議。戦争が終わってから」

チッと舌打ちしてちかちゃんはロッカーにどこから持ってきたのか謎の数学ノートをしまう。

「えと、白軍は十三時襲撃予定だよね…?」
「ああ。白軍の奇襲班は毎回変わった戦法で来るから…こちらで新しい計画立てようと」

シオンくんがばさっと校内マップを広げる。
赤いペンでバツ印を書いてるところが今までの奇襲位置。白軍の奇襲班は、正門以外のところから攻めてくるから…

「ちょっとカンケー無いこと言うけど、りみのリボン解けてるよ」
「あ……ホントだ。どこかで引っ掛けちゃったのかな…?」

ちかちゃんに指摘されて髪を結んでるリボンを結び直す。

「てか、あいつから貰ったそのリボンずっと付けてるよね」
「うん。宝物なんだ……」
「まあ…"あいつ"は裏切って逃亡中だからな……」

私たちの言う人物、去年ぐらいに黒軍の司令官に重傷を負わせて逃亡した裏切り者。私が付けてるリボンはその人から貰った。

「捜索して何故裏切ったか尋問するって、トップの人言ってたしねえ。しかも私たちも裏切り者の行方を追えって…めんどくさー」
「大変だよね……」
「…話を戻す。だから今回は俺たち三人それぞれの持ち場に着いて、白軍が来たらケータイか何か使って伝えろ」
「おーおー、さっすが黒軍学力トップ・シオンくん」
「「「っ…!!」」」

突然窓側から声が聞こえて私たちは身構えた。
そこにいたのは窓から入ってきたのか、バズーカを持った五月雨くんがいた。

「さ、五月雨くん…!?」
「いきなり失礼。…んー、そっちが援軍呼ぶまで黒軍は三人、こっちは十数人」

その言葉で私は悟った。
私の表情を見た五月雨くんはニヤッと笑った。

「各部隊、配置につけ!! 標的は黒軍第六部隊!!」

廊下側から足音が聞こえてくる。
ちかちゃんとシオンくんは警戒して、武器を持つ。

「驚かせてごめんね、これは赤軍奇襲班の作戦なんだ。さて、戦争始めようか!」

赤軍の奇襲により黒軍と赤軍の戦争が始まった。







同時刻。
焦げ茶の長い髪をポニーテールにまとめた少女が同じ部隊の仲間を連れて、赤軍の奇襲を眺めていた。

「ざっと十数人ぐらいですね〜。バズーカでドーンっと殺っちゃいましょうか」
「…ライフルの弾丸、準備完了」
「で、いつ出撃するんですか星先輩」

後輩と思われる少年がポニーテールの少女、星に言う。

「そうねえ……黒軍と赤軍の戦争もう少し見たいわ。どちらとも弱った時に襲撃するの。…ふふっ、とーっても楽しみだわ」

星は狂気を秘めた赤い瞳で黒軍と赤軍の戦争を観覧した。



あとがき。
学生戦争ったーで診断して私や友達をオリキャラにした小説。
一応シリーズです。イラストとかはTwitterに載せてたりするので茅野のリンク集から、茅野のTwitter開いて見てみてくださいな。
さて次回は、全面戦争勃発!?

……とかね((
そして小説の腕がさらにガタ落ちした。

【学生戦争】キャラ紹介 黒軍

*茅場 りみ(かやば りみ) 三年


黒軍に所属する救護班三年生の女子生徒。使用武器はメイス。臆病で内気な性格だが、怪我の手当てについては詳しい。実は誰にも言えない秘密を抱えている。実は隠れ腐女子。

容姿…こげ茶のおさげ髪を紫のリボンで結んでいて、目は碧色。黒軍の制服に黒のニーハイ、ベージュ色のブーツ。


玉依ちか(たまい ちか) 三年
黒軍に所属する切り込み隊長を務める三年生の女子生徒。使用武器は鞭剣。自由気ままな性格で、軍のムードメーカー。艦これの話とアニメ(ノラガミ)が好き。りみのフォロー役だったりもする。

