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season3 第14話(2)

それから3日後――

病室では二階堂が目を覚ました。


―――生きてる。


二階堂は無意識に上総(かずさ)を探していた。イチはどこ?

上総は隣の二階堂が気になり、チラ見した。目を覚ましたんだ!
彼は動ける程度の怪我なため、思わず二階堂がいるベッドへと向かう。


「二階堂…気がついた?」
上総の優しい声がする。

「…イチ………私生きてたんだ…」
「そんなこと言うなよ…。生きてるだけで十分だろうに…」


彼女の目から涙が溢れていた。二階堂は号泣。

「そんなに泣くなよ…。な?」
「………うん」



御堂達は本部へと戻っていた。


「和希、おかえりなさい」
鼎は思わず声を上げていた。声は優しい。

「お、おいっ!鼎…どうしたんだよ!?なんかテンション高くないか!?」
あれだけ寝た鼎は完全回復していた。

「嬉しいんだよ。和希に会えるのが…。だから……」
言葉に詰まる鼎。彼女は無言でぎゅっと抱きしめた。

「これが今の気持ちだからな」


いきなりハグするなよーっ!なんか恥ずかしい…。


今、鼎と御堂がいる場所は隊員達の往来が激しい通路の一角。
隊員達はチラチラ見ている様子。

「ちょ、照れるからこっち見んな!」
思わず顔を赤らめる御堂。鼎は無言のまま、ずっと彼のぬくもりを感じていた。


梓といちかはその通路にいた。

「あずさん、たいちょーハグされてる〜」
あからさまな言い方をするいちか。梓はニヤニヤした。

「いい感じじゃ〜ん」


「……お前らからかうな」
そう2人に言い放つ御堂。


彼は鼎を見た。よく見ると彼女は強い力でなかなか離そうとはしない。相当寂しかったのだろう。

御堂は鼎の頭を優しく撫でた。
「…お前、寂しかったんだろ」

うなずく鼎。鼎は彼の顔をまともに見れずにいるらしい。嬉しいやら何やらで、感情が渋滞しているんだろうな。


「鼎、落ち着いたか?さすがにちょっと……長いよ」
「わ、悪かった!」


思わず手を離し、御堂の顔を見る鼎。
彼女は仮面を着けているのに、どこか表情があるように見えるのは気のせいか…。

鼎もまた、不器用だった。


「場所を変えようか。通路だと迷惑だろ。どこにする?」
「……屋上」


屋上か。



本部屋上。久しぶりに御堂と鼎だけでここに来た。


「室長から聞いたよ。お前…司令を目指すって話」
さりげなく聞く御堂。

「長官から今回の件で司令に昇格するみたいな話を聞いたんだが…私は辞退したんだ」
「話蹴ったのかよ!?」
驚きを見せる御堂。千載一遇のチャンスを蹴るなんて…マジ!?


「私は『実力』で司令になりたい、組織を変えたいと言ったんだ。
だから司令資格試験を受けた上で、司令になるよ。じゃないともやもやする。何年後になるかはわからない。超難関な狭き門を通過するのは難しいからね」


実力で司令になりたいとか、初めて聞いた。室長達と同じ条件でなりたいのかな…。
実績を評価されるのは嬉しいはずなのに、わざわざ難しいルートを選ぶなんて…。


「本気で変えたいんだな。この組織を」

「外崎との出会いも大きかった。人間といい怪人の共存を実現したい。
いい怪人は差別がひどいと聞いている。肩身が狭いとも聞いた。人間態で慎ましく暮らしているだけなのに…。難しい問題だが、良くしていきたいんだ。
私はゼルフェノアをもっと市民に開けた組織にしたい…」


「夢」を持ったんだな。鼎は変わった。
具体的なビジョンが見えているなんて、俺よりも進んでいるじゃないか。



ゼノク隣接組織直属病院・長官用特別病室。


南は恐る恐る入室するなり、単刀直入に聞いた。

「長官、やはり引退するんですか…」
「再起不能と言われてはねぇ。西澤も勿体ぶらなくてもいいのにさ。
自分の身体だよ?なんとなくわかってはいたさ、こうなることは。
すぐには引退しないけどね。退院してまあまあ動けるようになってから、判断するから。引退しても組織はすぐには去らないよ。引き継ぎがあるでしょう」


「蔦沼長官が引退するとなると、次の候補は一体誰にするおつもりで?」
「空席のまましばらく行こうと思う。今現在…長官にふさわしい人間が見当たらないからね。
あ、あと…紀柳院は僕の司令昇格を蹴ったよ」


長官自ら、彼女に昇格のチャンスを与えたのに蹴っただと!?


「南、なにびっくりしてんのさ。話を聞きなさい。
彼女は自身の『実力』で司令になりたいと言ったんだ」
「実力重視で行くとは予想外ですよ…。
ってことは…あの試験を受けることになりますよね…。彼女からしたら荷が重いんじゃ」


「そうかなぁ」



約2週間後。憐鶴(れんかく)は苗代と赤羽を病室に呼んだ。


「大事な話があります。聞いてくれますか」

憐鶴さんが呼ぶってよほどだよなぁ…。


「『特殊請負人』を解散したいと思うんです。組織公認の裏稼業はもういらない。長官も以前言ってました。『今まで君にやらせてすまない』と。
私は隊員に戻りたくて…わがままですよね」

「…なんとなく予想してました」
「憐鶴さん、隠しても無駄なのに。バレバレだからね」


わかっていたのか。話が早い。


「…憐鶴さん、解散はいつするんですか?」
苗代が聞いた。

「そうですねー…。退院後でないと私は何も出来ませんし…。あの地下の部屋、少しずつ片付けて貰えないでしょうか。武器庫はそのままで」


この時点で苗代と赤羽は退院・復帰していた。
2人はすんなりと受け入れる。

俺達も元の隊員に戻る時が近づいている。



支部隊員達は京都の支部でわいわいやっていたのだが。


「小田原司令、支部はこのままでいいのか?本部とゼノクがだんだん変わり始めてる」
なんとなく司令に聞く囃(はやし)。

「うねりが起きてるな。大きなうねりがな。
囃、ここ(支部)を変えたいのか?」
「…俺……紀柳院ほどはっきりしたビジョンなんて持ってないし…。これからのことなんてわからねぇよ…」

