「暑い〜!!」
エジプトにつき砂漠の上をひたすら歩いていた。
「やめてくださいよ・・・そんなこと言ってるともっと暑くなる」
「るせー。俺は機械鎧《オートメイル》右腕左足と二つも鋼の手足ぶら下がってんだから・・・前にもシンに行く時あったぞ」
あちーと連呼し続けるエド。羨ましそうに前に進んでいるアルと神田を見つめる。
「神田汗ひとつかかねぇーってバケモンか・・・?」
「知りませんよ・・・。コムイさんの話は確か森だらけなんじゃない・・・」
「二人共!!あっちに森が見える・・・」
「!?」
アルのその言葉で二人は急な砂漠を駆け登る。
「本当だ・・・」
「・・・すげぇ、イノセンスって凄いんだな!!」
この光景に錬金術オタクが発動する。錬金術で等価交換しなくてはいけない筈だがイノセンスはその等価交換もなにもせず砂漠に木が生えているからだ。
「オイお前ら、さっさとこい。そこでのろのろしてんじゃねぇー!」
アルよりも少し離れた所に神田は居た。一人でさっさと進んでいく。
「ようやく着いた」
「森だらけだ」
自分達の後ろを振り返って見てみると砂砂砂だらけの砂漠。前を向くと木木木だらけの森だ。
「じゃあ始めは探索班と合流しましょう」
そのあと、ゴーレムで通信を取り合流した。探索班は一人だった。まだ若い青年。
「初めましてエクソシスト様。僕の名前はクラル・ルーボーソンです」
「よろしくお願いします。クラルさん」
「この森に何が起きているんだ?」
アレンは挨拶をしたが神田は挨拶もなしで任務に取り掛かる。
クラルは黒の教団で神田の性格は噂に聞いていたので直ぐさま状況説明しだした。
「現在の状況は多分イノセンスの力によって、森ができ、その中に生物が住むようになったと、他の一般人がこの森に興味本位に入って目撃したという者があります。その中にもその生物の被害に遭った方もいると」
「大体は把握した。早くイノセンスを探しに行くぞ。“ヤツら”が感づく」
そう言い残し一人で森の中に進んでいく。
神田が残した言葉“ヤツら”は千年伯爵のこと。千年伯爵に見つかる前に探し当てないとイノセンスが破壊されてしまう。
「兄さん、僕神田についていくね。一人じゃ危ないだろうから」
アルも続いて神田の所に向かう。少し後から「足手まといになるなよ」と神田の声が聞こえた。
残っているのは三人。とりあえずどうするか決めることにした。
「神田の言う通り、早くイノセンスを見付けないと大変ですね」
「ああ、どうする?俺達三人バラバラでイノセンスを探すか?」
「いえ、それは危ないでしょうから三人で行動しましょう」
「わかった。アンタもそれでいいか?」
「はい」
三人は神田達と反対の方に進む。進んでいくとあらゆる生物に出くわした。
「まるでジャングルだ。これほどまでにどうやって生物が生まれたんだ・・・」
進む中エドはイノセンスの素晴らしさに感嘆する。すると一匹の可愛い小熊が現れた。
「熊までいんのかこの森は」
手を出し頭を撫でる。何故かアレン達が来ないので呼び掛ける。
「何で触んねぇーんだ?」
「・・・エド、前」
顔を真っ青に染めアレンとクラルは指差す。エドはその方向に顔を向けた。すると茶色い毛に当たった。
ぼふっ。
エドが当たったモノから柔らかい効果音が鳴る。
まさかまさかと、エドは上を見上げる。するとそこにはニヤリとした表情の熊が聳え立っていた。
「ギャァアアア!!」
声が森から響き渡り鳥達が逃げて行く。三人はそれと同時に必死に逃げる。
「何で二人共教えてくれねぇんだ!!」
「教えましたよ!」
「エドワードさんが気付かずに小熊触り続けているんですもの」
後ろをいったん振り返りながら走る。まだ熊は追いかけてくる。
「あの熊俺らを食べるつもりだ!絶対!!」
「よだれ垂れ流し続けているんですけど!?」
「・・・仕方ねぇ。アレン協力してアイツ捕まえるぞ」
「!? わかりました。クラルさんは物影に隠れて」
「あっ、はい」
クラルが隠れたのを確認すると二人は熊に向かい会った。
「アレン!俺が熊の動きを止めるからお前は熊を気絶させてくれ」
「はい!」