容姿…もみあげに飾りを付けている黒髪セミロングに、目は緋色。黒軍の制服に紺のハイソックス、茶色のローファー。左耳に赤色のピアスを付けている。


*小城 シオン(おぎ しおん) 一年
黒軍に所属する奇襲班一年生の男子生徒。使用武器は残馬刀。男前な性格で、不器用だが頼まれたことはやる。頭の良さは軍で一番。日本と外国のハーフだが日本語は普通に喋れる。

容姿…焦げ茶の髪に目は金色。黒軍の制服に茶色のローファー。左耳に紫色のピアスを付けている。

D とある警官と男子高校生の午後

世の中も本当、物騒なことになってきた。殺し屋だったり強盗犯だったり…と、警察もかなり忙しくなってきた。
俺こと霧島ショウは新聞一面に大きく書かれた昨晩の事件の記事に目を通す。昨晩の事件の犯人はこれまたキチガイで、ただのお遊びでやってる愉快犯。俺は呆れながらコーヒーを飲む。

「ショーウきゅぅーん!!」
「ぎにゃああああああッ!!?」

何かがタックルしてきて盛大に俺が腰掛けてた椅子ごと倒れる。コーヒーカップはすぐに机に置いたので割れることは無かった。

「うぷぷーのぷー、おっはよー。朝から可愛らしい悲鳴。さっすがわたしが認めたショタ警官」
「あのなあ! 毎朝タックルしてくるなって言っただろ!! というかこれ言ったの何回目だよ!」
「えーとぉ、六千五百」
「……もういい。次からタックルはやめろ、黒乃」
「ごめんなさいてへぺろりん。じゃあ、次からは背負い投げ」
「クビにされたいのか」

ふざけた態度の女性警官・黒乃(くろの)。誰にも本名は名乗ったこと無く…いつここに来たのかもわからない。俺がここに来る前はいなくて、気づいたらいたという感じなのだ。とにかく謎が多い。

「ショウきゅんは朝から仕事熱心だねえ」
「当たり前だろ。あの事件の解決を任せられたんだし」
「あの事件…何それ、美味しいの? マカロンの種類?」
「どうしたらマカロンの種類になる。これ読め」

とぼけてる黒乃に読んでいた新聞を投げつけた。
どれどれぇ、と呟きながら黒乃は新聞に目を通す。やっと理解できたようで、俺に新聞を返却した。

「あそこの美術館に怪盗が現れたんだ! いいなー、黒乃ちゃん見たかったよ。サイン貰いたかったよー」
「俺たち警察に相反する奴に憧れとか抱くな。昨日の怪盗は正真正銘の犯罪者だ」

今日の新聞の一面を飾るのは昨日現れた怪盗のこと。部下たちの目撃情報によると怪盗は若い男で、薄暗くて見えなかったらしいが首元に何かネックレスのようなモノを付けていたと。キチガイ…とは言えないレベルだと思うが、愉快犯という人間としておかしい部類の奴だ。

「…って、盗られたのは美術品だけじゃなくて上杉家のお嬢さんまでなのー?」

そう。そいつは、美術品だけではなく上杉家のお嬢まで攫った。その子はなぜそこにいたかは不明だが、きっと迷い込んでたのだろうか。昨日の夜、無事に帰ってきていて何もされなかったらしい。まあ…無事で何よりだ。
新聞を置いてコーヒーカップを取り、コーヒーを飲み干した。正直今日のコーヒーは苦い。

「ショウきゅーん、中二病みたいに無理してブラックコーヒー飲まなくていいんだよー? カフェオレにしよっかぁー?」
「うるさい黙れチビだからって子供扱いすんなこれでも社会人だ」
「わたしより年上なのに低身長って、クッソワロタ」
「滅べ」

黒乃はうぷぷーと笑ってクルッと回る。そういえば、朝から仕事があったのを忘れていた。

「俺、仕事入ってるからお喋りはここまでだ」
「そーなのー? とりま後でねぃ」
「…あ、一つ前から気になってたことがあるんだが」

なあに? という感じで黒乃は首をかしげてた。

「お前は…一体何者なんだ?」

俺がそう聞くと黒乃はおもむろに考えてるようなポーズをして、ポンッと手を叩く。

「警官兼通りすがりの魔法少女」
「現実見ろ」
「ま、気にしなーいのだよー。お仕事いてらー」

手を振る黒乃に背を向けて部屋を出る。今日も霧島ショウという名の警官として、一日が始まる。







仕事…と言っても地域のパトロール的なやつ兼散歩である。別に昼間は突飛な事件とか起こることないし(あるとすれば時々隣町で殺人事件)、夜は時々。放火とか怪盗とか殺し屋とか…そういう類の事件。とりあえず、昼間はほぼ平和すぎて退屈。
何か起こらないかなー……と考えながらぼーっと歩いてると前から走って来た人と思いっきり正面衝突した。

