話題:戦利品

商店街の眼鏡屋の前を通った時に、中から2代目店主が出てきて、ちょっと寄っていけと言うもんで、何だろうと思いながらも誘いに乗った神田です

「今お茶いれるから飲んでいってよ」と、そいつが言うもんで待っていたら、普通にお茶が出てきたが、湯呑みを鼻に近づけた時、ん?と思った

この店は先代の時からの馴染みなんだけど、出してくれるお茶が美味しかったのよね

それがこの日のお茶は普通のお茶だった

お茶変えたの?と聞くと、2代目は「眼鏡を作りに来てくれるお茶屋さんのお茶なんだ」と言う

そして、「このお茶どう?」と聞くから、正直に答えてやった

味はまあ普通だが、香りと水色(すいしょく)が気に入らない、とね

すると2代目、「やっぱりそうか」と呟きながら頭を垂れた

「でもさ、ご夫婦で眼鏡を作りに来てくれたからね、そのお店のお茶を使った方がいいかなと思ったんだよね」と、力無くつけ加えた

なるほど、まあ個人商店同士の付き合いは難しいんだよね

だが、俺としては前のお茶に戻してほしいという気持ちもあったので、このお茶ではこの店の『格』が落ちると言ってやった

この眼鏡屋は宝石類も扱っていて、客に金持ちがいる

そういう金持ちに出すお茶も、質を考えなきゃいけないのだよ

淹れ方をもう少し工夫すれば、ちったあ美味くなるかも知れないが、前のお茶には敵わない

そんなことを言って立ち上がったら、2代目がお茶菓子をくれた

俺が『格』と言ったのが気に入ったのかな

ボールペンやらカレンダーやらも袋にどっさり入れてくれたよ

何となく得した気分の神田でした