ログイン |
北朝鮮が日本海に向けて弾道ミサイルを相次ぎ発射するなど、日本への脅威が深刻化する中、ロシアと全長約1300キロの国境で接し、世界有数の「シェルター大国」ともいわれるフィンランドへの注目が日本で高まっている。シェルターに関し、日本から照会が相次いでいることを受け来日したフィンランド内務省のユッシ・コルホネン氏は都内で、産経新聞のインタビューに応じ、シェルター設置は一朝一夕にはできず、「10〜20年の長いスパンで準備することが肝要だ」と強調した。
首都だけで5500カ所
コルホネン氏は、内務省で救助サービス局市民非常事態準備部長を務める。東京・南麻布のフィンランド大使館で開催した会合で、日本の防衛、議会、自治体関係者に対し、シェルター設置の重要性などを説明した。
コルホネン氏によると、フィンランドには現在、シェルターが5万カ所以上に存在し、首都ヘルシンキには約5500カ所(収容人数90万人)ある。
大規模な公共シェルターが街の中に多数あり、多くの集合住宅も敷地内にシェルターを設置しているという。
シェルターの壁や天井は強固に補強され、頑丈な真鍮(しんちゅう)のドアも取り付けられている。多くのシェルターが高度な換気、フィルターシステムを持ち、毒ガス攻撃などに耐え得る。そういう意味では、「放射能をも防ぐ『核シェルター』とも呼べる」という。
各集合住宅のシェルターは通常、貯蔵場所などとして使われ、万一の場合には72時間以内に荷物を出すなどカラ≠ノして、対応するという。
ロシアの侵略が契機
フィンランドでシェルター建設が始まったのは、ソ連が1939年にフィンランドを侵略した「冬戦争」が契機。「当時、シェルター建設を義務付ける法律は整備されていなかったが、国内の大都市で設置が進んでいった」。設置ペースが落ちる時期もあったが、第二次世界大戦終結後の冷戦開始に伴い、複数の関連法律が制定され、急ピッチで設置が進んだという。
フィンランドはロシアと隣接していることもあり、「ここ最近の世論調査で、約90%が市民防衛用のシェルターの重要性を理解している」とし、2022年2月のロシアによるウクライナ侵略以降、「世論調査の数字はさらに上がった」と述べた。
コルホネン氏は、観光客としてフィンランドを訪れるなどしてきたロシアの民間人に対し「国内で今、嫌悪感が高まっているわけではない」と述べる一方、「ロシアの政治を嫌っている。(プーチン政権による)ウクライナ侵略を良く思っていない。私たち自身、攻撃された歴史を持つからだ。ウクライナは独立した主権国家だ」と強調した。
世界有数のシェルター大国
日本からフィンランド政府へ市民防衛に関する照会がある一方、フィンランドとしても日本の消防・救助、事故予防などについて洞察を得たいという思いから来日した、と説明。フィンランドは、イスラエルやスイスなど、世界有数のシェルター大国と肩を並べる国家だとした上で「日本から協力を求められれば、最善を尽くしたい」と述べた。
また「シェルターシステム全体の構築には準備を含めて10年はかかる」とし、十分な準備期間の重要性を強調した。(黒沢潤)