御堂と陽一はふと思った。

――やつの触手がさっきから鬱陶しいくらいに攻撃してきてるが、本体はどう見ても近いよなー…。
触手は伸縮自在なのはわかった。


「…室長・囃(はやし)・陽一さん・晴斗。ちょっと提案があるんだが、乗ってくれる?
このまま翻弄されてちゃ、キリないだろ。触手にだけ攻撃してるっつーことはさ、本体明らかに近いだろ。カマかけてみるか?」

御堂はリスクを伴うが、畝黒(うねぐろ)怪人態を誘き寄せることにする。


その方法とは。



囃は地下1階に所々ある、コンテナ型の小さな武器庫を見ては目をキラキラさせていた。

「通路に所々あるこのコンテナ、ちっさい武器庫だったんか〜。はえ〜、知らなかった〜」
感心する囃。

とあるコンテナを開ける御堂。出しているのは手榴弾2つ。


「前に西澤か誰かから聞いたんだよ。地下1階には武器庫が隠してあるってやつ。しっかし…コンテナなのは気づかなかったわ。擬態かい。
この施設は『最初から怪人襲撃を想定して造られた』っていうから、特に地下は抜かりない。研究員も戦えるように訓練されてんだよ。特に地下担当はな」

「手榴弾で何する気だよ」
「…え?挑発。やつは簡単に爆破出来るらしいじゃん。ならば、手榴弾で誘き寄せてやる」


ここを爆破させる気かよ!?
御堂、狂ったか!?


「なに、慌てた顔してるんだ。地下は手榴弾程度じゃ壊れねーよ。地上よりも要塞化してんだぜ?
それを活かすのさ。簡単に壊れない地下を利用させて貰うぞ」

御堂はニヤリとした。これはゼノク関連施設の構造をある程度わかってないと思いつかない。


宇崎は御堂の無謀な作戦にヒヤヒヤする。
いくら敵が姿を現さないからって、手榴弾は無謀すぎるっしょ!

「室長、無謀じゃねーぞ。
鼎。ゼノク隊員の戦闘データと畝黒の攻撃パターンを朝倉から送れるか?」


鼎の通信音声が聞こえた。

「研究施設での戦闘データだな。朝倉は既に分析していたよ。
今モニターに出す。――和希、畝黒は触手をメインとして攻撃している傾向にある。触手攻撃はバリエーション豊富と見受ける。手のひらを翳して広範囲攻撃、爆破も確認されたよ」


なるほどな〜。触手と手のひらを翳したら要注意か。


「ありがとな。んじゃラスボス様のツラ、拝んでくるわ」
「和希!……死ぬなよ」

御堂はカメラに向けて笑ってみせた。
「死なねぇよ」


御堂の言葉に励まされた。
鼎は全員に言った。

「まだ諦めてはいけない…。諦めるなよ!」
鼎の肩が少し震えていた。彼女からしたら、御堂が消えてしまいそうに見えてしまって…。

北川は鼎を落ち着かせる。

「紀柳院、大丈夫さ。面子を見てみろ。精鋭中の精鋭ばかりだぞ。
隊長クラスが揃うなんて滅多にない。まさか…陽一含めて隊長クラスが3人いるとはな〜」



地下では御堂が手榴弾2つを手にし、物陰から触手に向けてそれを一気にぶん投げた。
爆破した手榴弾に気づいたのか、触手に変化が出始める。


――読み通りだな。反応しやがった!


地下の堅牢な造りのせいか、爆破程度では被害なし。

触手はだんだんある場所へ収縮していく。それを追う5人。5人まとめてだと的にされてしまうため、宇崎・陽一組と御堂・囃・晴斗組に分かれた。

囃も次の手榴弾の安全ピンを抜く。囃が手にした手榴弾は通常よりも威力が高いタイプ。
彼も触手の方向に振りかぶって投げた!まるで野球の投球フォームなのは置いておいて。


囃が投げた手榴弾はかなりいいポジションで勢いよく爆発。
畝黒は敵に気づいたらしく、出てきた。


「貴様らか…挑発してるのは。私は非常に怒っている…!」
現れたのは禍々しい見た目の畝黒怪人態。触手がウネウネしているうえに、畏怖すらも感じる威圧感がある。


こいつがラスボス様か。


御堂達は畝黒とついに対峙。
長官と南を戦闘不能にし、精鋭含むゼノク隊員をほぼ全滅まで追い込んだ存在なだけに、ここで仇を取らないと固く誓う者もいた。
それは宇崎だった。宇崎からしたら蔦沼は先輩。


長官、仇を取りますからね――



本部では仁科達4人が帰還していた。霧人達バイク隊もパトロールを終え、戻っている。
東京に出現した怪人はやはり殲滅されていた。


状況を朝倉経由でざっくりと聞いた仁科は冷静だった。
「御堂なら大丈夫だろうよ。あいつ、タフだから。逆境にもめちゃくちゃ強い。ピンチになれば強くなるヤツだろう?」
「仁科副隊長、なんかラフすぎやしませんか」

戸惑う朝倉。
「最前線の御堂達の心配もいいけど、紀柳院の心配もしてやれよ。彼女はよくやってると思ってる。
あれからずっと何時間も指揮してるって聞いたから。北川元司令がサポートしてるのは頼もしいよ」
「司令室…行かないんですか?」

「邪魔したくないからね。紀柳院は繊細だからなおさらだよ」


……補佐、あれから大丈夫なんだろうか。休憩まともにしてないよね?