「そのうち答えが出るんじゃないか」



組織の全指揮権はまだ本部のまま。司令室には宇崎・北川・鼎がいる状態。


「鼎、なんか緊張してない?大丈夫?」
宇崎は鼎におちゃらけて聞いてみた。

「…司令室はしばらく3人体制なんだな…。違和感があるよ…」
しどろもどろに答える鼎。


あぁ、だから緊張してたのか。慣れないもんな、鼎からしたら。
指揮出来る人間が3人いる状況なんて。

「ゼノクが復旧するまでだから慣れるって。鼎はもう少し肩の力、抜いたら?ガチガチだぞ。
それに今は平和なんだ。変に焦る必要もないでしょ」


確かにそうだ。今は平和なんだもんな…。


「試験勉強頑張ってるね〜。実技の予習は付き合ってあげるよ。…前も同じこと言ったっけ。
実技は筆記試験よか難しいからさ。先輩としてアドバイスするよ」

宇崎はテキストを見ながら勉強している鼎にそう優しく言った。テキストは分厚い。



さらに約2週間が経過した。


二階堂と憐鶴はそこそこ動けるようになる。彼女達は退院に向けてリハビリ中だ。


「芹那〜。退院近いってホントか?」
上総はいつの間にか二階堂のことを名前で呼ぶようになっていた。

「だいぶ動けるようになりましたし、近いですよ」
「お前、義手が気になっているのか?今は平和なんだぞ」

「……そ、そうだね…。慣れって怖いよね…。
今まで特注の戦闘兼用義手を使っていたから…通常のものを使うのは組織に入る以前以来なんですよ」


だから気にしてたのか。
まぁ、あいつからしたら義手・義足は身体の一部だ。違和感あるのもわからんでもない。

二階堂は上総から「芹那」と呼ばれるのが嬉しかった。
やっと名前で呼んでくれたよ…。素直じゃないんだから…。



畝黒(うねぐろ)を撃破してから約1ヶ月が経った。

ゼノクは研究施設の一部のセクションをメイン施設に移行する。これなら研究施設の復旧に時間がかかっても機能はそのままだ。


「西澤、強引な方法を使いましたね。長官が笑っていましたよ。モニター見てください」


西澤は言われるがまま、PCのモニターを見た。

そこにはリモートで長官の姿が映し出されていた。明らかに空元気な笑顔。


「…あ、長官」
「気づくの遅いよ」
「退院の見込みはまだ立たないみたいですか…」

「残念ながらまだ目処は立ってない。…あ、あんまりこっちを気にしないで。
僕は引退する身なんだし…」
「本当は色々気になっている癖に、ごまかさないでくださいよ」


わざと開き直りを見せたのが仇となった蔦沼。空元気なのがバレた。


「空元気はやめてくださいよ。なんだかんだ隊員達も長官のこと……ものすごく気にしているんですからね」

気にされてた。



―某日、とあるカフェバー。
鼎は御堂と一緒に来ていた。


「なんだよ話って」
ぶっきらぼうに聞く御堂。

「こうして2人で飲みに来るの…意外と初めてだなって」


言われてみればそうだった。2人きりはない。昼間、2人きりで食べに行くことはあっても、意外と夜は初めてで。


「平和になって良かったんじゃないの?じゃないとしっぽり飲みになんて行く余裕なんかないし…。
平穏を取り戻したんだぞ俺達は」
「……そうだね」


「悩みがあるなら好きなだけ聞いてやるよ。鼎はなかなか言わないからな〜」

「言ってもいいのか?」
鼎は不安そうな声を出す。


「遠慮すんなよ。俺達付き合ってる仲じゃんか」
「ぎこちないけどな…。
うまく言えないんだ、和希のことが『好き』だとはっきり意識したのは去年あたりとか、わりと最近だったが…無意識に惹かれていたかもしれないって」

「お前との付き合い自体は長いんだよな〜。先輩後輩時代を含めりゃさ。
鼎は自分が変わったと思うか?」


少しの間。

「変わったかもしれない」
「それを聞けて俺は嬉しいよ」





第15話 最終回へ。


season3 第14話(1)

壮絶な畝黒(うねぐろ)との戦いは終わった。ついに終わったんだ。


モニターをしばらく見つめていた鼎だが、全てが終わり安心したのかふらあっと後ろ向きに倒れそうになる。
北川は機敏な動きで彼女を受け止めた。

「紀柳院っ!」
あと少し遅かったら彼女は後頭部を打っていただろう。危なかった。


瀬戸口も駆けつけた。
「紀柳院さん!?」
北川は彼女の白いベネチアンマスクを僅かにずらし、呼吸を確認する。

「瀬戸口だっけ、大丈夫だよ。紀柳院は気を失ったみたいだから。安心したんだろうね。
長丁場だったから疲労困憊だったんだ。彼女は頑張ったよ。指揮…お疲れ様。ゆっくり休んで欲しいよ」


その後、北川は彩音と梓を呼んだ。

「俺が救護所に彼女を運ぶから、ベッドに寝かせてくれるかな。
コートは脱がせてね。紀柳院は今、眠っているよ。熟睡してるみたいだ」


北川は鼎を背負っていた。

怪我人じゃないし、担架で運ぶほどでもないからこうしたが。彼女をとにかく休ませてあげたい…。



救護所へ到着すると、北川は鼎をベッドの上に降ろし「後はよろしくね」と言い、出ていった。


彩音と梓は鼎をベッドに寝かせてあげている。コートを脱がすのは大変だった。
なんとかして布団の中に寝かせた2人。掛け布団の上には司令用の黒いコートを掛けておいた。

「こんだけ好き勝手されてんのに、全然起きないな」
「それだけ疲れているんだよ。だから寝かせてあげようよ。時々私達で様子見に来ればいいよね」

「彩音…悠真のやつ、成長したよな。あれから変わったんじゃないの?」
「…かもね。鼎を起こさないようにして出ようか。お疲れ様」


2人は静かに救護所を出ていった。救護所には鼎1人しかいない。彼女は熟睡してるのか、寝息を立てている。
鼎は泥のように眠った。



鼎が救護所に運ばれたあたりと同時間帯。御堂達は本館に戻り、西澤から怪我の手当てをしなさいと言われていた。


「病院行けっていうのかよ!」
ギャーギャー言う御堂。

「君たちどう見てもケガしてるよ。程度なんて関係ないからね。軽いケガでも手当ては受けろ。…本部に帰さないぞ。
宇崎はだらだら流血してるし、ほら消毒するから来いって!」


西澤が強引になっていた。

5人の怪我の程度は軽いが、手当てを半ば強引に受けることに。



ゼノク隣接組織直属病院。


「いだだだだだ!」

消毒が染みるのか、思わず叫ぶ囃と御堂。宇崎は額に包帯が巻かれていた。戦闘でひび割れた眼鏡はスペアを掛けている。
陽一だけほぼ無傷。怪我は切り傷程度。

晴斗も消耗が激しく、若干ふらついていた。
発動の威力上げすぎ要注意だ…。ぶっ倒れそう。


「念のため1日だけ様子見で入院しろだって。陽一は入院する必要ないよ、切り傷だけだから。
そしたら全員本部に帰っていいからな。特に消耗の激しいそこの3人!…寝ろ。
発動の消耗は点滴打たないと回復しないからな。だから寝ろ」

西澤室長のキャラ、なんか変わってない?
消耗の激しい3人とは御堂・晴斗・囃(はやし)のことである。

そんなこんなで陽一以外の4人は大事を取って1日入院するハメに。陽一はその間、西澤と一緒にいることにした。


西澤からしたら消耗の激しい3人は回復させる必要がある。じゃないとまともに動けないだろうね。


……それにしても御堂と晴斗はタフすぎやしないか?


