その人が話し始める前に必ず咳ばらいをするようになったのは、私のせいかも。
「先生の声には棘がある」
「微笑みを含んだ声で話してほしい」
私がそういうことばかり言うから。

先生は私と話してくれなくなった。
授業が終わって、先生が教室を出るまでに捕まえて質問するのが私の楽しみだった。

自販機の前で寂しそうにたたずんでる先生を背後に感じながら、
私は気づかないふりをした。

突発性難聴になったんだってね。
私が手話通訳してあげる。

書庫に隠した先生に宛てた手紙には「大嫌い」なんて書いちゃったけど
ほんとは先生が大好き
ただ先生に微笑んでほしかっただけ。

元気で笑っていてほしいだけ

だから私をどうか避けないで。