レグノ王国・王の間・・・
ファリスことテラスは一人、考え事をしていた。
(リョウを捕らえることになり、マユには逃げられた。)
テラスは少しイラついているようで奥歯を噛み締める。
「失礼します。」
そう言いながら赤いじゅうたんの上を歩きテラスの下へとやってくるヤミ。
「どうしました?」
「マユ様の行き先が分かりました。」
ヤミがそう言って頭を下げる。
「本当か! マユは今どこに?」
「どうやら港町シッタから船でソルディ都市へ向かったようです。兵士の話によりますとテル様のほかに女性が一人、そしてルートディガー・ドゥエの男性とトレの女性が一緒にいたようです。」
(トレの仲間がいたのか……一般客を探してもいなかったわけだ。)
テラスはそう考えると次なる策を考える。
「ではヤミよ。ソルディ都市へその旨を伝える文書をロウに書かせ送らせよ。そしてヤミは船で海を渡り、ソルディへ向かうのだ。」
テラスがそう命じるとヤミは頭を下げ、王の間を去っていく。
(私の迷いがこの事態を招いてしまった。)
ヤミはそう自分に言い聞かせ、廊下を歩いていく。
(テラス様はもう20年以上もこの王国を守り、発展させてきた。それなのに王を疑う兵などいてはならない。)
ヤミはロウにさっきの命を伝えた。
するとロウは少し不可思議な表情をしながら去っていく。
(テラス様は国のため、テル様をレグノ王国へと連れ戻すおつもりなのだ。テル様を時期国王と育てるために。)
ヤミはそう決意し、兵士たちを集めるとすぐに港のほうへと歩いていった。
テルも黒いジャケットと白のTシャツや下着などを買い、服の買物を終えた3人は最後に武器屋により、テルが新たな銃弾などを購入して部屋に戻った。
この時、時刻は12時を回っていた。
部屋に入るとショウは窓辺に座り、外の景色を眺めていた。
「おかえり。」
ショウがそう言うとマユが微笑みながらただいまと答える。
そして3人はそれぞれ買った服など荷物を整理する。
そしてアヤとマユは洗面所で新しい服に着替えていた。
二人が着替え終わり戻ってくるとショウは窓から外を眺めながら話を始めた。
「テルの考えやマユとアヤの気持ちは聞いた。だから俺もちゃんと皆に話そうと思うことがある。」
ショウの言葉を聞き、真面目な表情になる3人。
テルはソファに座り、アヤとマユはベッドに腰掛けた。
「俺が……旅をする理由だ。」
試着を終えたアヤがカーテンをゆっくり開ける。
するとそこには白いワンピース姿のアヤがいた。
「おぉ、アヤさん可愛いです。」
マユがアヤの姿を見てそう褒める。
「そうかな?」
慣れない服装で恥ずかしそうにするアヤ。
「でもなんかアヤっぽくねぇや。マユみたい。」
テルがそう言うとアヤがむっとした顔でテルを睨む。
「どうせ私には似合わないわよ!」
アヤはカーテンを勢い良く閉めた。
「まったくテルさんは……」
マユは頬を膨らましてテルを睨む。
するとテルが自分を指差し俺?といったジェスチャーをしたのでマユはそのまま頷いた。
「だったらいつもみたいな格好にするから。」
アヤは服を着替えると試着室から出て歩いていく。
それを後ろからついて行くテルとマユ。
アヤは黒いジャケットを物色し始める。
「また黒のジャケットかよ。」
テルがそう言うとアヤが不機嫌そうにテルを睨む。
「あんたが私らしくないって言ったんじゃん。」
アヤはそう言い返し、良いジャケットを見つけると手に取った。
そのジャケットの右袖には赤いベルトが巻かれており、わき腹辺りには銀の装飾とチェーンが3本並んでいる。
「これと……」
そう言いながらアヤは再び歩き出し、白に黒のストライプが入り、ボタン部分が赤くなったワイシャツを手に取って、最後に黒のヒラミニを取り、試着室へ入った。
「アヤさん怒っちゃったじゃないですか。」
マユが寂しそうにそう呟く。
「いつも怒られてばかりな気がするけどな……」
テルはそう呟いて苦笑いをした。
そうこうしている内に着替え終わったアヤがカーテンを開ける。
そこには先ほどまでリボンとして首につけていたものをネクタイのようにつけ、着こなすアヤの姿があった。
「……どう?」
さっきまでの威勢はどこにいったのやら、顔色を伺う様にテルに聞くアヤ。
「……うん、いいと思う。さっきのワンピースも可愛かったし。どっちもいいな。」
照れながら答えるテルとテルの回答に頷くマユ。
テルがそう答えたのを聞くと慌ててカーテンを閉めるアヤ。
「テルさんは先に男性用売場へ行っといて下さい。」
マユは微笑みながらテルにそう言った。
「へ? なんで?」
テルがそう聞くとマユがテルに近寄り、耳元で小さく呟く。
