今日の無料ガチャは、吊り天秤(銀)。
《夜桜見ゆる座敷牢》
「お二階から直接会いに来ちゃった」
彼女はそう言って、いたずらっぽく笑った。(梯子ならぬ吊り天秤を使って?)二階の回り廊下に外からよじ登って上がってきたらしく、
2023-3-30 20:40
夜桜見ゆる座敷牢0
乱れてはだけた着物の裾から大胆にも悩ましい白い足を無造作に見せて、でもそれには手を伸ばしても届かない位置で。この恨めしい格子の向こうで。
「もっと近くに来なよ」
そう声をかける俺。
「ダーメ。今夜はあなたと花見をしに来ただけだから」
無情なる拒絶。彼女から近づいてくれないなら、俺にはどうにもできない。見慣れた格子が俺たちの間を絶望的に隔てる。
だが……見るのも嫌になるほどに見飽きたこの格子越しの景色が、とてもきれいで。
「夜桜、か」
「ええ、夜桜。きれいでしょう?」
「ああ」
彼女がいるからこそ……この世界は美しく目に映るのだ。
この時はそう思っていたのに。
いざ、外に自由に出られるようになった俺は、彼女を捨てた。彼女以外に女を作った。だけどそれはその女が彼女よりもっと美しかったわけではない。ただ、彼女から以前には感じた美しさが思ったほどでないことに失望して、その失望を埋めようとしただけで。
そんなだから長続きするわけもなく、何人もの女と付き合っては別れた。俺から別れを切り出し、あるいは向こうから切り出されてもあっさりと応じた理由は、彼女ほど惹かれていなかったからだが。だからといって彼女の元に戻ることはしなかった。
もしも戻るとしたら……それは俺があの部屋に戻るしかない。そう、あの時感じていた外の世界の美しさや憧れ、そこで自由に生きていて時折、俺の元を訪れる彼女という存在に惹かれたのは。閉ざされた世界にいてこそ輝いて見えた「幻」だったのだから。
だが、今さらそんな郷愁じみたものであの不自由さに戻る気はない。戻ろうにも、あの部屋があった屋敷は、あの翌年に桜を見る前に流されてしまったのだから。戻りようがない。
幸い、あの時……本来なら閉じ込められたまま俺は死ぬのを待つしかないかと思われたが。流された家同士がぶつかった衝撃で壁が歪み、格子が外れて外に出られた俺は、必死に屋根に這い上がって救助を待って助け出された。彼女も別のところで似たような状況に遭遇したのだろうが、家の外壁を一階から二階によじ登れるバイタリティーを発揮したのだろう、助かっていて。
しかし、俺を閉じ込めていた家人は……出掛け先で車で逃げようとして渋滞につかまって、そこを波にさらわれて、車内に閉じ込められたまま……。皮肉なものだ。
その後の世界は、様々な悲劇と混乱、その中での奇跡と美談、ない交ぜで。非現実的でありながらそれが現実という、おかしさで溢れかえっていて。俺が見たかったものはこんな世界じゃなかったはずだという戸惑いもお構いなしに、待ってくれない現実に背中を押されて、流されて。どうにかこうにか今もこうして生きているけれど。
今思い返すと、あの格子越しの景色は、すべて俺の妄想が作り出したものだったんじゃないかとも思う。
それでも……格子越しにこちらに差し出された彼女の手に触れた時に感じた、ぬくもりの記憶は、けして妄想の産物の幻などではなかったと思っている。
※※これはフィクションです※※
なお閉じ込められていた「俺」さんは、その家にとっては表に出すのは恥ということ以外の大した理由はなく閉じ込められていた感じ?で、周囲からは単なる引きこもりだと思われていて。引きこもっていた頃から書いていた、なろう系小説のひとつが、「引きこもりが命からがら救助されて、その後引きこもりから脱出」したことで注目されたこともあってヒットして。多少お金持ちになったことで女性にモテたりはあったけど。
自伝的小説に出てくる「世話焼きしてくれる美人で積極的な幼馴染み」の存在は、完全に彼の妄想の産物であることは、周囲にはバレバレである。とか?(というのもフィクションです)