エドは錬成した手の形をした木を熊に取り巻きつける。
熊は動きを取れず爪で木を刻み付ける。
アレンはその間に熊の頭を脚で打ち付けた。力がとてつもないくらい強かったのか、一回で気絶した。
どさりと大きな音が地面に鳴り響く。熊はすっかり気絶してしまい、エド達はそれを確認し一安心する。
「クラル・・・出て来て平気だぞ」
クラルはその言葉通りゆっくりと物影から出てきた。
「凄いですね・・・こんな大きな熊を」
「こんくらいの奴倒せなきゃダメだからな」
熊をまじまじと見つめる。エドは熊を指差しアレンに問いただす。
「どうするこの熊。ここにおいてたら邪魔だし・・・喰っちまうか?」
「この熊をですか!?」
驚きのエドの質問にアレンは叫んだ。エドがまだ幼かった頃に、師匠に森での修行で熊等の動物を食べるのは当然。
同情はしてられない。
アレンは考え混む、熊を殺してしまうのに抵抗があるのか倒れ続ける熊を凝視する。
するとだ、一匹の小熊がやってきた。
「コイツ、さっきの小熊か」
エドが近付こうとしたら小熊はエドに見向きをせず、もう一匹の熊のところにゆっくりと近づいていった。
「・・・コイツ、まさかこの小熊の母熊か」
「そうなんじゃないんですか」
二匹の光景を三人は見続ける。エドが急に小熊達と反対の方角に動き出した。
一人歩み進むエドをアレンは止める。
「エド、いいんですか・・・?」
「小熊見て気分変わった」
さらっと一言言い放ちまた進み出す。エドが母親が死んでその後の自分をあの小熊に写しているのだろう。
アレンはクスッと笑いを零した。クラルとアレンがエドを追い掛ける。
その後ろにまだ起きぬ母熊を待つ小熊の眼が朱く染まる。その眼でエド達を見つめ続けていた・・・――。
*****
「全然見つけらんねぇー」
嘆いているエド。他の二人は仕方ないとエドに声をかける。
「神田達のほうも見つけられてないそうですよ」
ゴーレムから通信をしていたのか、残念そうに答える。
クラルは一人火をおこそうと必死にライターで点けようとしていた。
「ん?火がでねぇーのか?」
「あっ、はい。ライターが火鉢を出さなくて困っているんですよ」
「・・・板と木の棒ないか?」
「板と木の棒ですか?ありますがどうするんですか?」
見てろとエドはクラルに言うと、クラルから渡された板と木の棒で火を起こそうとした。するとだ、数秒後に煙が立ち火が燃え上がった。
「エドワードさんって何でも出来るんですね」
尊敬の眼差しを向ける。エドはそれに「そんなことはねぇ」と答えた。
「いや凄いですよ!エドワードさんこんな若いのにいろいろと・・・」
「若いって言ったらお前もだろ。それにさん付けは止めてくれよ。俺より歳が上のお兄さん何だから」
「・・・わかりました。これからは『エド』と呼ばしてもらいます。よろしくお願いしますエド」
エドはクラルが差し出した手を握りしめた。照れ臭そうにニコリと微笑んだ二人だ。
「それとさ・・・俺は何もできねぇーよ。本当に・・・――」
哀しい表情でクラルに答えたエドにクラルは驚く。
15の少年が出すその表情・・・世界は子供の心に何を仕組んだのか、とても恐ろしいと思わされた。
夜、アレン達は当然宿屋もない為野宿した。焚火が要約消えた頃だ。一人ゆっくりと夢から目覚めた。
――何なんだ。あの夢は。
昨日もみた夢がまた現れた。二日同じ物が続くと奇妙に思えてくる。
「満月っていやぁ・・・“明日”か」
視線を夜空に向ける。真っ暗な空に点々と星があり、南の空の上にもうすぐで満月になりそうな月があった。
――今は零時か。
月の動きを確認しながら元居た場所から離れていく、すると大きな泉が現れた。
「綺麗だ・・・」
一言発した言葉はこれだった。月が泉に写されている。エドはその泉の中に入って行き、写しだされている月に触れた。勿論、感触は透明な水だ。
「世界はほんと、広いな。
『全は一、一は俺』・・・笑っちまうな」
バシャンと身体を泉に浮かばせる。瞼をゆっくりと閉じた。
「兄さん・・・?」
鎧の中で跳ね返る高い声が響いた。エドは声がした方を直ぐに振り返った。
「アル・・・!」