2024-4-19 18:34
ごめんねとエビカツ
その日の、夕刻を超えたばかりくらいの夜。
駅から歩いているところ、だいぶ手前から榊が迎えに現れた。
「スーパーに寄る?」と聞いてくる。
寄りたいのだろう聞き方だった。
時間も早いし、榊の機嫌が安定して良さそうなのが救いで、それだけでこちらの気分も落ち着いた。
素直に、スーパーに寄るのを叶えることにした。
「昨日はごめんね…、疲れてたんだと思う、」
榊の方から切り出された。
聞くつもりも何もなかったのだけど。
安堵ともに、
せっかくなので一つ気になることを聞いてみた。
「覚えてる? 何したとか」
「んー、 ぼんやり…と?」
ぼんやりと… 思わず苦笑い。
ほぼ覚えてない域かなと判断せざるを得ないニュアンス。
「『こっちは腹減ってんだよ!』て怒鳴ってたよ」
たまらず小さく嫌味を差し出してみた。あくまで笑って冗談ぽく。
それには曖昧に濁すような複雑な笑みで応えて、申し訳なさそうな空気を放った。
これ以上咎めるつもりもなく、またそれを確認し合うわけでもなく、その議題はそこで終了して、明るい方に目を向ける。
惣菜屋が、閉店時刻間際のかき入れに威勢よく応じている。
「…なんか買う?」
「いや、いいよ」
「…あ、エビカツがある」
「あら(珍しいものに反応するね)」
あるきながら眺めていたので、決めかねるうちに通り過ぎてしまった。
その先のスーパーで少し買い物をした。
店を出たら、来た道を戻る。
昨日までなら脇道に入って、もう一軒スーパーはしごしてたかもしれない。今は改装中で閉まっているはずなので選択肢にあがらない。
そしてまたあの惣菜屋の前を通りかかる。
榊は僕を気にしてくれて(なぜかは分からないけど)、また
「買う?」
と聞いてきた。
「あ〜、エビカツ…ねぇ〜」
珍しいし(エビカツも、榊の反応も)と思い、店に近づく。
最低限の量だけを買って、榊の元に戻る。微笑ってるわけではないが、嬉しそうにしてるのがわかる。
「珍しく売ってたからさ、」
そうかそうか。だから食いついたのね。ならば買ってあげられてよかった。
「(家で)はんぶんこしようよ!残りは鮎川のお弁当に入れてもいいし!」
優しさたっぷりに言う。
夜風があたたかく頬を撫でた。
やっぱり笑っていてほしい。穏やかに。ただ和やかに。
そうすれば僕だって笑っていられるから。
たったこんなことすら望むのは許されないのだろうか。エゴなのか贅沢なのか。僕の至らなさなのか。
これ以上、榊を管理するのは違うと思う。それはコントロールの域に入ると思う。なんなら入ってもいると思う。
何もストレス反応を外に出すなと言いたいわけじゃない。もう少し上手く自己処理なり立ち回りなりして欲しいな、というところで。
50を超えた榊にそれを望むのは酷なのだろうか。
僕は、穏やかな春の日がまた再び続くことを祈った。