攻撃力最大を使っておきながらも2人は倒れなかった。なんてやつだよ。並みの隊員だったら倒れてもおかしくないのに。それか、反動でダメージを受けてしまう。

反動でダメージを受けたのは憐鶴と二階堂だった。だから彼女達は重傷を負っている。



いちかはそーっと救護所の鼎の様子を見に来た。
びっくりするくらいにぐっすり寝てる。きりゅさん、警戒心が強いから普段はこんな姿滅多に見せないのに…。

相当疲れているんだね。



再びゼノク隣接組織直属病院…の、今度は隊員用のとある病室。
そこに三ノ宮が姿を見せた。


「……粂(くめ)、来たよ」

あれからトラウマで怯えている彼女は聞き慣れた声に反応し、ようやく顔を上げる。そこにはどこか頼りない眼鏡の見慣れた男性がいた。


「三ノ宮…」
粂は呟いた。

「三ノ宮は無事だったんだ…。私…あれからずっと怖くて怖くて怯えてる。腕へし折られた時は恐怖しかなかった」

三ノ宮は静かに話す。ぽつぽつと。
「ヤツは撃破されたよ。ものすごい地響きがしただろう?あの時倒されたって聞いた」


あの時の地響きは撃破された時の衝撃だったなんて、知らなかった。地震だと思い込んでたから…。

この病室にいる二階堂以外の隊員はようやく撃破されたと知る。


二階堂は眠っていた。起きる気配はまだありそうにない。


二階堂のベッドの横にある棚の上には西澤が用意した、真新しい義手が置かれていた。破壊された研究施設から探してきたとか聞いた。
施設内には義肢製作所もあるため、この襲撃で製作所は被害を受けたが義肢自体の被害は少なかった。

入院中ということで、通常のものだが見た目はスタイリッシュ。

上総(かずさ)は二階堂を気にしている様子。


憐鶴はこれを機に特殊請負人を辞めようか、さらに迷っていた。
組織公認の怪人対象の裏稼業をするくらいなら…隊員でいい。

決めるのは回復してからにしようか。



本部休憩室。


「…これで終わったんだよね……。なんだかしっくり来ないっすよ…」
いちかは本音を漏らす。

「ゼノク研究施設の被害を考えたら、手放しでは喜べないよな。あっちは負傷者多数だっていうし、こっちも隊員に犠牲者が出てる。
幸いなのは市民の負傷者が最小限だったことくらいか…」
梓は気難しそうな顔をした。

「うちの組織がヤバいのは、この件で長官が負傷したことだよなぁ。怪我の程度について詳細が出てないのが気になる。重傷なのか、どうなのか」
「梓もやっぱり気になってるんだ…」

彩音も深刻そうな表情を見せた。


「ゼノクは復旧に時間がかかるでしょう。しばらくの間は組織の全権は本部に移行したままになるかもしれませんね」
桐谷は推測した。西澤はあの時、緊急事態だからとゼルフェノアにおける全権を一時的に本部に移行している。今現在、ゼルフェノアの全指揮権は本部にある状態。

「きりやん、胸が痛いよ…。チクチクする」
「いちかさんは優しいんですね。鼎さん、相当お疲れだって聞きました。救護所で今、寝ているんですよね」

「うん。あれからまともに休めてなくて、疲労困憊だって北川さんから聞いたよ。だからきりゅさんを寝かせてあげてって言われたっす」
「寝かせてあげましょう。彼女も頑張りましたから」


ベテラン隊員の桐谷から見た中では、鼎は司令に向いているのでは…?と感じた。
サポートありとはいえ、健闘していたとも言うし。

「あずさん、本当はきりゅさんのこと気になっているんでしょ」
「おい!なんだよその呼び名。『あずさん』はやめろよいちか!
………気になってんよ」

梓は意外とわかりやすい人。ツンデレか。



ゼノク隣接組織直属病院・長官用の特別病室。


秘書兼SPの南はあれからほとんど言葉を発しない蔦沼が気がかりだった。

「……南、僕の検査結果って出たの?怪我の深刻度についてなんだけど」
「まだ…出ていません。時間がかかっているあたり…気になりますよ」


蔦沼は南を横目にした。

「怪我の深刻度によってはこのまま引退かなぁ。最大出力で雷撃2発撃った反動でダメージ受けちゃったからさぁ…。
前々から進退については考えてはいたんだが、ゼルフェノアは大きく変わろうとしていると感じてるんだ。
…本部は変わるんじゃない?紀柳院が変えそうなんだよね。ゼノクも変わりそうな気がするんだ」


南は何も言えなかった。

進退についてやっぱり考えていたのか…。それも真剣に。



本部第2休憩室。ここには応援に来た支部隊員達がいた。
まだ支部には帰れない彼ら。囃待ちなんだが。


「囃のやつ、まだ帰って来れないみたいだよ」
そう切り出したのは鶴屋。
久留米が聞き返す。

「囃が激戦でえらい消耗したんだっけ?あいつが帰ってくんのは明日?」
「久留米さん、隊長が退院するのは明日と聞いてます。様子見の入院なので怪我は大したことないらしいとかなんとか」


月島が遠慮がちに言う。高羽も気にしていた。

「様子見で入院『させられた』んじゃないの?西澤室長、ああ見えてたまに強引らしいじゃんか」
「あぁ、やりそ〜だね〜」

久留米が悪ノリする。
支部隊員の雰囲気はお通夜ムードの本部隊員の一部とは異なる。



解析班。朝倉はかなり遅れて神(じん)を迎え入れた。


「神さん言うの遅れたけど、おかえりなさい!」
「生きて帰ってきましたよ〜。俺がいないと『解析班じゃない』んだろ。俺もしっくり来ないんだ」

「その言い方、やっぱり神さんだ」
喜ぶ朝倉。それを見守る矢神達。解析班はどこか穏やかな雰囲気。



本部司令室では北川がひとりだけ。彼は西澤と連絡していた。


「――と、いうわけでもうしばらく本部にいて頂けませんか。ゼノクの復旧には時間がかかりますし…。
なので当分の間、全指揮権は本部に移行したままにしますよ」
「この際だから本部を中心にしたらいいのでは?世間のイメージは本部が組織の中心だぞ」