「下着も買うからですよ。一緒にいたらアヤさんが怒ります。」
マユはそう言うと再び微笑んでテルを見る。
テルは意味を理解して、足早に男性用の売り場へ向かった。
弁当を食べる4人。
マユは誰も話さないのでどうしていいか分からずオロオロしていた。
「あのさ……」
テルがその沈黙を終わらせる。
「アヤには言ったんだけどさ。俺、ファリスを倒そうと思うんだ。」
テルの言葉にショウの箸が止まる。
「あの国王を倒すのですね。」
マユはそう言ってテルの方を見つめた。
アヤは一人無言でゆっくりと弁当を食べる。
「それで俺は、まずは父さんを探そうと思う。」
そう言ってテルはポケットから母親クヨミに貰ったルートを取り出す。
「これは危険だし、俺の問題だ。だから……」
テルは言葉を選ぶようにゆっくりと話す。
「私はついていきますよ。テルさ……んに。」
マユはそう言ってまっすぐテルを見つめた。
「そっか、ありがとな。」
テルはそう言って微笑む。
「それで簡単に言えば、一緒に行くか別れるかを選べってことだな。」
ショウはそう呟いてテルを見る。
テルは覚悟の決まった目で頷いた。
「そうか、少し考えさせてくれ。」
ショウはそう答えると弁当を再び食べ始めた。
「アヤさんはついて行くのですか?」
マユがそう聞くとアヤは一度止まるもゆっくりと頷く。
そして4人は弁当を食べ終えるとショウが一人で考えさせてくれと言ったのもあって、午前中は自由時間となった。
テルはアヤとマユをつれて5階にある買物フロアへ向かう。
エレベーターを降りるとデパートの1フロアのような場所であった。
「新しい服が必要ですね。」
服の替えを持っていないため新しい服を調達しなくてはならない。
とりあえずアヤとマユの服を買うために女性用のほうへ歩く。
そして二人は自分の服を選び始めた。
「これ、似合いますかね。」
そう言いながら水色のワンピースを眺めるマユ。
「マユはそういうほんわかした服は似合うと思うよ。」
テルがそう答えるとマユが嬉しそうに微笑む。
マユは水色のワンピースを片手に他の服を探しに歩いていった。
テルが振り向くとアヤが恥ずかしそうにテルの方を見ている。
「どうした?」
「私はどんなのが似合うの?」
アヤはぶっきらぼうにそう聞くが顔は赤く染まっている。
「アヤは……」
テルは返答に困り、苦笑いをする。
「一緒に探そっか……」
テルの返答にアヤは少し嬉しそうにするとそれを隠すように歩き出した。
ショウとマユは弁当を買うと部屋へと戻る。
「入って大丈夫ですかね……」
マユがそう呟いてそっとドアを開ける。
「んー……どうかな……」
ショウは答えあぐね苦笑いをする。
「えーい……」
マユはそう呟いて中へと入っていった。
すると中ではアヤとテルが枕を投げ合っていた。
「な、何を?」
マユを見つけたテルが余所見をしている隙にアヤの投げた枕が顔面に激突する。
「うわぁぁテル様!」
マユがびっくりしてそう叫ぶ。
「もう!」
アヤはそう呟いて布団の中へと逃げ込んだ。
「……話は終わったのか? お前ら……」
ショウがため息混じりにそう聞く。
「あ、あぁ終わった。」
テルは起き上がると手に持った枕を布団に隠れるアヤに投げた。
「いたっ……」
アヤはそう呟くも布団の中からは出てこない。
(恥ずかしい恥ずかしい……)
アヤは布団に顔を押さえつけ足をじたばたさせる。
「そうか……」
ショウはそう呟くと弁当の入った袋を机に置いて弁当を取り出して皆に渡す。
(恥ずかしすぎる……)
少し前のテルとアヤ……
唇を重ね終えた二人はゆっくりと顔を離し、互いに見つめ合う。
二人は照れて視線を逸らすもまた気になって見てしまう。
「……ごめん……」
テルは目を下に向けそう呟く。
「……あっ……」
アヤははっとなってそう呟き、テルの気持ちを感じ取ったアヤは少し寂しそうな顔をする。
しかしすぐに、アヤがテルの唇を奪った。
驚いて固まるテル。
「私が勝手にしたんだから……謝らないで……」
アヤは顔を真っ赤にしてそう呟いた。
それを見てテルは微笑む。
「ありがとうな。」
そしてその笑顔に耐え切れなくなったアヤがテルを突き飛ばす。
「ぐえっ……」
ベッドから飛び出し横のベッドに激突する。
「いってぇ! 何すんだ!」
そう言ってテルは枕をアヤに投げつけた。
「ちょっと!」
アヤに枕が当たりアヤは後ろに倒れる。
その拍子でスカートが舞い上がり、それをテルが目撃する。
「見た?」
アヤが慌ててスカートを押さえ、テルを睨む。
「いや、その……」
テルに向かってアヤは思いっきり枕を投げつける。
そこにマユが入ってきたわけであった。