静岡県某所・畝黒(うねぐろ)コーポレーション――
そこにはゼルフェノア支部の隊員数名と、高槻の姿が。高槻はいち隊員として今回はいる。
「なんで俺らが調査任務に回されてんの?高槻さーん。ここ、本当に大丈夫なのかよ…」
そうだるそうにぼやいたのは囃(はやし)。高羽と月島も同行している。
「そういえばここに来る前、やけに救急車とすれ違ったような…。何かあったのでしょうか」
月島は心配そう。
「それにしても鶴屋と久米島がこないってどういうわけよ!?」
「囃さん、そうイライラしないで下さいよ〜。あの2人は別任務ですってば」
高羽はなんとかなだめる。
「とにかく入りますよ。待ち合わせてた社員が待ってるはず…」
高槻は3人を誘導する。
社内は異様だった。そこには畝黒コーポレーション社員が眠っているのか、倒れているのか床に寝かせられてる状況。数は10人くらい。
デカイ企業だからビルの上の階の状況はどうなってるんだろうか…。社員は無事なのか!?
焦る囃。月島は冷静に倒れている社員達を診ていた。
「囃さん、ここの人達…気絶させられてます。何者かにやられたのでしょうか」
異様な光景におののきながらも1階を進む高槻率いる4人。1階の奥から明らかに役員らしき男性が助けを求めてきた。
かなりパニックに陥っている。
「た…助けて!バ…ババ…化け物が現れたんだ!!君たちゼルフェノアの人達だよね!?助けてくれ!!」
男性は囃にすがる。囃は冷静に聞いた。
「えーと…社員の人ですよね」
「は、はい。私は畝黒コーポレーション役員の川辺と申します」
役員!?しかしこの人えらいパニックになってる。ギリギリ怪人被害を免れたのか…。
「その化け物はどこから現れた?」
「おそらく地下かと…。私達社員ですら、立ち入り禁止になっていましたので」
地下って…例の地下研究所のある場所じゃあ…。
囃に代わり、高槻はさらに川辺に聞く。
「川辺に聞きたい。この会社、不審なところはなかったか?」
「地下は社員立ち入り禁止になってました。役員ですら入るなと畝黒家が言ってましたので。社員はおろか、役員ですらわからないのです」
高槻はいきなりある場所へと走り出す。
「ちょ、高槻さん!?」
囃達と川辺は高槻の後を追う。やがてある場所へと到着した。それは地下へと通じるエレベーター。
川辺はそこで初めて、地下へ繋がる場所を知る。
隠れるようにしてエレベーターがあったなんて。なんで地下を隠すんだ?
川辺も上層部に当たるが、元締めの畝黒當麻に関してはいまいちよくわかっていない。
地下6階へ向かうエレベーターの中で彼は呟いた。
「畝黒當麻について調べているんですか」
「彼は人間じゃない。異形のものだとわかった。
當麻は社員も騙していたんだ。地下に行けばわかりますよ」
高槻の説明にどう反応していいのかわからない川辺。
しばらくすると地下6階へ到着。どんどん奥へと進む高槻。
「高槻さん、歩くの早いって!」
「この先にこの企業の闇があるんですよ。川辺さんが見た『化け物』は怪人のことでしょうね」
怪人!?川辺はおっかなびっくりしてる。
地下研究所は奥まったところにあった。囃達もその不気味さにびくびくする。
「た…高槻さん、入っちゃって平気なのかよ」
「彼らはここには用がないはずですよ。推測ですがね!」
高槻は扉を開いた。重い扉らしく、囃も手伝った。
「…なんだこれ」
そこには異様な光景が。大人の人間が入れるくらいのカプセルが6つある。全て空だった。
高槻は2つのカプセルが壊されていることに気づいた。
「高槻さん、この2つのカプセル…内側から破壊されてません?破片が外側に飛び散ってる」
月島は何かに気づいたようだ。高槻はカプセルを確かめた。あの時…怪人が残されていたカプセルはこの2つのみ。
怪人が自ら破壊したのか!?そうなるとマズイ。おそらくこのカプセルの中にいた怪人は強化されたものだ。
「急いで地上へ戻りましょう!ヤバいことになったかもしれない」
「高槻さんどうしたんだよ、急に慌ててさ」
囃はペースを崩さない。
「怪人が自ら破壊したとしか思えないんだよ。社内のどこかにモニタールームはあるか?川辺」
「ありますよ。社内の防犯カメラの映像、全て見れます」
「モニタールームへ行きましょう!それと本部に今すぐ連絡して!
怪人が暴れている可能性がある。場所を特定しないと…」
強化マキナ2体は自らカプセルを破壊し、街へと解き放たれた。
モニタールームに着いた一同は防犯カメラ映像を分析。
「外部の映像からするに東京方面に向かってる…」
「東京!?おいっ、早く追うぞ!俺達が食い止めないと…!」
囃達は急いで外へ。そして組織車両に乗り込んだ。
高槻は川辺に伝える。
「社員達は気絶させられているだけです。致命的な危害は与えられてないみたいですから。怪人は市民には興味がないようだ」
「俺…どうしたらいいんだよ…。社長が異形?怪人?嘘だろ!?畝黒家がそうなのか!?」
「既に本部とゼノクでも畝黒家について調査しています。あなた達は何も知らずに加担させられてきたんです。利用されたってことですかね…。
このままだとこの会社、闇が明るみに出ますよ。怪人に支配された企業としてね」
川辺は焦る。このまま放置したら社員はどうなる!?