「…しかし、そこは長官次第ですし」
「その蔦沼はまだ動けないと聞いたが、どうなんだ」


「思っていたよりも怪我がひどくてね…。まだ長官には検査結果は言ってませんよ。
長官、引退するか考えているようだったからなかなか言えなくて…」
「そこは言おうよ!ねぇっ!蔦沼は悩んでいるんだよ!!ゼノク三役は付き合い長いんだろ!?」


「組織を大きく変える人、現れそうですよね。北川はもう気づいているんじゃないのか?」
なぜか話をはぐらかす西澤。こいつ、はぐらかしやがった…。

「薄々気づいてるよ。早くて数年後になるかもね、ゼルフェノアが変わるのは」



救護所では鼎が深い眠りについている。起きる気配はゼロ。
今度は桐谷が様子を見に来ていた。

あんなにもぐっすり眠っている鼎さん、珍しい。移動中の車内ならわかりますが、ずっとプレッシャーと戦っていたんですね。


season3 第13話(4)

地下空間での攻防は続いているのだが、不穏な気配がしていた。
畝黒(うねぐろ)怪人態の触手を再生出来ないように装置を使い凍結させることで、封じていたのだがどうもさっきから切断されて凍らせた触手から「ミシ…ミシ…」と音がしている。

凍結装置が持たない!


囃(はやし)はヘトヘトになりながらも渾身の一撃を与え、ふらふらしながらも御堂達に任せる形に。
「……後は頼んだわ。…スタミナ切れみたいだ」

囃は陽一に回収された。陽一は御堂と晴斗を見る。
2人で翻弄させてるみたいだが、なんでブレードを発動させない?


嫌な予感は的中してしまう。凍結は中継ぎに過ぎなかった。
ミシミシ音を立てて割れる氷。氷が勢いよく飛んでくる。それと同時に切断された全ての触手が再生してしまう。

触手は同時に4本展開→縦横無尽につけ狙う。避けるだけで精一杯の御堂達。
よく見ると触手の先端には、蕾のような形で何かを発射出来るようになっているではないか!


一気に劣勢になる一同。さらに畝黒は右手を大きく翳した。

マズイ!!


とっさの判断で宇崎はブレードのある機能を使った。

それはバリア。このバリアのおかげで御堂達はダメージを受けずに済んだ。


「室長、なにこれ!バリア!?」
晴斗の声が上擦ってる。

「いいから集中しなさい。俺はバックアップするから。陽一は囃を見る必要があるでしょ。
囃は発動100%を何回も使っていたからスタミナが切れたんだね。和希、人使いが荒いぞ」


劣勢なのになんで余裕な言い方をしてるんだ?あ、元々室長はこんな感じだった…。


宇崎は触手よりもあの右手を封じたいと思っていた。

凍結により触手は一定時間止めることが出来たが、あの強力な攻撃の契機となる右手はまだ攻略法がない。



彼の対怪人用ブレード・颯雲(そううん)にはある思いが込められていた。
このブレードに関しては、1番最初に作られたプロトタイプを元にしている。

そのプロトタイプを考案したのが蔦沼だった。
対怪人用ブレードが出来た経緯は約15年以上前に遡る。ファーストチームから特務機関ゼルフェノアに名称が変更した頃だ。


それまでは既に存在している装備で怪人と戦ってはいたのだが、専用装備がないと決定打にならないと見た蔦沼(当時:司令から長官に移行中)は後輩の宇崎と共に試行錯誤した。
トライ&エラーを繰り返し、ようやく完成したのが「対怪人用ブレード」。基本的に日本刀型だが、使い手に合わせてオーダーすることも出来る。

このブレードは全隊員には支給せず、希望者のみに専用のものを作る形を取った。それにより、個性的なブレードが誕生。


プロトタイプを元にした颯雲は、長官が1番最初に作ったブレードを参考にしている。デザインもかなり初期型に近い。

使い手の力を発揮する「発動」は実用化から実装されたため、初期のものにはない。
陽一のブレード・燕暁(えんぎょう)はその初期〜実用化の間に出来たため、発動しなくてもそこそこの威力が備わってある。



宇崎は果敢にも飛び込んだ。バリアがある今なら行ける!
長官の仇を取らせてくれよ…!



時系列は少し戻る。宇崎と陽一がヘリで研究施設へ行く直前、西澤からある知らせを聞いた。


それは蔦沼の怪我の具合。

義手が破壊されたのは安易に想像出来たが、この時点では検査しないと再起不能になったのかはわからずにいた。


秘書兼SPの南が見た蔦沼は明らかに重傷。ベッドの上でうわごとを言っていたらしい。意識ははっきりしていた。
だが、立てないような状態にも見えた。再起不能になったのだろうか…。まだ報告が来ていない。

西澤は移動前の宇崎にこんなことを伝えていた。
『長官はこれを機に引退するかもしれませんよ』…と。



時系列は現在。


宇崎はやけくそ気味に攻撃を仕掛けてはやられてる。

どうにかしてあの右手を封じたい…!あれさえなければ…。だがなかなか近づけない!


再び右手を翳す畝黒。気のせいだろうか、笑っているようにも見える。
地下深くに突入する気か!?

宇崎はギリギリ御堂と晴斗をまとめて攻撃から避ける。これには2人も驚いていた。


室長!?


彼はギリギリ避けきれなかったらしいが、まだ戦えた。眼鏡にヒビが入ってる。
彼の眼鏡は防弾仕様だが、畝黒の威力には敵わなかったようだ。

「御堂・晴斗、先にやつの右手を封じろ…いいな」


右手を封じろ?
んなこと言われてもなかなか近づけないんだけど!?