「…った……!」
「…おい、大丈夫か?」

ぶつかったのは金髪に学ランの少年…この制服は近くの高校やつだ。しかし、今は授業中だと思える時間帯なのだが、なぜ男子高校生がこんなところにいる。

「お前……近くの高校の生徒だよな…?」
「そうだけど。…つーか、こっちも聞きたいんだけど中学生が何でこんな時間帯に」
「誰が中学生だクソガキ。俺は正真正銘23歳の警官だ」

俺が警官バッチを見せながら言うと、高校生は俺の顔を見て引きつった顔になった。初対面だけど腹立つこのクソガキ。

「…その身長で社会人とか」
「小声で言ったつもりだろ。残念、丸聞こえだ」
「…チッ……国家の犬が」
「ちょうどいい機会だから…喫茶店で話すか。いや尋問するか」
「なんか初対面の人に喧嘩売られたんだけど」

俺は高校生の言葉を無視して近くの喫茶店に連れて行った。
本来ならばサボりの生徒は学校に帰さないといけないが、まあ、こいつのことだからまた抜け出すだろう。いろいろ説得した後に帰すか。

「とりあえず、名前は」
「プライバシーの侵害になる」
「なめとんのかおい」
「……しゃーない。イツキ、それが名前」
「名字はそっちが名乗らなかったから…いいか、俺はショウ。お前も知ってると思うが警官だ」

イツキと名乗ったクソガキ高校生は怠そうに目を逸らす。あ、聞きたいことがあって、ここに連れて来たんだった。とりあえずカフェオレを自分とクソガキ高校生の分を頼んで、話を始めた。

「…今日はサボりか?」
「まあ、そーいうことになるな」
「高校の教師とか友達が心配してると思うぞ」
「サボりの常習犯っていうことは教師も知ってる、友達にはもうサボるって言ってある」

どんだけ学校サボりたいんだよ。

「そんで、どっかで寝ようと思ってうろついてたら先生に見つかって、逃走してる時にショウさんという国家のい…警察に会った」
「お前……警察に何か恨みがあんのかよ」す

別にー、と言ってイツキはスマホをいじり始める。態度悪すぎだろ、どんな教育をしたらこんなクソガキ男子高校生になる。

「じゃあ何故サボり癖がある」
「…理由になるかわからんけど」

イツキは無表情のまま確かにこう言ったのだ。

「平和すぎて退屈だから」

その言葉で一瞬で全てが止まったような気がした。どう考えても、高校生が言うような言葉ではなかった。俺も退屈だとは思ってるが、こいつは本心からこの世を退屈だと思ってる。まるで、一回でも犯罪をしたような言い方。たぶんこのクソガキ高校生はしてないと信じたいが。

「まさかと思うが犯罪はしたこと無いだろ?」
「してたら今高校に通えてない」

一応聞いてみると安定の答えが返ってきた。俺とイツキの会話が一時途切れた時、注文していたモノが届いた。

「…あとで金払えっつーオチは無いよな」
「今回は俺が奢ってやる」
「やるじゃん国家の犬」
「年上は敬えと教えてられてねーのかよクソガキ」
「中学の道徳とか寝てた」

変な奴…それを通り越してキチガイか。最近キチガイ多すぎだろ。
この前は仕事を一緒にしたどこかの探偵、名前…忘れた、まあ探偵が給料三ヶ月分の指輪と手紙を送り付けてきた。今すぐ返事として逮捕状を出そうかと本気で思った。殺人事件が起こって現場に向かってる途中で偶然出会した、歩きながらケータイしてるロングコートを羽織った男に探偵から送られてきた謎の指輪をパスした。その男の妹か何か知らんが女子高生が後ろできゃーきゃー言ってたのは覚えてる。
とりあえず、話を戻す。

