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きみとなら。

未来予想図。

母と、結婚について話した。

いずれはしてもいいだろうけれど、卒業してしばらくはしない方がいい、と言われた。

それは、あたしも同意見だった。

ひとしも、ひとしのお母さんと、結婚について話す機会があったらしい。

結婚したら、いまひとしが住んでいる家に、そのままふたりで住んでいいと言われた、と言っていた。

ひとしがいま一人で住んでいる家は、ひとしのご両親の持ち家なのだ。

この前、ひとしがインフルエンザにかかったときに、ひとしの実家に行った。

すぐに帰るつもりだったけれど引き留められ、お茶とお茶菓子をいただいて、ひとしのお母さんと少しお話しをした。

「うちは気を遣うようなうちじゃないからね」

と笑顔で言われて、少しほっとした。

あとでひとしが、

「みきこは清楚で、今時めずらしくスレてない良い子だってうちの母が言ってました」

とメールをくれた。

彼氏のお母さんってひとつの関門だと思っていたから、嬉しかった。

ちなみにあたしの母はひとしを可愛い、息子に欲しい、と言っている。

ひとしは年齢層が上のひとたちに受けがいい。

ひとしにそう言うと、みきこもだよ、と言われた。

少しずつ、周囲公認になっていくあたしたち。

とりあえず結婚式には、ゼミの先生と、ゼミ仲間を呼ぼうね、と話している。

そんな未来に向けて、あたしたちは頑張らなければいけないね。

ひとしは、そうですね、と言って、あたしの左手の薬指を握ってくれた。



Mikiko

こどもマスター。

「みきこはたまに、こどもに戻るよね」

ひとしの家で、パスタにからめるトマトソースを作っているときに、そう言われた。

どうしてそう思うのかな、と思っていたら、ひとしはあたしの近くにきて、口の周りに付いていたトマトソースを拭いてくれた。

恐らく味見をしたときに、付いてしまったのだろう。

「他にもね、みきこの耳がねこみたいにぴーんとなる瞬間があるよ」

嬉しいときとかね、とひとしは笑った。

「ぼくはだんだんみきこマスターになってきたよねぇ」

なんだか嬉しそうに、ひとしは言った。

トマトソースを混ぜながら、あたしはひとしをまだマスターできていないな、と思った。

ひとしには、あたしには触れられない部分がある。

ひとしがあたしに本音を話すときは、いつだって何かしらの前置きをする。

ぼくは今酔っているからとか、インフルエンザで弱っているからとか、様々な理由をつける。

ひとしの深層まで入りたい、と思うこともある。

でも、あたしがそれをしないのは、たまにひとしのどうしようもない弱さに触れることがあるからだ。

ひとしをのことを知るためには、こちらの手持ちのカードを全てひとしに見せて、安心させることが一番有効だと思う。

あたしはあたしを隠さない。

だから、あなたも。



「トマトソースの腕を上げましたね」

「やっとひとしと同じくらいのクオリティのものが作れるようになったよ」

「ぼくよりみじん切り荒いけどね」

「厳しいなぁ」

それでもひとしは、あっというまに平らげてくれた。

まだ食べているのに、あたしの喉元を撫でて、ねこ、ねこ、と呼ぶ。

あたしは食べ終わると、ひとしの膝にころんと寝転がった。

「こどもになったりねこになったり、みきこは忙しいなぁ」

「一応あたしもおとなのおんななんですがね」

「からだはね」

でも如何せん中身がなー、と笑うひとしから、あたしは拗ねたふりをして離れた。

「まぁ、こどもの部分をずっと残しておく方が、おとなになるよりずっと難しいんですよ」

あたしの背後で、ふう、とひとしはため息をついた。

あ、いま、きっとひとしの本音が混じってた。

あたしは直感でそう思った。

普段仲間たちといるときに、ひとしはいつも若いだとか幼いだとか言われている。

それはこの考え方に起因するものなのだな、と思った。

なんだ、ひとしもちょっとずつ、ほんとうの自分を見せてくれてるじゃないか。

あたしはひとしに抱き着いた。

ひとしはびっくりしていたけれど、やっぱりみきこはこどもだなぁ、と抱き返してくれた。

「ちなみに、体温が高いのもこどもの特徴ですよ」

あたしは昔から平熱が高めで、36.5℃はある。

ひとしは、あったかいなー、と言っていそいそとあたしの服を脱がしはじめた。

「まぁ、あなたはおとなのおんなですからね」

首筋にキスをしながらひとしが言う。

「こどもにはこんなことできないし」

「…ばーか」

「えー」

「…でも好き」

「知ってる」

ひとしはふふふ、と笑うと、ベッドで待ってて、と言って食器を片付けだした。

あたしは布団に入り込んで、ぼんやりと天井を見つめながら、ひとしの言葉を反芻した。

こどもでいることの難しさ、か。

ひとしは、もうとうにおとななのだろうとあたしは思う。

だからあたしを可愛がるのかもしれない。

なんだか、それって。

「かなしいな」

キッチンの水音は、そんなあたしの呟きを、あっというまに掻き消した。