なんとかして懐に入り込めば、行けるかもしれないが…。長官はその方法を使ったことでダメージを受けている。


「御堂さん、俺行くよ」
「晴斗…本気かよ……」

「俺なら小回りも効くし、可能性は低いけどゼロじゃないよ。やってみなくちゃわからないじゃんか」


晴斗は時々鼎と似たようなことを言う。影響受けすぎてるよ…いい意味で。


宇崎は再びバリアを展開する。どう見ても流血しているが。

「今だっ!!突っ込め!!」
晴斗は合図と共に自分のブレード・恒暁(こうぎょう)を秒速発動。刀身が青く光る。


この光は辺りを浄化するような温かみがあった。
そこにすかさず御堂も畳み掛ける。

「出番だぞ」
彼は鼎のブレード・鷹稜(たかかど)に話しかけた。すると刀身が赤く光った。発動されたのだ。


鷹稜は恒暁とは対照的で、発動すると攻撃力が上がる。
刀身が赤ければ赤いほど、威力は増す。限界まで攻撃力を上げたらどうなるのだろうか、そんなこと考えてる暇はない。


「御堂さん!早くっ!!」
晴斗は猛ダッシュで刀身の青い閃光を利用し、畝黒の懐へと入り込む。そして、目眩ましをしている隙に右手のひらを突き刺した。

晴斗はギリギリとブレードを食い込ませる。
「まだまだー!!」


青い閃光は増していた。辺りは青い光と赤い光に包まれている。

晴斗は一気にブレードを引き抜いた。畝黒の手のひらにある攻撃の契機となる、丸い紋様を消し去った。
まだ体力が残っている晴斗は畝黒の右腕を切断。


晴斗は御堂に選手交代した。


「み…御堂さん……後はよろしく」
晴斗はその場からふらふらと離れた。

「鷹稜!攻撃力最大にしてくれ!!ハイリスクなのはわかってる!!」
鷹稜は呼応するようにさらに光を赤く染めた。まるで炎のような光。


御堂も近接戦へ持ち込み、剣戟を繰り広げる。

畝黒はまだ隠し玉を持っていた。それは左手である。
「右手だけだと思ったか?人間よ」


御堂、追い詰められる。



本部司令室ではモニターのライブ映像が復旧。原因不明だが、謎のノイズが消えたため地下の状況がわかる。
そこに映し出されていたのは、今にも攻撃を受けそうな御堂の姿。


「和希っ!!」
思わず悲鳴のような声を上げる鼎。


モニターが復旧するまでの間、何が起きたかわからないが、いつの間にか劣勢になっていたのは理解した。

映像を見ると室長と囃がぼろぼろになっているではないか…。


陽一だけ、ほとんど打撃を受けてないように見える。


鼎は思わず目を伏せた。



地下では御堂が寸前で蹴り飛ばして回避。それもヤクザ蹴り。

蹴っ飛ばした…。


御堂は動ける陽一を動員することに。御堂が持つ鼎のブレードはまだ発動状態。行ける。
攻撃力を極限まで上げたせいか、消耗は半端ないが。


「陽一さん、行けますか…」
「なんのために力を温存していると思ってるんだい。このためだよ」

陽一は陽一なりに考えがあったようだ。


陽一は燕暁の刀身に何かをした。
今、刀身から音が鳴った?シャラララというウインドチャイムのような爽やかな音…。


燕暁に属性を付けるなら風。この音は合図だった。

陽一は燕暁をまるで指揮棒のようにたおやかに操る。


「御堂、連携しようか。君のブレードは攻撃力特化型・俺のブレードは風のようなものだ。
彼女のブレード、攻撃力最大にしてるなら今しかないでしょ。君がガス欠になる前に決着つけないとね」


もうガス欠寸前なんだが…。


陽一はひと振りで畝黒の触手を全滅させた。どうやらあの刀身から発した音は発動に相当する合図…らしい。
彼のブレードの見た目は変わってないのだが。


そこに御堂が畝黒の胸にブレードを突き刺した。
左手なんてどうでもいい。胸にあった核のようなものが引っ掛かっていたからで、無鉄砲にもいきなりそこを攻撃。


「行けえええええ!!頼むから鷹稜持ってくれよおおおおお!!!!」

鷹稜の刀身の色、赤い閃光は鮮やかに染まる。畝黒は予想外の猛攻に断末魔を上げ続ける。


御堂はさらに力を込めた。

「鷹稜、折れるなよ!!最後の仕上げだ!!」
御堂に呼応する鷹稜。辺り一面赤い閃光に染まる。まるで夕日のような綺麗な光だった。


彼はなんとか最後の一撃を喰らわせ、一気にブレードを引き抜いた。
と、同時に畝黒から大量の黒い血が流れ→御堂がその場からふらふらと離れた瞬間に大爆発を起こした。



ものすごい地響きが辺りに響き渡る。まるで地震のよう。


御堂はゼイゼイ言っていた。
「た…倒したぞ……」
「和希…無謀すぎだろうが…」


御堂と囃はハイタッチする。晴斗も陽一・宇崎と喜んだ。



本部司令室――

鼎と北川はずっとモニターを凝視していた。少しして。


「―――か、勝ったのか!?」

「…みたいだね。あの爆発は撃破したってことじゃないか。ほら」


映像を少し巻き戻すと、御堂がとどめを刺したことがわかった。
鷹稜の刀身の色が見たことのないような赤い閃光に染まっていた。綺麗な夕日のような、炎のような色に。


――攻撃力最大とか、和希らしい…。ハイリスクなのに。



ライブ映像では5人がぼろぼろになりながらも、互いを称えあう様子が映し出されていた。
和希の弾けるような笑顔が眩しい。晴斗は大喜びしてる。囃はテンションの高い2人にたじたじな模様。

宇崎と陽一は3人を見守っていた。





第14話へ。


season3 第13話(3)

御堂と陽一はふと思った。

――やつの触手がさっきから鬱陶しいくらいに攻撃してきてるが、本体はどう見ても近いよなー…。
触手は伸縮自在なのはわかった。


「…室長・囃(はやし)・陽一さん・晴斗。ちょっと提案があるんだが、乗ってくれる?
このまま翻弄されてちゃ、キリないだろ。触手にだけ攻撃してるっつーことはさ、本体明らかに近いだろ。カマかけてみるか?」

御堂はリスクを伴うが、畝黒(うねぐろ)怪人態を誘き寄せることにする。


その方法とは。



囃は地下1階に所々ある、コンテナ型の小さな武器庫を見ては目をキラキラさせていた。

「通路に所々あるこのコンテナ、ちっさい武器庫だったんか〜。はえ〜、知らなかった〜」
感心する囃。

とあるコンテナを開ける御堂。出しているのは手榴弾2つ。


「前に西澤か誰かから聞いたんだよ。地下1階には武器庫が隠してあるってやつ。しっかし…コンテナなのは気づかなかったわ。擬態かい。
この施設は『最初から怪人襲撃を想定して造られた』っていうから、特に地下は抜かりない。研究員も戦えるように訓練されてんだよ。特に地下担当はな」

「手榴弾で何する気だよ」
「…え?挑発。やつは簡単に爆破出来るらしいじゃん。ならば、手榴弾で誘き寄せてやる」


ここを爆破させる気かよ!?
御堂、狂ったか!?


