突如本部に現れたマッドサイエンティストのDr.グレアとの戦い。明らかに彼が機械生命体の怪人・マキナを作っていたことは明白で。
桐谷はサブマシンガンで残りの戦闘員を殲滅していた。
「なんとか片付けました」
「桐谷さん、副隊長がやられてる!早く来て!」
霧人が叫んでいた。新人隊員の吾妻と氷見の2人は怪人相手ならともかく、この科学者は人間なので戸惑いを見せる。しかもこいつはイカれてる…。
彼の右腕には何やら攻撃出来るようなものを装着している。だから右腕がやけにメカメカしいのかと。
義手ではない、腕に嵌めるタイプの装着型のメカ。あれでビームを撃ってきたのか。
Dr.グレアは新人隊員2人を見た。
「君たちは新人隊員かなぁ?それにしても手慣れてるね、感心したよ」
グレアはニヤァと笑う。
吾妻と氷見はぞわっとした。いくら元自衛官と元警察官とはいえども、相手の次元が違いすぎる!
ゼルフェノアの敵は人間のパターンもあるが、だいたい相手は普通じゃない。
司令室。宇崎は指示を出した。
「その科学者は人間だ!格闘するのは構わないが、気絶させとけ!」
八尾はモニターに映る戦闘にびくびくしている。なんなのあの科学者…。
御堂は八尾に語りかける。
「人間相手の場合は警察に引き渡さないとならねーんだよ。だから気絶させとけって言ってるんだ。
あの科学者以外にもう1人、人間の敵はいる。それが鼎と因縁がある『イーディス』だ」
イーディス…。
北川は解析班に通信した。
「朝倉、取れるか?北川だ」
「なんでしょうか、北川元司令」
「君たちもこの交戦映像を見ているんだろ?この科学者とイーディスを洗い出せ」
「りょーかい。そう来ると思ってました」
さすがは解析班、仕事が早い。
ゼノクでは。
「長官、畝黒家を放置していいんですか!?あいつらの目的は…」
西澤が半ばパニックになりかけている。
「うちの組織を欲しがる理由、なんとなくわかったよ」
蔦沼は相変わらず自分のペースを崩さない。
「なんとなく!?めっちゃぼやけていません!?あいつらゼルフェノアをぶっ潰す気満々じゃないですか。
憐鶴(れんかく)がいなかったら、けちょんけちょんにやられていましたから」
「あの明莉という少女、厄介だねぇ。當麻よりもめんどくさいかも。あれじゃあ操り人形だな。それも攻撃力の高い」
明莉は操り人形…。子供らしからぬ異様な雰囲気と無表情・感情がないあたり、人形のように見える。
憐鶴との戦いで、初めて他人に感情らしきものを少しだけ見せたが。
本部・演習場ではDr.グレアとの戦いが白熱。
あの右腕のメカを壊せれば形勢逆転出来るはずなんだが…!
霧人と氷見はそう感じていたのだが、グレアの右腕のメカからはビームが発射される。さらには発砲も出来るため、なかなか近づけない。
グレアの猛攻は激しく、容赦ない。
「どうしたのっかな〜。もしかして怖じけづいた?私が急になぜここにわざわざ現れたか知りたいですよねぇ…。フフフ」
「さっさと教えろ!このイカれ科学者が!」
吾妻、少しキレる。
「じゃあお教えしましょう。私は畝黒家と組み、ゼルフェノアを叩き潰すために来たのですよ。イーディスは私の仲間です。
私達2人は畝黒家と組んだだけに過ぎませんが」
「お前…名前なんていうんだ」
霧人が聞いた。
「Dr.グレアと申します。あなた方が言う通り、科学者ですよ?
あの怪人も私が開発しましたゆえ」
「お前がマキナをばらまいた張本人か…!」
ダメージを受けた仁科、なんとか立ち上がる。普段は温厚な仁科だが、グレアのやり方に怒りを見せていた。
「副隊長…大丈夫か?」
霧人が声をかける。
「うまく受け身を取ったから大したことないさ。戦闘員以外にも、本命のマキナをまだ隠し持ってそうだが…とにかくあいつの右腕のメカを破壊しないとね」
「了解」
「吾妻と氷見は援護してね」
「了解」
「了解しました」
司令室。朝倉から通信が入る。
「畝黒家に絡んでいるイーディスと科学者について洗い出したわよ」
「ずいぶんと分析が早かったな。報告してくれ」
宇崎は朝倉に促す。
「イーディスは通称。いわゆるハンドルネームね。
こいつは復讐代行として闇サイトを運営している管理人。
復讐の対象は人間と怪人、両方。片方だけの闇サイトはよく見るけど、復讐対象が両方の闇サイトを運営してるのはこいつくらいだわ。
ちなみにイーディスの本名もなんとか割り出しに成功しました。こいつの本名は『六道樒(りくどう しきみ)』」
六道樒…珍しい名前だな。樒って。
「Dr.グレアはマッドサイエンティスト。畝黒コーポレーションの地下研究所で秘密裏に機械生命体・マキナを開発・実戦投入したようね。
この男…イカれてる。THE・マッドサイエンティストって感じのやつ。
グレアもなんとか本名割り出しに成功したわよ。本名は『常岡桂一郎(つねおかけいいちろう)』。こいつ…明らかに道踏み外してんのよね。然るべきところに行けば役立った科学者なのにさ…」
Dr.グレアはなんでまた畝黒家と組んでるんだ?
常岡桂一郎って、科学者界隈ではそこそこ名が知れてたはず。行方不明だと云われていたが、こんなところにいたとはね〜。
司令だが研究者でもある宇崎、グレアの正体が意外すぎてどう反応していいのかわからない。
「と…とにかくわかった。イーディス、いや六道は鼎と直接接触する可能性がある。気が抜けないな…」
「宇崎、まずあの厄介なマッドサイエンティストをなんとかしないと…被害が拡大するぞ」
北川は相変わらず冷静。
ゼルフェノア本部寮――
「彩音…本部の方向がやけに騒がしいんだが…」
鼎は寝室から出てきたが、かなり怯えている。
「鼎、私達がいるから怯えないで。すごい震えてる…。だから出てきたんだ…」
「震えが…止まらないんだ…。怖くて…」
彩音は鼎にそっと寄り添う。
「側にいるから。やっぱりまだ外には出られないよね。落ち着いて。心配しなくてもいいんだよ?
梓さんもいるんだし。もっと甘えなよ」
「い…いいのか……」
彩音は鼎の頭にそっと触れる。
「回復は急ぐ必要はないんだよ。ゆーっくり休んでさ、充電しようよ。
精神的なものだからしんどいんだよね。無理は禁物だよ。そうだ。震えが治まるまで隣にいるよ」
「…ありがとう」
なんだろう、この感覚。初めて彩音が来た時のあの感覚に似ている。
あの時も私は人目が怖くて怯えていた。それを溶かしたのが彩音だったんだ。
「本部は今交戦中でちょっと大変みたいだけどさ、なんとかなってるでしょう?
私達は私達のやるべきことをやるだけだからね。だから鼎はゆーっくり充電して元気な姿を見せようね。御堂さん、めちゃくちゃ気にしてたよ」
和希…そりゃ気にするよな…。八尾のこともあるのに。
影武者の八尾は大丈夫なんだろうか…って、人の心配している場合じゃないのに…。
「落ち着いてきたかな?よしよし偉いぞ鼎。不安になったらいつでも来てもいいんだよ。親友でしょ、私達」
「彩音…」
鼎は知らず知らずのうちに彩音の手を握っていた。