俺達は怪人になすがままにされていた…?
――数年前のある日。御堂は宇崎に問い詰める。
「鼎の謹慎期間、甘くありません?なんでだよ?」
「和希〜、わけを知りたいのか」
相変わらず軽い口調の宇崎。司令とは思えない。
「当たり前だろ。なんで処分が甘いんだよ…。自宅謹慎2週間って…。
復讐した対象が怪人だからお情けか?」
御堂は若干イライラしながら聞いている。
「これにはな〜、説明すると非常に長くなるんだが…それでもわけを聞くかい?ざっと2時間くらいは聞くハメになるよ。
彼女は復讐とはいえ怪人案件で、なおかつ鼎も怪人案件の被害者だろ?ちょっとこれは説明するのが非常にめんどくさいんだな〜これが」
2時間!?2時間も延々聞かされるの!?苦行じゃねぇか!!
「要約すると処分を決定したのは俺じゃあない。蔦沼長官だ」
「ちょ…長官!?なんでまた長官が…」
御堂は驚きを見せる。
「それを説明するのが非常にめんどくさいんだよ…。なんで鼎が自宅謹慎で済んだのか、俺から説明するのは難しい。
ヒントは『長官も怪人案件の被害者』。はい以上。あの両腕、怪人にぶった斬られているからね。だから長官は義手なんだよ」
「非常」というワード、使いすぎてるよ…室長…。
しかしなんでまた、長官が動いてるんだ?ますますわからなくなった…。
強化マキナ2体は静岡から東京方面に向かっている。
「月島!今怪人がどこにいるかわかるか!?」
囃が慌てながら聞く。月島はタブレットで件の怪人をサーチしていた。
「2体の強化マキナはえーっと…今、神奈川に入りました」
「神奈川!?高槻さん、もっとスピード出ないの!?」
「本気出してもいいんですか?怪人とカーチェイスになりますよ」
「今はそれどころじゃないだろ!怪人止めるのが先ィ!!」
「じゃあシートベルト、ちゃんと締めてね。かなり揺れますから」
そう言うと高槻はアクセル全開で怪人を追う。ハリウッド映画ばりのカーチェイスかよ!!
…うちの組織、運転荒い人多くないか?
緊急だからしゃーないけど…。てかめちゃめちゃ揺れるううう!!
「高羽!気を持て!」
「囃…ごめん。俺、酔いそうだ……。着いたら教えて」
高羽、脱落。ぐったりしてる。
月島は意外と平気らしい。
「東京入られたらマズイです!!」
「なんで月島は平気なのよ…」
囃、ぼやく。
「ジェットコースターみたいだからです!」
ジェットコースター感覚で言うなよ!
本部では支部の隊員3人が強化マキナ2体を追っていると情報が入る。
畝黒家では矩人(かねと)が當麻に説教されていた。
「これはどういうことかな矩人。計画よりも早く解き放たれてしまったぞ」
「これをご覧ください。マキナは『自らカプセルを破壊』しています。強化マキナは自分の意思で動いている。
東京方面に向かっていますね。指示してないのに」
矩人はモニターを見せながら説明していた。
「結果オーライだな。ま、この2体を止められる強者がいたら面白いのにね」
その強者達が今、アクセル全開で怪人2体をひたすら追いかける。
「高槻さん、もっと早く行けないの!?」
月島が積極的に聞いてる。
「行けますよ。この車両は特殊ですので」
高槻は長官直属の諜報員。普段は地味な隊員だが、長官から任務を受けると諜報員として活動。
彼の装備は専用の特殊仕様だが、その組織車両もかなり特殊。
「飛行モード、オンにしましょうか」
高槻はあるボタンを押した。するとどこからか翼が競りだし、一気に宙を舞う車。
これには囃達も振り回された。
「ぎゃあああああ!!」
「そ、空飛んでる!!すごーい」
月島、なんで平気なんだよ…。楽しんでるし…。
少しして。
「目標、確認。着地します!衝撃に備えてね」
高槻の組織車両はうまい具合に着地し、じわりじわりと強化マキナとの距離を縮めていく。
高槻の特殊車両は通常モードへと自動的に戻ったが、カーチェイスはそのまま。
「目標を止められるかはあなた達次第です。健闘を祈りますよ」
「高槻さんも協力してって!この車、目標に攻撃出来るんだろ!?」
「出来ますが」
高槻、読めねぇ〜。
なんか高槻の組織車両がボンドカーか何かに見えてきた…。気のせいかな…。
空飛ぶってあり得ないだろ!?
運転席に怪しいボタンがいくつかあったのって…。
「東京入りはなんとしても阻止しますよー!」
高槻がめちゃめちゃやる気になってて怖いんだが。地味な隊員かと思ったらそうでもなかった…。
長官直属諜報員な時点で、かなり特殊だよな…この人…。普段は隊員として活動しているが。
高槻に振り回された支部隊員3人。強化マキナは止められるのだろうか…。