「隣町の高校の女子生徒が怪しい人といる…と聞いたが、お前は変わった様子を見てないか?」
「それっぽいのはいた。この前学校の帰りに、真顔でブランコ乗ってる変な男と女子高生らしき人物見た」
「……男の方は成人だよな…?」
「たぶん」

イツキは曖昧な答えを返す。つーか、変人多い。

「警察さーん、帰ってもいいー? あと奢りよろしくー」
「ちょっと待てや。まだ尋問終わってねーよ」
「国家の犬の仕事になんて付き合ってられねーし。第一、そういう系嫌い。今後一切関わることが無いことを願うぜ」

席を立って俺の横を通る時にそいつの片手首に手錠をかけた。
イツキは一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに俺をキッと睨みつけて手錠を外そうとした。

「何のつもりだ」
「どうせ暇だろ。なら俺の捜査を手伝え」
「ゲーセン行ってきます」
「暇じゃねえかクソガキ」

手錠を外すとイツキは舌打ちをしたり文句を言いつつも元の席に戻った。

「で、ショウさんの仕事っつーのは何ですかー?」
「今朝のニュースのやつだ」
「何それ」

イツキは知らん、と言いたそうな表情で答える。今朝のニュースといえば誰でもわかるだろうと思っていたけど。

「昨夜の事件。それのことだ」
「あー、はいはい。昨夜の怪盗さんのことね」

興味なさそうに言う。
最近の高校生はニュースとか新聞とか見ないんだろうな。

「美術品を盗った挙句上杉のお嬢にまで手を出しやがった。こっちにもちゃんと対策もあるし…」
「明確な計画立てれば?」

イツキは少し真剣そうな表情で言う。さらにまた続けて話し始めた。

「あっちにも何か考えがあるはず。それを推測して動くのが良いんじゃね?」

なるほど、と思いながら聞いてると突然ケータイの着信音が聞こえた。…あ、上司からだ。

「もしもし…」

上司は俺と確認して、早々に用件を伝えた。その用件を聞いた俺は薄く笑った。…あいつを捕まえる機会が増える。

「どうした?」
「警備の仕事を任された。…そろそろ次の仕事があるから帰るぞ」

俺が席を立つとイツキもいじってたスマホをしまって立ち上がった。俺が会計してる時、イツキは外に出ると同時になにか言った。小声だったが確かにこう言った。

「まあ、せいぜい頑張れよ。霧島さん」

名字は名乗ってないはずなのに、あいつが俺の名字知ってることが疑問だった。
まあ、どうでもいい。知られても問題は無い。俺は次の仕事のために足早に外に出た。







静かなフロア。
そこにいるのは警察の俺と例の少年怪盗の二人。
やっと追い詰めてこっちの方が有利な状態だが、あいつは追い詰められてるというのに余裕そうな顔つきだった。
そして場の空気を破るようにそいつは挑発的に言った。

「さて、そろそろ決着をつけようぜ。……霧島警部!」
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C 泥棒少年窃盗遊戯

俺はわざと姿がバッチリ見られるようなところに立つ。
暗いけど、相対してる奴等が数十人いることがわかる。
……そろそろ、だ。

「そこで何をしてる!!」
「はいざーんねん。一歩遅かったぜケーサツ共」

ガラスケースを壊して手に入れた美術館の展示品である結晶をおもむろに見せる。

「お、お前……怪盗か?!」

一人の警察の言葉でフッと薄く笑ってしまった。

「怪盗、怪盗ねぇ……今までは一般人のモノを盗ってた普通の『泥棒』だったけど、美術館でこーいうのを盗る『怪盗』もいいかもしれないな。まあ、どっちも窃盗を犯す仕事だけど」

結晶をおもむろに見せたまま言う。警察の方々は動揺してくれていて、すごく面白い。

「んー、俺も何か目的があってこれ盗んだワケじゃないけど、何というか俺の『遊戯』だけで盗んだ。納得できます?」
「誰が納得するか愉快犯!」
「さて、在り来たりな台詞でも言っとこうか…これ、返して欲しければ俺を捕まえてみろよ」