Mikiko

バレンタインデー。その二。

「すっかり雪げしきだなぁ」

あたしたちは雪の中を歩いている。

夜中であるせいもあってか、雪が綺麗なまま残っていて、近年稀に見るその景色に、あたしもひとしもかなりはしゃいでいた。

「このひと、歩幅が広すぎる!」

「あ、こっちのひとは内股だ」

そんな発見をしながら、あたしたちはTSUTAYAに向かった。

「ラーメンズの『TOWER』を見たいんですよね」

ひとしはそう言ってDVDを抜き取った。

「いっしょに見ましょう」

帰り道も、いつもと同じ道なのに、雪化粧された風景は、あたしたちにとってどこか不思議な世界だった。

家に帰ると、あたしたちはヒーターの前でしばらく暖まった。

「さ、寒すぎた」

「ね。雪ってやっぱり冷たいなぁ」

ひとしがDVDを見る用意を始めたので、あたしもこっそり渡すものの準備をした。

忘れてはいけない。

今日はバレンタインデーなのだ。

「何かおつまみでも買えばよかったかなぁ…」

ひとしは家に置いてあったチューハイを飲みながら言った。

「じゃあ、これ、食べてよ」

あたしはひとしの前に包みを差し出した。

ひとしは少し驚いたようだった。そしてすぐに笑顔になると、

「ありがとう」

と言った。

ひとしは器用にするすると包みを開けて、ブラウニーをかじった。

「うん、美味しい」

その一言が聞きたくて、あたしは頑張ったんだ。

なんだか泣きそうになって、下を向いた。

ひとしはそんなあたしの頭を、優しく撫でてくれた。

「23時35分、バレンタインデーぎりぎりでしたね」

ぐい、と引き寄せられて、そのまま強く抱きしめられる。

「ほんとうに、ありがたいなぁ。ぼくはあなたのことをずっと大切にしますよ」

ひとしはふふふ、と笑うと、DVDを見ますか、と言って準備を始めた。

あたしはその様子をぼんやりと眺めていた。

DVDを見ながら、ひとしは何度も何度もキスをしてきた。

それはDVDが終わるまで続いた。

全部見終わった頃、ふたりともだいぶ眠くなっていて、もう寝ようか、という話になった。

ふたりともスウェットに着替えて、ベッドに横になった。

「いやぁ、みきこのチョコ、美味しかったなぁ」

ベッドの中であたしを抱きしめて、ひとしは嬉しそうに言う。

「ぼくがデレデレするのは、酔ってるからですよ」

と前置きすると、ひとしは耳元で囁いた。

「ぼくのお嫁さんになるのは、みきこしかいません」

あたしはそのとき、どんな顔をしていただろうか。

ただ、顔が熱くなったことだけは、しっかり覚えているのだけれど。

嬉しい言葉をいっぱいもらった、そんなバレンタインデーのこと。



Mikiko

バレンタインデー。その一。


当日の出だしは、あまり良くなかったと思う。

あたしは寝坊して14時に目覚め、ひとしの家に着いたのは16時過ぎだった。

「ごめんなさい、遅くなっちゃった」

すると、部屋からぼさぼさ頭のひとしが出てきた。

「ぼくも今まで寝ていたんですよ」

まだ眠そうに目を擦りながら、あたしを迎えてくれた。

手洗いうがいを済ませてひとしの部屋に行くと、ひとしはまたベッドの中に戻っていて、おいでー、と腕を広げていた。

あたしは優しく抱きしめられることを想定して、ひとしの腕の中に収まると、ひとしにキスをした。

「ひっかかったな」

ひとしはそう言ってにやりと笑うと、あっというまに、あたしを組み敷いた。



「ごはん、何にしようか」

営みが終わった後、ベッドにふたりで横たわりながら、ひとしが言った。

「寒いから、お鍋がいい」

「でもキムチ鍋はこの前食べたから、何か変わり種にしない?」

「じゃあスーパーのお鍋コーナーで決めようよ。色々な種類の売ってたし」

そうだねぇ、と言って、ひとしは服を着はじめた。

あたしも服を着て、ふたりで近くのスーパーに行った。

外は雪がちらついていた。

スーパーのお鍋コーナーには、寒い日だったからか、ちょっとした人だかりができていた。

「…坦々ごま鍋がすごく魅力的なんですが、みきこさん、どうしましょう」

「決定で」

材料の白菜やえのき、チンゲンサイなどを買い込んで家に帰り、あたしたちはいそいそと作りはじめた。

お鍋はあっというまに出来上がって、おなかが空いていたあたしたちは早速お鍋をつつくことにした。

「外の雪を見ながら、大好きなひととお鍋を食べる。いやー、幸せってこういうことを言うんでしょうねー」

ひとしがほんとうに嬉しそうにそう言うから、あたしも心から幸せだ、と思った。

「あとで暖かい格好をして、雪の中をお散歩しませんか?」

ひとしの提案に、あたしはもちろん乗った。

「と、その前に、寒いからちょっと横になりましょうか」

そう言ったひとしの魂胆がみえみえで、あたしはつい笑ってしまった。

まぁ、ついでだから、乗せられてしまおうか。

あたしも先程のひとしのようににやりと笑うと、ベッドの上にいるひとしに覆いかぶさった。



続く。

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