本部司令室――

司令室のモニターでゼノク研究施設の館内マップと照らし合わせている鼎と北川。
「施設自体大きいから構造は複雑なんだな…。地下5階へ繋がるエレベーターはどれだったか」…と呟く北川。


ゼノク研究施設は巨大。施設前方にはエレベーターが2基あるが、後方にもエレベーターはいくつかある。


「地下5階はパスワードを入力しないと行けないエレベーターがひとつだけあるとは聞いたが、パスワードを知る人間は長官と地下エリア担当の冬木室長、それともう1人は誰だったか…とにかく3人だよ」
「エレベーター…敵に使われたらアウトなんじゃ…」

危惧する鼎。



研究施設内部に突入した御堂達。
晴斗はこんなことを言う。


「エレベーター…使えるよ?」
「バカ!この研究施設は特殊だ。確かひとつだけ最高機密のあるフロアに直結するエレベーターがあるとか聞いた。うろ覚えだけどよ。
パスワードはわからん」

御堂はいつもの調子。囃(はやし)はある提案をした。
「階段あるぞ〜。宇崎司令と暁の父親は階段から行ったかもねぇ。階段で地下行くか?」
「室長達を先に探さないとな。晴斗も来い。エレベーターは危険すぎる。仮に直結するエレベーターを当てたとしてもパスワードわからんからどっちにしろ行けないだろうよ。
…それにこの惨状じゃあ、パスワードを知ってるやつは負傷してるだろうし」


御堂の勘は当たっていた。

地下5階のパスワードを知る人間の蔦沼と冬木はこの襲撃で負傷、加賀屋敷は医者なため今は手当てに追われて多忙を極めている。
畝黒(うねぐろ)襲撃で負傷者多数の殺伐とした病院に行くわけにも行かない…。


そんなわけで御堂達は階段で行くことを選択。先にやることは宇崎と陽一を探すことだ。



地下1階。宇崎と陽一は人気のない地下をずんずん進む。
2人はそれぞれ武器を構えている。

「どこにいるんだ?出てこいよ」
「宇崎、挑発はいかんだろ…」


滅多に戦闘をしない宇崎はナチュラルに挑発していた。それに呆れる陽一。
お前、それでも司令か…。

宇崎は司令というか、研究者の方が強いけど。



御堂達は急いで階段を下る。


「ここが地下?地上よりも広っ!」
囃はオーバーリアクション。

地下は地上とは違い、武骨な造りになっていた。この研究施設は地下に重きを置いているため、地下に関しては怪人の攻撃を受けても滅多に壊れないようになっている。


晴斗はなんとなく武器を構えた。それを見て御堂も銃を構える。囃は野太刀型ブレードを担いだまま。

「気味悪いよなぁ〜。出るなら出てこいって」
「囃、なんで挑発すんの。やめろ。室長達はどこにいるんだよ…!」


地下は地上よりも広いため、迷う御堂達。これは宇崎達も同じだったわけで。

城みたいな造りしてるよな〜この研究施設…。簡単には行けないようになってんのか。地上も複雑だし。シンプルなのは1階だけだもんな。
さすがはゼノクの要だわ。


御堂は関心してしまっていた。



「御堂達と宇崎達は階段を使った模様。危険はまあまあ回避されたかな」
あっけらかんとしている北川。鼎は気を張りつめていた。

「危険は回避?畝黒と接触してないだろうに…」


そこに割り込む瀬戸口。
「紀柳院さん少しは落ち着きましょうよ、ね?」

鼎は瀬戸口を見た。瀬戸口は民間人だったはずなのにいつ、隊員になったんだ?


「…瀬戸口、お前いつの間に隊員になったんだ?あの時は民間人だったはずだろ」
「人手不足の解析班の募集が出ていたんですよ。バイトで。そしたらなんかわからないけど解析班にそのままいろってチーフに言われて今に至ります。
今はバイトじゃないですよ?正式に隊員ですし…。救護スキルも身につけました」


バイトってあるんだ…。解析班ならバイト募集しそう。あの朝倉だし…。



地下1階。宇崎達は長い鞭のようなものでいきなり攻撃を受ける。
動きは不規則なため、避けきれない。

「なんかニョロニョロ来たーっ!」
「避けろよ宇崎!ったく、どんくさいよな…お前…。昔と変わってない」


余計なお世話だ、陽一。
この鞭みたいなもん、畝黒か?畝黒怪人態には触手があるとは聞いてたが。



この音は御堂達にも聞こえていた。

「なんかビシビシ聞こえたよね!?叩くというか、激しく斬るような音…」
晴斗は不安そう。地下は音がとにかく響く。

「室長達、あっち側にいるんじゃねぇか?行くぞ!」
「和希、おいっ!…ったくしゃーねぇな〜」


3人は急いで向かう。



宇崎と陽一は鞭もとい、触手に翻弄されていた。触手は1本だけだが、異常に長い。


「この鞭、斬れるのか!?痛っ」
宇崎は切り傷を作っていた。

「宇崎のそのブレードは飾りか?今使えって!バカか!?」
陽一に言いたい放題言われる宇崎。昔もこんなしょーもないやり取りしてたっけ。

2人はゼルフェノア黎明期・ファーストチーム時代からのメンバーだ。北川元司令も黎明期メンバーの1人である。


陽一は引退後もたまに臨時隊員として駆り出されていたため、感覚は鈍っていないようだった。
鮮やかに触手をかわし、鞭を自身の愛用の対怪人用ブレード・燕暁(えんぎょう)で斬る。元隊長の貫禄は健在だった。


