大阪・阿倍野区視覚障害者福祉協会 声のおたより
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2022/09/08 10:07
ブタから作った「人工角膜」で20人が視力回復

ブタから作った「人工角膜」で20人が視力回復

 角膜を損傷して光を失った人の視力を、ブタが救ってくれるかもしれない。リンショー
ピング大学(スウェーデン)のNeil Lagali氏らが、ブタの皮膚から抽出したコラーゲン
を使って、人間の角膜に似せたインプラントを作り、ヒトを対象とするパイロット研究を
行った。結果は良好だったという。論文は「Nature Biotechnology」に8月11日に掲載さ
れた。

 角膜は眼球の最も外側に位置し、黒目に相当する部分を覆っているアーチ状の透明な組
織だ。何かの理由で角膜が傷ついたりアーチ状の形状が変化したりすると、網膜に光が届
かなかったりピントが合わなかったりして視力が低下し、時には失明に至る。

 角膜は主にコラーゲンで構成されている。Lagali氏らは、豚の皮膚から抽出したコラー
ゲンを高度に精製した上で安定化させ、ヒトの眼に移植できる丈夫な透明のインプラント
を作った。研究者らは「このインプラントは、角膜の外傷や疾患で失われた視力を回復す
るための画期的な手段になる可能性がある」と述べている。

 Lagali氏らは、イランとインドの「円錐角膜」(角膜の中央が薄くなり、角膜が前方へ
円錐状に突出する病気)の患者20人に、このインプラントを埋め込んだ。研究の主目的は
安全性の確認だったが、得られた結果は研究者を驚かせた。

全盲から視力1.0になった人も

 手術前は20人中14人が全盲だったが、手術後2年の時点で全盲の患者は1人もいなくな
った。全盲だった患者のうち3人は1.0という完全な視力に回復していた。しかも2年間の
追跡期間中に合併症は発生せず、角膜厚は維持されていた。

 Lagali氏は「以前に作った、今回のインプラントより脆弱な素材でも、角膜内に少なく
とも10年間は定着することが示されている。残っている角膜組織から新たなコラーゲンも
生成されるため、長期的には角膜の再生も促されるのではないか」と話す。

 角膜の病気で視力を失っている人は、世界中で推定1270万人いる。その人たちの視力を
回復させる唯一の方法は、遺体から提供された角膜を移植することだ。しかし提供される
角膜は少なく、必要な移植を受けられる人は70人に1人だ。また人間の遺体から摘出され
た角膜は、2週間以内に移植する必要がある。

 これに対し、今回のインプラントは最大で2年間、保管しておける。「今後は、より多
くの患者を対象とした無作為化比較試験(患者が治療を受けるかどうかを無作為に割り当
て、結果を比較する試験)を計画している。そこで有用性が確認できたら、その次は承認
申請だ」とLagali氏は展望を語る。

 Lagali氏は「われわれは、需要と供給のギャップを満たすために、安価で十分な量のイ
ンプラントを作成可能な技術の確立を目指してきた。ブタの皮膚は畜産業の副産物として
豊富に入手できる。また米食品医薬品局(FDA)は、ブタ由来の皮膚を治療に用いること
を既に承認し臨床応用されている」と説明する。加えて「角膜インプラント作成に利用さ
れるブタは一切、遺伝子操作をされていない」と言う。

 Lagali氏によると、このインプラントにはコラーゲン以外の生体物質を使っていない。
そして、遺体からの角膜移植より、移植後の拒絶反応(患者の体が、移植された角膜やイ
ンプラントを攻撃する反応)がはるかに少ないという。さらに、角膜全層を移植するので
はなく、薄く変化している部分だけに使うことで、患者の体の負担を最小限に抑えた使い
方が可能だという。

 「遺体から提供された角膜を使った全層移植では、移植後に少なくとも1年は、免疫抑
制薬を点眼する必要がある。しかしわれわれのインプラントの部分移植だと、点眼は8週
間で済み、縫合の必要もない。このため1回の受診で治療が完結する」と同氏は話す。

 米ワイルコーネル医科大学の眼科医で米国眼科学会のスポークスパーソンであるChrist
opher Starr氏は、本研究を「非常に有望」と評価。その上で、「円錐角膜などの角膜疾
患のケアに当たる専門医の一人として、この論文で示された結果に興奮しており、この技
術がFDAに承認されることを願っている」と述べている。

 このパイロット研究は、スウェーデンのLinkoCare Life Sciences社が資金を提供して
行われた。(HealthDay News 2022年8月11日)


mainichi.jp



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