そう言って、踵を返し一目散に走って逃げた。
後ろから追う足音が聞こえてくる。
一人の警察が追いつきなんとか俺を捕まえようとしたが軽い足取りで避け、曲がり角をうまく使って一時的に警察を振り切った。

「…これ、本当に価値なんてあるのかよ」

盗った結晶を見て、ぼそっと呟く。そういえばチヒロはうまく逃げてるだろうか。
やり過ごせているかあるいは警察に見つかってるか……。
悩んだ挙句、きっとまだ館内にいるであろうチヒロを探しに行くことにした。
影から様子を伺うと警察の方々が一生懸命捜索中だった。ここで出るとか自殺行為になりそう。

「…えっと…あのっ………!」

聞き覚えのある声が後ろの方から聞こえて振り返る。やっぱり、チヒロが見つかっていた。
想定外のことでチヒロは焦って目を逸らしたりしていた。

「なぜ上杉家のお嬢がこんなところに…? ま、御両親に迎えに来てもらうように連絡するから、署まで来てください」
「や…嫌ですっ…!」

警察の手を振り払うようにチヒロは後退りする。
こうなったときの対策方法ぐらい考えてるが……実行してみるか。
そう決めて、俺は素早くチヒロと警察の間に入って警察に不敵な笑みを見せる。

「いたぞ!」
「たちば……きゃっ…!」

突然の出来事で困惑しているチヒロを抱きかかえ、さっき把握しておいた脱出ルートへ逃げる。そのまま逃げるのは面白くない、そう思って警察が集まってるところを見る。

「…美術品と上杉のお嬢は貰っていくぜ」

そんなよくあるような台詞を言って外へ逃げる。
美術館から少し離れた大通りの路地裏に逃げ、未だに困惑中のチヒロを降ろす。

「ありがとうございます、橘さん」

チヒロは感謝の言葉を述べたが俺はギロッと睨む。そんな俺を見て「ひゃっ…」とチヒロは怯えた声色で言った。

「…あのなあ、お前ホント世間知らずのアホか! のこのこ警察の前に出た挙句、すぐに見つかるとかただのアホだろ!! あと、あそこで俺の名前呼ぶな。名前がバレるだろーが」
「ひゃあぁ…すみません……あ、橘さんお一つ質問です。あのどこぞの怪盗が言うような台詞は何なんですか?」

空気読め世間知らずお嬢、と俺は思った。

「…思いつかなかったんだよ。わ、悪かったな…! あれ、言うの結構勇気いるぞ」
「確かにそうですね」

チヒロはクスッと笑う。
このお嬢にはわかりはしないと思うが、あの台詞言うにはは結構度胸がいる、言ったやつは勇者と言ってやりたいぐらい。

「橘さん、まさかと思いますが姿は見られてませんよね…?」
「大丈夫だろ。暗かったし、しかも前髪で左目隠れてた。さすがのケーサツ達も俺の顔見れてないだろ」
「指名手配、とかされるんですかね? なんか今回は怪盗らしいことしたんですし」
「指名手配とかごめんだ。俺の嫌いなケーサツと探偵が関わるから。しかも名前知られてない」
「この際だから、怪盗ネーム的なのを名乗ればいいんじゃないですか? 橘とかの」
「嫌」
「…ですよね」

そもそもチヒロだけに教えてる『橘』という名前は、もろに本名入ってる。というか俺は名乗らない主義。

「それより、ここどこですか?」
「大通り。ゲーセンとかそういうのがあるところ」
「ゲーセン! 面白そうですね!」

チヒロが目をキラキラとさせて俺を見る。……少しぐらいなら、いっか。財布に小銭ぐらい入ってたはず。

「時間あるからいけるか…23時には家に帰さないと、お前の親がケーサツとか探偵呼ぶだろ?」
「そうですね。…では、そうと決まれば早速行きましょう! 私、初めてなので楽しみなんです」

お嬢にとって庶民の遊び場がそれほど楽しみなのか、チヒロは俺の手を引いて一直線にゲーセンに入っていった。







入ってすぐに人が絶叫しながらゲーセンを出て行った。しかもその人は巫女服の男。そいつは「琴羽とゲームするのもう嫌だあああああああ! 俺のプライドズタズタああ!!」と叫んでた。…一体何があった。