相変わらず陽一はすごいよな…。現役まんまじゃないか。


油断した宇崎に触手の魔の手が襲いかかる。宇崎はとっさに自作の対怪人用ブレードを抜刀した。
彼の対怪人用ブレードの銘は「颯雲(そううん)」。日本刀型のブレードだが、研究者自らが自分用に作ったため、スペックは隊員用とは異なる。

「発動」という、使用者のリスクを負う必要がなくても簡単に扱える仕様。研究者らしい装備だ。


陽一は颯雲を見るなりスペックを見抜いた。

「完全なるお前用なんだな、それ。発動いらずのブレードですか」
こうしてる間にも触手は2人を襲う。陽一のカバーで宇崎はなんとかピンチを切り抜けていた。



御堂達が着いた時には宇崎と陽一は少し息を切らしていた。


「あ、和希ぃ。来ていたの」
「なんでマイペースなんだよ室長。合流したんだ、畝黒探すぞ」

「父さん大丈夫?」
晴斗は父親を心配するも、陽一は無傷。
「何ともないよ」


触手に攻撃されたと2人から聞いた。畝黒本人は近いはず。
…それにしてもこのフロア…めちゃくちゃ広いな。見た感じ、地下5階へは行けないようになってるようだが…。

目的のためなら手段を問わない畝黒だ、強引にここを突破してもおかしくはない。
早急に探さないと。


御堂は焦っていた。



本部司令室。映像を見た限りでは地下1階に全員がいると判明する。
鼎は指示を出した。


「全員慎重に行って欲しい。館内マップを見たんだが、地下1階からは5階に行けないようになっているんだ。
1階のどこかにあるエレベーターを使わないと行けないんだよ。それを踏まえて行動して欲しい」

御堂から通信が入る。
「んなこたぁ、わかってんよ。鼎、無理だけは絶対にするなよ。
お前ずっと長丁場で指揮してるって聞いたから…無理だけはすんなよ」

大事なことなので2回言った御堂。



ゼノク隣接組織直属病院・とある隊員用の病室。
そこには二階堂達がいた。

二階堂と憐鶴(れんかく)は重傷・上総(かずさ)と粂(くめ)は軽傷だが粂は畝黒による恐怖でトラウマを負い、怯えている。


ベッドに横たわる二階堂と憐鶴は痛々しい姿。上総と粂も痛々しいが。

特に二階堂は右腕の義手を畝黒にめちゃくちゃに破壊されたため、現在は義手を外されている。二階堂の右腕は二の腕から先がない。

それが今、剥き出しになっている。
彼女は薬で眠っていた。右目も怪我したんだろうか、包帯姿が痛々しくて。


上総は二階堂の隣のベッドにいる。この2人は小学生から腐れ縁。


いつだっけ、二階堂と会ったのは。小学生の時だったな…。
二階堂は生まれつき右腕の二の腕から先がない先天性障害で、子供の頃から義手を着けていた。利き腕は左腕。

二階堂はそんな自分を個性としてポジティブに受け入れていた。
小学生時代、「この義手カッコいいでしょ?」って、あいつは見せびらかしていたっけ。


彼女の左脚が義足になったのはゼルフェノアに入ってからだ。5年以上前の任務中だった。
相手の怪人が予想外に強すぎて、彼女は左脚の切断を余儀なくされる。

それでも彼女はポジティブに受け入れていた。本当は辛いはずなのに。


「……お前、頑張りすぎだよ…」
上総は眠っている二階堂を見守った。二階堂が必死な理由は俺の存在も関係してるんだろうか…。


憐鶴はベッドで上の空になっていた。どうやら目が覚めたらしい。
彼女は戦闘中、仮面を着けていたため顔や頭は怪我してなかったが畝黒に対し、キャパオーバーの発動を使った影響もあり、動けずにいる。



苗代と赤羽は隣の病室にいた。この2人は軽傷。


「憐鶴さん…本当は辛いんじゃないのかな…」
「普段はあんなだけど仲間思いだし。
聞いたんだけどさ、憐鶴さん…キャパオーバーの発動使って限界来てダメージ受けたのもあるって」

「キャパオーバー!?無理してたの…?九十九(つくも)でそれは危険すぎるのに」
「二階堂だって諸刃の刃を使って無理してたじゃん…。
知らなかったよ、隠しブレードなんて…。二階堂がいないと被害は確実に拡大してたと思うと…怖い」

「苗代、二階堂はまだ目を覚ましてないって聞いた。ダメージも深刻だって」


沈黙する室内。



地下1階では再び触手の脅威が。


「囃!一撃で衝撃波出せるんだろ!?発動使えって!」
「発動使えば消耗するわ!!このブレードは通常でもパワーあるのをお忘れか」

ギャーギャー言い合う御堂と囃。


そうだった。囃の対怪人用ブレード・蛟(みずち)は通常時はパワー特化型。
発動時は一撃必殺型となる。


「なんのためにパワー系にしたと思ってんだよ。和希はわかってないよな〜」


囃は通常使用で触手をぶった斬る。通常で畝黒の触手を斬った人は囃が初めて。

ゼノク隊員精鋭が苦戦した触手に対して囃はパワーもあるため、タフ。


今いるメンバーは隊長2人に司令が1人・元隊長と学生とほとんどが戦闘力が高い面子。
精鋭の中の精鋭が2人もいる。本部隊長・御堂と支部隊長・囃が揃うことも珍しいのに、黎明期に活躍した元隊長の陽一までいるのだ。

晴斗は学生だが戦闘中に例外的な力を発揮する率が高い。だから鼎は彼を御堂と共に同行させた。


触手は再生するのか、次々襲いかかってくる。
ゼノク隊員戦とは違い、かなり攻撃的。触手で斬ろうとする。

銃では拉致があかないため、結果的に対怪人用ブレードをメインとなっている。


――触手はくどいくらいにわかったけど、本体はどこだ!?どこなんだ!?