高杉、お誕生日おめでとう。
お祝いを言ったのはもうこれで何度目になるのでしょうか。
おめでとうを重ねていくたびに色々と本誌で
あれこれ解明されているはずなのに…あれ…おかしいな…
彼がいつか救われる瞬間がきますようにと願わずにはいられません。
銀高が救われる瞬間を探し始めてもう何年も経ってしまいましたが、
原作に翻弄されすぎて続きを正座で待機する以外にはもう何もできない……
高杉、おめでとう
何度でも叫ぶよ
おめでとう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
以下、銀高(のつもり)のSSです
ご注意ください
ネオンの光る明るい街をふらふらと歩く背中があった。特別大きくも小さくも無いその背中はどこか宛があるのかないのかゆっくりとした足取りで人の波を進んでいく。
「おにいさん、寄っていかないかい」
一人でいるものだから客引きの声は何度も何度もかけられたが、男は目をくれることもなくただ歩み続けた。
男は、ふと思う。
この街を歩み続けて行きつく先はあるのだろうか、と。
男には目的地などなかった。
過去には確かにあったはずのそれはとっくに消えてなくなってしまった。
目的地が無ければ生きてはいけないと思った頃も確かにあったのだが、不思議なことにそれを失っても鼓動は止まらなかった。だから男は今も生きている。生きてしまっている。
何故生きているのか。
何故心臓は止まらないのか。
何故皆笑っているのか。
何故泣いているのか。
男の持つ無数の疑問に答える声は勿論なく、過去の記憶と願望だけが男を動かしていた。復讐に取りつかれた己はさぞ滑稽だったことだろう。何故ならその復讐相手はかつての仲間であり、自分であったからだ。自分の腹に刃を突き刺せば解放されることも、苦しむこともないということも知っていた。知っていたが出来なかった。果てることが出来ないのは決して許せない相手が居るからだと思っていたけれど、それがなくなっても死ぬことは出来なかった。
「お願い、お願いだから、そんなことを考えるのはやめて」
そう言って大泣きしたのは仲間の一人だった。普段は気取った態度をとっていた彼女がぽろぽろと涙を流し、必死に縋りつく姿に思わず手にした刃を落としてしまったのだ。違う一人が迷うことなく銀色のそれを真っ二つにへし折ってくれたおかげで男の手から凶器は消え去ってしまった。だが、その後だっていくらでも機会はあった。いくらでも死を選ぶことができた。出来たけれどしなかったのは一体何故なのだろう。
「そういうことなんだろ」
かつての仲間はそう言った。そう言って、昔よりも少し大きくなった背中を向けて、またなと言った。そんな別れ方をしたのはいつぶりだろうかと考えてみたが思い出すことは出来なかった。それ程に距離があいてしまったのだ。
あれから男は、高杉は、何処へ行くでもなく彷徨っている。普通の世界を、ただ、ふらふらと。
引いてくれる手はもう何処にもなく、追うべき背中は何処にもない。意味を持たない世界は高杉にとっては酷く生きづらいものだった。
気づけばネオンの続く通りは終わり、目の前には全く空気の違う街が広がっている。小さな明かりがところどころに散らばって、人の住む為の世界を作り出していた。川の向こうに、一ヶ所だけ赤く光る提灯が見えた。少しだけあそこで休憩しようとそちらへと足を向ける。
「いらっしゃい」
「熱燗、頼む」
明るい声が高杉を招き入れる。古びた椅子に腰かけ、煙管に火をつけようとした時、隣に新たな客が現れた。
「久しぶりだね、いらっしゃい」
「そうだっけ? とりあえず、いつもの」
口ぶりからして、どうやら馴染の客らしい。調子の良さそうな声がけらけらと笑った。
「……で、お前も久しぶりだなァ」
隣の客が、口を開く。どこか含みのある声音ではあったが、高杉は心から無視してやりたいと思った。思ったが、奴が高杉のつまみにまで箸を伸ばしてきたものだからつい条件反射でその手を叩いてしまい、無視できるような状況ではなくなってしまった。
「なんでてめェがここにいる」
「それはこっちの台詞だね」
もう会いたくないと思っていた相手だ。どんな感情を向けるべきか、分からない。終着点の見えない争いはきっと終わったのだ。終わっても誰も責めやしないが、過去のように付き合うには時間が経ちすぎてしまった。
「ま、いいさ。今日は、な」
やるよ、と高杉の猪口に酒が注がれる。
「てめェが自分のモンやるなんて珍しいこともあるもんだ」
「今日は、って言っただろ。もうやらねェよ」
隣で満足げに笑う男は暑い夜だというのに適温にされたおでんを口に運んでいる。美味しそうに立ち上る湯気に誘われて気づけば同じものを注文していた。
更けていく夜に言葉はほとんどなかった。雲のはれた空に黄色の月だけが静かに佇んでいる。その景色はあの何色にも彩られた世界にとてもよく似たものだった。
2015-8-10 00:47