実は座敷牢に入れられてるのは彼女ではないよ、という短い説明を書くだけのつもりが、思いつきで長くなってしまったf(^_^;)
「もっと近くに来なよ」
そう声をかける俺。
「ダーメ。今夜はあなたと花見をしに来ただけだから」
無情なる拒絶。彼女から近づいてくれないなら、俺にはどうにもできない。見慣れた格子が俺たちの間を絶望的に隔てる。
だが……見るのも嫌になるほどに見飽きたこの格子越しの景色が、とてもきれいで。
「夜桜、か」
「ええ、夜桜。きれいでしょう?」
「ああ」
彼女がいるからこそ……この世界は美しく目に映るのだ。
この時はそう思っていたのに。
いざ、外に自由に出られるようになった俺は、彼女を捨てた。彼女以外に女を作った。だけどそれはその女が彼女よりもっと美しかったわけではない。ただ、彼女から以前には感じた美しさが思ったほどでないことに失望して、その失望を埋めようとしただけで。
そんなだから長続きするわけもなく、何人もの女と付き合っては別れた。俺から別れを切り出し、あるいは向こうから切り出されてもあっさりと応じた理由は、彼女ほど惹かれていなかったからだが。だからといって彼女の元に戻ることはしなかった。
もしも戻るとしたら……それは俺があの部屋に戻るしかない。そう、あの時感じていた外の世界の美しさや憧れ、そこで自由に生きていて時折、俺の元を訪れる彼女という存在に惹かれたのは。閉ざされた世界にいてこそ輝いて見えた「幻」だったのだから。
だが、今さらそんな郷愁じみたものであの不自由さに戻る気はない。戻ろうにも、あの部屋があった屋敷は、あの翌年に桜を見る前に流されてしまったのだから。戻りようがない。
幸い、あの時……本来なら閉じ込められたまま俺は死ぬのを待つしかないかと思われたが。流された家同士がぶつかった衝撃で壁が歪み、格子が外れて外に出られた俺は、必死に屋根に這い上がって救助を待って助け出された。彼女も別のところで似たような状況に遭遇したのだろうが、家の外壁を一階から二階によじ登れるバイタリティーを発揮したのだろう、助かっていて。
しかし、俺を閉じ込めていた家人は……出掛け先で車で逃げようとして渋滞につかまって、そこを波にさらわれて、車内に閉じ込められたまま……。皮肉なものだ。
その後の世界は、様々な悲劇と混乱、その中での奇跡と美談、ない交ぜで。非現実的でありながらそれが現実という、おかしさで溢れかえっていて。俺が見たかったものはこんな世界じゃなかったはずだという戸惑いもお構いなしに、待ってくれない現実に背中を押されて、流されて。どうにかこうにか今もこうして生きているけれど。
今思い返すと、あの格子越しの景色は、すべて俺の妄想が作り出したものだったんじゃないかとも思う。
それでも……格子越しにこちらに差し出された彼女の手に触れた時に感じた、ぬくもりの記憶は、けして妄想の産物の幻などではなかったと思っている。
※※これはフィクションです※※
なお閉じ込められていた「俺」さんは、その家にとっては表に出すのは恥ということ以外の大した理由はなく閉じ込められていた感じ?で、周囲からは単なる引きこもりだと思われていて。引きこもっていた頃から書いていた、なろう系小説のひとつが、「引きこもりが命からがら救助されて、その後引きこもりから脱出」したことで注目されたこともあってヒットして。多少お金持ちになったことで女性にモテたりはあったけど。
自伝的小説に出てくる「世話焼きしてくれる美人で積極的な幼馴染み」の存在は、完全に彼の妄想の産物であることは、周囲にはバレバレである。とか?(というのもフィクションです)
実は座敷牢に入れられてるのは彼女ではないよ、という短い説明を書くだけのつもりが、思いつきで長くなってしまったf(^_^;)
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