「なに、慌てた顔してるんだ。地下は手榴弾程度じゃ壊れねーよ。地上よりも要塞化してんだぜ?
それを活かすのさ。簡単に壊れない地下を利用させて貰うぞ」

御堂はニヤリとした。これはゼノク関連施設の構造をある程度わかってないと思いつかない。


宇崎は御堂の無謀な作戦にヒヤヒヤする。
いくら敵が姿を現さないからって、手榴弾は無謀すぎるっしょ!

「室長、無謀じゃねーぞ。
鼎。ゼノク隊員の戦闘データと畝黒の攻撃パターンを朝倉から送れるか?」


鼎の通信音声が聞こえた。

「研究施設での戦闘データだな。朝倉は既に分析していたよ。
今モニターに出す。――和希、畝黒は触手をメインとして攻撃している傾向にある。触手攻撃はバリエーション豊富と見受ける。手のひらを翳して広範囲攻撃、爆破も確認されたよ」


なるほどな〜。触手と手のひらを翳したら要注意か。


「ありがとな。んじゃラスボス様のツラ、拝んでくるわ」
「和希!……死ぬなよ」

御堂はカメラに向けて笑ってみせた。
「死なねぇよ」


御堂の言葉に励まされた。
鼎は全員に言った。

「まだ諦めてはいけない…。諦めるなよ!」
鼎の肩が少し震えていた。彼女からしたら、御堂が消えてしまいそうに見えてしまって…。

北川は鼎を落ち着かせる。

「紀柳院、大丈夫さ。面子を見てみろ。精鋭中の精鋭ばかりだぞ。
隊長クラスが揃うなんて滅多にない。まさか…陽一含めて隊長クラスが3人いるとはな〜」



地下では御堂が手榴弾2つを手にし、物陰から触手に向けてそれを一気にぶん投げた。
爆破した手榴弾に気づいたのか、触手に変化が出始める。


――読み通りだな。反応しやがった!


地下の堅牢な造りのせいか、爆破程度では被害なし。

触手はだんだんある場所へ収縮していく。それを追う5人。5人まとめてだと的にされてしまうため、宇崎・陽一組と御堂・囃・晴斗組に分かれた。

囃も次の手榴弾の安全ピンを抜く。囃が手にした手榴弾は通常よりも威力が高いタイプ。
彼も触手の方向に振りかぶって投げた!まるで野球の投球フォームなのは置いておいて。


囃が投げた手榴弾はかなりいいポジションで勢いよく爆発。
畝黒は敵に気づいたらしく、出てきた。


「貴様らか…挑発してるのは。私は非常に怒っている…!」
現れたのは禍々しい見た目の畝黒怪人態。触手がウネウネしているうえに、畏怖すらも感じる威圧感がある。


こいつがラスボス様か。


御堂達は畝黒とついに対峙。
長官と南を戦闘不能にし、精鋭含むゼノク隊員をほぼ全滅まで追い込んだ存在なだけに、ここで仇を取らないと固く誓う者もいた。
それは宇崎だった。宇崎からしたら蔦沼は先輩。


長官、仇を取りますからね――



本部では仁科達4人が帰還していた。霧人達バイク隊もパトロールを終え、戻っている。
東京に出現した怪人はやはり殲滅されていた。


状況を朝倉経由でざっくりと聞いた仁科は冷静だった。
「御堂なら大丈夫だろうよ。あいつ、タフだから。逆境にもめちゃくちゃ強い。ピンチになれば強くなるヤツだろう?」
「仁科副隊長、なんかラフすぎやしませんか」

戸惑う朝倉。
「最前線の御堂達の心配もいいけど、紀柳院の心配もしてやれよ。彼女はよくやってると思ってる。
あれからずっと何時間も指揮してるって聞いたから。北川元司令がサポートしてるのは頼もしいよ」
「司令室…行かないんですか?」

「邪魔したくないからね。紀柳院は繊細だからなおさらだよ」


……補佐、あれから大丈夫なんだろうか。休憩まともにしてないよね?



本部司令室では瀬戸口が気を利かせてた。


「食事どころじゃないでしょうから、飲むゼリーや携帯食糧持ってきました。飲んでください。エネルギー補給は必要です」
「あ、ありがとう…」

戸惑う鼎。おどおどしている彼女は珍しい。



地下では一気に殺伐としたバトルが起きていた。どうやら畝黒は地下5階へ行く方法がわからなかったらしく、さ迷っていた。
地下5階へは「1階にあるとあるエレベーター」を使わなければ行けない。しかもパスワードが必要なため、畝黒は力づくで地下深くへ行こうとするも→地下特有の強固な壁に阻まれた形。

つまり、地下特有の対怪人装備にまんまと嵌められたわけで。
研究施設を設計したのは蔦沼だ。間接的に蔦沼に嵌められたとも言える。


「晴斗と囃はまだ発動させんなっ!タイミングを見計らえ!!俺もまだ発動させない…!
陽一さん、先鋒頼みます」
「了解したよ」


陽一は果敢にも畝黒相手に攻撃する。元隊長なだけに、次々触手をぶった切っていく。ちなみにブレードの発動は一切使ってない。
触手の再生をさせない戦い方だった。

「再生させないよ」
余裕すら見せる陽一。


そこに宇崎が突入する。宇崎は戦闘慣れしてないが、ブレード補正でなんとか戦えてはいた。

「宇崎!足手まといになるなよ!」
「陽一ひどいぞ〜」


先鋒は年長者が行く作戦だった。畝黒怪人態は触手を再生出来ないでいる。
囃は武器が入っているコンテナからある物を見つける。
それは小さな凍結装置。


囃はニタァと笑った。

「触手を再生出来ない方法みーっけた」


この囃の意外な活躍で一気に優勢になる。



本部司令室ではモニターのライブ映像が見にくくなっていた。

「ノイズがひどいな…。交戦中か。音声だけははっきりと聞こえているのだが」

さっきから晴斗の叫び声が仕切りに聞こえてる。攻撃を受けた感じではなさそう。
囃の声が聞こえた。


『んじゃあ、凍結装置起動させるぞ』

凍結装置?そんなもの、地下にあったのか?



地下では囃の機転により、凍結することで触手の再生を無効化した。


「ハマったな〜。和希・晴斗、お前ら暴れちゃえよ」
「囃。ブレード発動させてくれ。50パーくらいで」


50パー?


