2011-4-14 23:52
港に長曾我部の船が入港すると、何人かの毛利の部下が興奮したように長曾我部に駆け寄った。
「長曾我部殿!毛利様がお目覚めに!!」
「おう、知ってる」
「は…。…え?」
「細けぇ事は気にしなさんな。起きたての所悪いが、早速邪魔させてもらうぜ」
長曾我部はにっ、と笑ってそう言うと、目をぱちくりとさせている部下に目もくれずに城に走って行った。
残された長曾我部・毛利の部下達は顔を見合わせる。
「…長曾我部殿も分かってたな」
「…お二方、なんで分かるんだ…?」
「さすがアニキだ!」
「あ、そういやあのお稲荷さんの話が本当なら、元就さんは神様に攫われてたみたいでしたぜ?」
「は?!か、神?!」
後ろに聞こえる騒ぎも気にせず、長曾我部はただ走った。
「元就ー身体平気かー?…その様子じゃ、床擦れでも出来たのか?…ぶっははははは!」
「くっ…!笑うでないわ!」
毛利の自室に到着した長曾我部は手当てを終えたばかりの毛利に小さく吹き出した後、毛利の隣に座った。
「大丈夫か?」
「大した事ではない。…貴様こそ、豊臣との戦で出来たその傷、大丈夫なのか」
「あぁ、大した事ぁねぇよ。身体に戻った時はやたら痛んだけどな」
「……我もよ。未だに痛むわ」
毛利はこてんと長曾我部にもたれかかった。珍しく甘えを見せる毛利に長曾我部は口元が弛みそうになるのを堪えながら、ぽんぽんと頭を撫でた。
「…、なぁ毛利、お前はよかったのか?」
「くだらぬ。我は毛利の安寧が確実になるまで死ねぬわ」
「ははっ、まぁそりゃそうだ。でも俺嬉しかったぜ?」
「?」
「俺を欲するのは利でないって奴だよ」
「…!あ、あれはその場しのぎよ!!早に忘れるがよい!」
「嘘でも忘れらんねぇなぁ」
長曾我部はひとしきり笑った後、ふいに毛利を振り返った。
「ずっと言おうと思ってたんだがよ、元就。…、同盟組まねぇか、いい加減」
「……同盟か」
「豊臣と戦ってみて分かったが、俺一人じゃ野郎には勝てねぇ。…だけどお前がいれば、勝てる」
「…。よいだろう。同盟の件、承知した」
強い目で己を見る長曾我部に毛利はふ、と笑い了承した。その答えに長曾我部も笑う。
「…なぁ元就、…口吸いしてもいいか?」
「…ふん…好きにするがよい」
少しばかり照れたように言った毛利の唇に、長曾我部は静かに自分のそれを重ねた。
「ふん。お熱い事ぞ」
そんな二人の様子を、稲荷は天界から見下ろしていた。銀稲荷がいなくなり手持ちぶさたになった為にたまたま下を見たら、そうなっていた。
天界にいた時は一度も見れなかった毛利の笑い顔に、稲荷は記憶を消さずによかったと、そう思った。
「我に愛は分からぬ。それの為に命をかけ、死ぬことをもいとわない。愛とは何ぞ?」
「それに答えを出すのは難しいであろうなぁ」
「!…何ぞ、話は済んだのか」
「いや、話は途中だ。だが、天照大神が佐吉を連れていってしまったのでなぁ」
「大丈夫なのか?」
「何、守りの呪布は持たせた。…おぉ、人の接吻なぞ、久々に見たな」
「…紀之介よ。貴様は愛とはなんだと思う」
「我にとって愛など偽善よ。依存の形とも言えるがな。どれだけ愛を囁こうとも必ず終わりは来る。くだらぬ事で壊れる愛もある。…我にはあやつらの愛は分からぬなぁ。…我は佐吉が大好きだがな」
「それは愛ではないのか?」
「分からぬのだ。…我はあやつらのような愛を受けたことは無い故」
「そうか」
稲荷は小さく呟いて、のぞき穴をふさいだ。