本部司令室では瀬戸口が気を利かせてた。


「食事どころじゃないでしょうから、飲むゼリーや携帯食糧持ってきました。飲んでください。エネルギー補給は必要です」
「あ、ありがとう…」

戸惑う鼎。おどおどしている彼女は珍しい。



地下では一気に殺伐としたバトルが起きていた。どうやら畝黒は地下5階へ行く方法がわからなかったらしく、さ迷っていた。
地下5階へは「1階にあるとあるエレベーター」を使わなければ行けない。しかもパスワードが必要なため、畝黒は力づくで地下深くへ行こうとするも→地下特有の強固な壁に阻まれた形。

つまり、地下特有の対怪人装備にまんまと嵌められたわけで。
研究施設を設計したのは蔦沼だ。間接的に蔦沼に嵌められたとも言える。


「晴斗と囃はまだ発動させんなっ!タイミングを見計らえ!!俺もまだ発動させない…!
陽一さん、先鋒頼みます」
「了解したよ」


陽一は果敢にも畝黒相手に攻撃する。元隊長なだけに、次々触手をぶった切っていく。ちなみにブレードの発動は一切使ってない。
触手の再生をさせない戦い方だった。

「再生させないよ」
余裕すら見せる陽一。


そこに宇崎が突入する。宇崎は戦闘慣れしてないが、ブレード補正でなんとか戦えてはいた。

「宇崎!足手まといになるなよ!」
「陽一ひどいぞ〜」


先鋒は年長者が行く作戦だった。畝黒怪人態は触手を再生出来ないでいる。
囃は武器が入っているコンテナからある物を見つける。
それは小さな凍結装置。


囃はニタァと笑った。

「触手を再生出来ない方法みーっけた」


この囃の意外な活躍で一気に優勢になる。



本部司令室ではモニターのライブ映像が見にくくなっていた。

「ノイズがひどいな…。交戦中か。音声だけははっきりと聞こえているのだが」

さっきから晴斗の叫び声が仕切りに聞こえてる。攻撃を受けた感じではなさそう。
囃の声が聞こえた。


『んじゃあ、凍結装置起動させるぞ』

凍結装置?そんなもの、地下にあったのか?



地下では囃の機転により、凍結することで触手の再生を無効化した。


「ハマったな〜。和希・晴斗、お前ら暴れちゃえよ」
「囃。ブレード発動させてくれ。50パーくらいで」


50パー?


囃は言われるがまま、ブレードを発動させる。50%ならまだ消耗は少ない。

彼は野太刀型ブレードで凍結部分を一撃で破壊。そこに晴斗と御堂が一気に畳み掛ける。まだ発動はさせない。まだ…!


「晴斗…まだ発動させるなよ。見極めろ。囃がチャンスを作ってくれたんだ、無駄には出来ねぇ!」
「御堂さんわかってるよ!」


囃は御堂の指示通り、蛟(みずち)発動100%を使うことにする。
100パーを使わせるとか、人使い荒いって…。


囃は中距離から蛟を振り回した。ものすごい衝撃波が発生。
バリバリという、破壊音と共に畝黒はダメージを受ける。かなり打撃を受けた模様。


なんという、破壊力だ…。
この男、ただ者ではない…!


御堂と晴斗はまだそれぞれのブレードを発動させてない。
晴斗はここまで通常で戦う意図がわからなかった。


御堂さん、タイミングを見計らえってどういう意味だ?


囃の猛攻は止まらない。
こうなったらヘトヘトになるまで破壊してやる!

地下特有の構造を活かし、囃は暴れている。いくら衝撃波を発生させても地下空間は壊れてない。なんて強固なんだ…。


御堂は晴斗をリードしながら交戦中。

「晴斗、まだでしゃばるなよ!」
「どういうことなの!?」
「よそ見すんなっ!今は囃の好きなようにやらせとけっ!」


囃さんを野放しにしたのはわざとなんだ。囃さんの性格ならやりそうだもんな〜。


陽一と宇崎は一旦退く。

「ここからは彼らに任せましょう。…宇崎、体力ないのか?」
「うるさいな」