囃は言われるがまま、ブレードを発動させる。50%ならまだ消耗は少ない。

彼は野太刀型ブレードで凍結部分を一撃で破壊。そこに晴斗と御堂が一気に畳み掛ける。まだ発動はさせない。まだ…!


「晴斗…まだ発動させるなよ。見極めろ。囃がチャンスを作ってくれたんだ、無駄には出来ねぇ!」
「御堂さんわかってるよ!」


囃は御堂の指示通り、蛟(みずち)発動100%を使うことにする。
100パーを使わせるとか、人使い荒いって…。


囃は中距離から蛟を振り回した。ものすごい衝撃波が発生。
バリバリという、破壊音と共に畝黒はダメージを受ける。かなり打撃を受けた模様。


なんという、破壊力だ…。
この男、ただ者ではない…!


御堂と晴斗はまだそれぞれのブレードを発動させてない。
晴斗はここまで通常で戦う意図がわからなかった。


御堂さん、タイミングを見計らえってどういう意味だ?


囃の猛攻は止まらない。
こうなったらヘトヘトになるまで破壊してやる!

地下特有の構造を活かし、囃は暴れている。いくら衝撃波を発生させても地下空間は壊れてない。なんて強固なんだ…。


御堂は晴斗をリードしながら交戦中。

「晴斗、まだでしゃばるなよ!」
「どういうことなの!?」
「よそ見すんなっ!今は囃の好きなようにやらせとけっ!」


囃さんを野放しにしたのはわざとなんだ。囃さんの性格ならやりそうだもんな〜。


陽一と宇崎は一旦退く。

「ここからは彼らに任せましょう。…宇崎、体力ないのか?」
「うるさいな」


season3 第13話(2)

本部司令室――

司令室のモニターでゼノク研究施設の館内マップと照らし合わせている鼎と北川。
「施設自体大きいから構造は複雑なんだな…。地下5階へ繋がるエレベーターはどれだったか」…と呟く北川。


ゼノク研究施設は巨大。施設前方にはエレベーターが2基あるが、後方にもエレベーターはいくつかある。


「地下5階はパスワードを入力しないと行けないエレベーターがひとつだけあるとは聞いたが、パスワードを知る人間は長官と地下エリア担当の冬木室長、それともう1人は誰だったか…とにかく3人だよ」
「エレベーター…敵に使われたらアウトなんじゃ…」

危惧する鼎。



研究施設内部に突入した御堂達。
晴斗はこんなことを言う。


「エレベーター…使えるよ?」
「バカ!この研究施設は特殊だ。確かひとつだけ最高機密のあるフロアに直結するエレベーターがあるとか聞いた。うろ覚えだけどよ。
パスワードはわからん」

御堂はいつもの調子。囃(はやし)はある提案をした。
「階段あるぞ〜。宇崎司令と暁の父親は階段から行ったかもねぇ。階段で地下行くか?」
「室長達を先に探さないとな。晴斗も来い。エレベーターは危険すぎる。仮に直結するエレベーターを当てたとしてもパスワードわからんからどっちにしろ行けないだろうよ。
…それにこの惨状じゃあ、パスワードを知ってるやつは負傷してるだろうし」


御堂の勘は当たっていた。

地下5階のパスワードを知る人間の蔦沼と冬木はこの襲撃で負傷、加賀屋敷は医者なため今は手当てに追われて多忙を極めている。
畝黒(うねぐろ)襲撃で負傷者多数の殺伐とした病院に行くわけにも行かない…。


そんなわけで御堂達は階段で行くことを選択。先にやることは宇崎と陽一を探すことだ。



地下1階。宇崎と陽一は人気のない地下をずんずん進む。
2人はそれぞれ武器を構えている。

「どこにいるんだ?出てこいよ」
「宇崎、挑発はいかんだろ…」


滅多に戦闘をしない宇崎はナチュラルに挑発していた。それに呆れる陽一。
お前、それでも司令か…。

宇崎は司令というか、研究者の方が強いけど。



御堂達は急いで階段を下る。


「ここが地下?地上よりも広っ!」
囃はオーバーリアクション。

地下は地上とは違い、武骨な造りになっていた。この研究施設は地下に重きを置いているため、地下に関しては怪人の攻撃を受けても滅多に壊れないようになっている。


晴斗はなんとなく武器を構えた。それを見て御堂も銃を構える。囃は野太刀型ブレードを担いだまま。

「気味悪いよなぁ〜。出るなら出てこいって」
「囃、なんで挑発すんの。やめろ。室長達はどこにいるんだよ…!」


地下は地上よりも広いため、迷う御堂達。これは宇崎達も同じだったわけで。

城みたいな造りしてるよな〜この研究施設…。簡単には行けないようになってんのか。地上も複雑だし。シンプルなのは1階だけだもんな。
さすがはゼノクの要だわ。


御堂は関心してしまっていた。



「御堂達と宇崎達は階段を使った模様。危険はまあまあ回避されたかな」
あっけらかんとしている北川。鼎は気を張りつめていた。

「危険は回避?畝黒と接触してないだろうに…」


そこに割り込む瀬戸口。
「紀柳院さん少しは落ち着きましょうよ、ね?」

鼎は瀬戸口を見た。瀬戸口は民間人だったはずなのにいつ、隊員になったんだ?


「…瀬戸口、お前いつの間に隊員になったんだ?あの時は民間人だったはずだろ」
「人手不足の解析班の募集が出ていたんですよ。バイトで。そしたらなんかわからないけど解析班にそのままいろってチーフに言われて今に至ります。
今はバイトじゃないですよ?正式に隊員ですし…。救護スキルも身につけました」


バイトってあるんだ…。解析班ならバイト募集しそう。あの朝倉だし…。



地下1階。宇崎達は長い鞭のようなものでいきなり攻撃を受ける。
動きは不規則なため、避けきれない。

「なんかニョロニョロ来たーっ!」
「避けろよ宇崎!ったく、どんくさいよな…お前…。昔と変わってない」


余計なお世話だ、陽一。
この鞭みたいなもん、畝黒か?畝黒怪人態には触手があるとは聞いてたが。



この音は御堂達にも聞こえていた。

「なんかビシビシ聞こえたよね!?叩くというか、激しく斬るような音…」
晴斗は不安そう。地下は音がとにかく響く。

「室長達、あっち側にいるんじゃねぇか?行くぞ!」
「和希、おいっ!…ったくしゃーねぇな〜」


3人は急いで向かう。



宇崎と陽一は鞭もとい、触手に翻弄されていた。触手は1本だけだが、異常に長い。


「この鞭、斬れるのか!?痛っ」
宇崎は切り傷を作っていた。

「宇崎のそのブレードは飾りか?今使えって!バカか!?」
陽一に言いたい放題言われる宇崎。昔もこんなしょーもないやり取りしてたっけ。

2人はゼルフェノア黎明期・ファーストチーム時代からのメンバーだ。北川元司令も黎明期メンバーの1人である。


陽一は引退後もたまに臨時隊員として駆り出されていたため、感覚は鈍っていないようだった。
鮮やかに触手をかわし、鞭を自身の愛用の対怪人用ブレード・燕暁(えんぎょう)で斬る。元隊長の貫禄は健在だった。