「橘さん、ゲーセンって傘売りの人もいるんですね」

チヒロの方を振り向くと、UFOキャッチャーの前のところで持参物であろう敷物に座って傘を売っている少女…がいた。近未来大名って、漫画の読みすぎだと思う。

「おいそこの者」

傘売りの少女に声かけられた。

「近未来大名・柚葉の傘…今なら割引きにするが、どうだ?」
「あ、遠慮しときます」

断っておいた。その少女が不満げな顔をして刀を抜こうとしていたが、見なかったことにしてチヒロを連れてその場を去った。

「類稀なる電脳銃士よ! 禍神様に愛されし俺から、決闘を申し込む!!」
「決闘! 面白そう、やろやろ中二くん!! で、何で勝負するの?」
「格闘ゲームだ!! 俺が勝ったら禍神様を信仰してもらうぞ!」
「オッケー。もしあたしが勝ったらー…今夜オールナイト休憩なしでゲーム完全攻略に、付き合ってもらうよっ!」

格闘ゲームのところには中二発言する少年と電脳銃士と呼ばれてる少女がいた。

「琴羽さんのオールナイトゲーム完全攻略、楽しそうですね」
「やめとけ由茉、あれは琴羽以外のやつがやったら死ぬ。この前は暁が餌食になってたから」
「もー、人聞き悪いなあサクヤ兄! 暁生きてるじゃん!」
「今はな。あいつ、お前の餌食になったあと目が死んでた」
「あのあと暁、ちづるに甘えてきてうざかった」
「ちづるさん、毒吐きまくりですね。あ、そういえば暁さんどこに行ったんでしょうね…?」
「しょうがない。ちづる、暁探してくるね」

そんな会話をしていた学生達の会話を聞きながら俺は金の両替をしていた。

「今日は学生が多いですね」
「変な奴もいるから気をつけろよ。時には不審者っぽい人も」
「犯罪者の橘さんが言えることでは無いと思います」
「はいはい」

両替した金を財布にいれて、ポケットにしまった。

「あ、橘さんあそこのやつやりたいです」
「UFOキャッチャーか」
「あの人形のやつです」

チヒロが指差した先には二足歩行の猫が景品のUFOキャッチャー。猫が二足歩行はあり得るはずな…あるか、モンハンのアイルーは二足歩行だった。でも二足歩行の猫は違和感がある。

「まあいい、やってやるよ」

財布から百円玉を出して入れる。
どうやって取るかの知識はあまり無いが勘で操作してみる。

「おお……! そう動くんですね」

チヒロが関心してるが、もちろん取れてない。掠ってもない。
実を言うとUFOキャッチャーは、友達に任せてたからあまり経験は無い。

「難しいんですね…」
「おい、お前!」

急に声が聞こえて振り向くとさっき絶叫しながらゲーセンから出て行った巫女服の男だった。

「俺がやってやるから代われ」

巫女服の男は俺が持っていた百円玉を取って、慣れた手つきでUFOキャッチャーを操作した。
その男は簡単に景品を取った。プロかと思った。

「ほら、やる」
「あ…ありがとうございます!」
「暁! やっと見つけた…!」
「…お、ちーづーるぅー!!」

俺が礼を言おうとすると巫女服の男は少女の方に走って行った。
………変な奴。

「可愛いですこの人形」
「そ、そうか…?」
「はぁー、もう満足です! 眠たいので家帰りましょう」

チヒロは眠たそうに欠伸をする。
まあ、お嬢は夜遊びに慣れてないからしょうがないか。
チヒロに帰ると声をかけて、主に学生達で賑わうゲーセンを出る。




「…まだ親、仕事中っぽいです」
「そうか。なら良かった」
「今日はここまでですね」
「ああ」
「それでは、おやすみなさい泥棒さん」
「おやすみお嬢。また今度な」

二人でクスッと笑いあって、別れを告げた。
今夜も長い泥棒としての時間が終わった。特に今日はスリルを味わったり、夜遊びしたり…

盗んだ結晶を眺めて今日のことを思い出し、微笑する。
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