相変わらず陽一はすごいよな…。現役まんまじゃないか。


油断した宇崎に触手の魔の手が襲いかかる。宇崎はとっさに自作の対怪人用ブレードを抜刀した。
彼の対怪人用ブレードの銘は「颯雲(そううん)」。日本刀型のブレードだが、研究者自らが自分用に作ったため、スペックは隊員用とは異なる。

「発動」という、使用者のリスクを負う必要がなくても簡単に扱える仕様。研究者らしい装備だ。


陽一は颯雲を見るなりスペックを見抜いた。

「完全なるお前用なんだな、それ。発動いらずのブレードですか」
こうしてる間にも触手は2人を襲う。陽一のカバーで宇崎はなんとかピンチを切り抜けていた。



御堂達が着いた時には宇崎と陽一は少し息を切らしていた。


「あ、和希ぃ。来ていたの」
「なんでマイペースなんだよ室長。合流したんだ、畝黒探すぞ」

「父さん大丈夫?」
晴斗は父親を心配するも、陽一は無傷。
「何ともないよ」


触手に攻撃されたと2人から聞いた。畝黒本人は近いはず。
…それにしてもこのフロア…めちゃくちゃ広いな。見た感じ、地下5階へは行けないようになってるようだが…。

目的のためなら手段を問わない畝黒だ、強引にここを突破してもおかしくはない。
早急に探さないと。


御堂は焦っていた。



本部司令室。映像を見た限りでは地下1階に全員がいると判明する。
鼎は指示を出した。


「全員慎重に行って欲しい。館内マップを見たんだが、地下1階からは5階に行けないようになっているんだ。
1階のどこかにあるエレベーターを使わないと行けないんだよ。それを踏まえて行動して欲しい」

御堂から通信が入る。
「んなこたぁ、わかってんよ。鼎、無理だけは絶対にするなよ。
お前ずっと長丁場で指揮してるって聞いたから…無理だけはすんなよ」

大事なことなので2回言った御堂。



ゼノク隣接組織直属病院・とある隊員用の病室。
そこには二階堂達がいた。

二階堂と憐鶴(れんかく)は重傷・上総(かずさ)と粂(くめ)は軽傷だが粂は畝黒による恐怖でトラウマを負い、怯えている。


ベッドに横たわる二階堂と憐鶴は痛々しい姿。上総と粂も痛々しいが。

特に二階堂は右腕の義手を畝黒にめちゃくちゃに破壊されたため、現在は義手を外されている。二階堂の右腕は二の腕から先がない。

それが今、剥き出しになっている。
彼女は薬で眠っていた。右目も怪我したんだろうか、包帯姿が痛々しくて。


上総は二階堂の隣のベッドにいる。この2人は小学生から腐れ縁。


いつだっけ、二階堂と会ったのは。小学生の時だったな…。
二階堂は生まれつき右腕の二の腕から先がない先天性障害で、子供の頃から義手を着けていた。利き腕は左腕。

二階堂はそんな自分を個性としてポジティブに受け入れていた。
小学生時代、「この義手カッコいいでしょ?」って、あいつは見せびらかしていたっけ。


彼女の左脚が義足になったのはゼルフェノアに入ってからだ。5年以上前の任務中だった。
相手の怪人が予想外に強すぎて、彼女は左脚の切断を余儀なくされる。

それでも彼女はポジティブに受け入れていた。本当は辛いはずなのに。


「……お前、頑張りすぎだよ…」
上総は眠っている二階堂を見守った。二階堂が必死な理由は俺の存在も関係してるんだろうか…。


憐鶴はベッドで上の空になっていた。どうやら目が覚めたらしい。
彼女は戦闘中、仮面を着けていたため顔や頭は怪我してなかったが畝黒に対し、キャパオーバーの発動を使った影響もあり、動けずにいる。



苗代と赤羽は隣の病室にいた。この2人は軽傷。


「憐鶴さん…本当は辛いんじゃないのかな…」
「普段はあんなだけど仲間思いだし。
聞いたんだけどさ、憐鶴さん…キャパオーバーの発動使って限界来てダメージ受けたのもあるって」

「キャパオーバー!?無理してたの…?九十九(つくも)でそれは危険すぎるのに」
「二階堂だって諸刃の刃を使って無理してたじゃん…。
知らなかったよ、隠しブレードなんて…。二階堂がいないと被害は確実に拡大してたと思うと…怖い」

「苗代、二階堂はまだ目を覚ましてないって聞いた。ダメージも深刻だって」


沈黙する室内。



地下1階では再び触手の脅威が。


「囃!一撃で衝撃波出せるんだろ!?発動使えって!」
「発動使えば消耗するわ!!このブレードは通常でもパワーあるのをお忘れか」

ギャーギャー言い合う御堂と囃。


そうだった。囃の対怪人用ブレード・蛟(みずち)は通常時はパワー特化型。
発動時は一撃必殺型となる。


「なんのためにパワー系にしたと思ってんだよ。和希はわかってないよな〜」


囃は通常使用で触手をぶった斬る。通常で畝黒の触手を斬った人は囃が初めて。

ゼノク隊員精鋭が苦戦した触手に対して囃はパワーもあるため、タフ。


今いるメンバーは隊長2人に司令が1人・元隊長と学生とほとんどが戦闘力が高い面子。
精鋭の中の精鋭が2人もいる。本部隊長・御堂と支部隊長・囃が揃うことも珍しいのに、黎明期に活躍した元隊長の陽一までいるのだ。

晴斗は学生だが戦闘中に例外的な力を発揮する率が高い。だから鼎は彼を御堂と共に同行させた。


触手は再生するのか、次々襲いかかってくる。
ゼノク隊員戦とは違い、かなり攻撃的。触手で斬ろうとする。

銃では拉致があかないため、結果的に対怪人用ブレードをメインとなっている。


――触手はくどいくらいにわかったけど、本体はどこだ!?どこなんだ!?


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