大阪・阿倍野区視覚障害者福祉協会 声のおたより
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2022/05/20 10:24
情報格差、命の危険も 障害者支援法成立で真のバリアフリー進むか


情報格差、命の危険も 障害者支援法成立で真のバリアフリー進むか
 障害者と健常者との間には、物理的な障壁だけでなく「情報」の格差もある。それは時
に命を落とす重大な事態にもつながり、当事者たちが格差解消に向けた法整備を求めてい
た。長年の訴えが実り、障害者が日常生活や災害時に必要な情報を得られるよう環境整備
を促す新法が19日、議員立法で成立した。【中川友希】

 「情報が届いているかどうかは聴覚障害者ではない人からは目で見て分からず、情報格
差の解消は遅れてきた」。聴覚障害者の当事者団体「全日本ろうあ連盟」の久松三二常任
理事はこう訴える。これまでバリアフリー法など物理的な障害を取り除く法整備は進めら
れてきたが、障害者が日常生活を送るために必要な「情報取得」に照準を合わせた法律は
なかった。

 久松さんらが超党派の議員に働きかけ、ようやく実現したのが「障害者情報アクセシビ
リティー・コミュニケーション施策推進法」(以下、新法)だ。障害者が健常者と変わら
ずに情報を得たり利用したりできるようにすることを目指すほか、障害に応じた多様な情
報提供、機器・サービスの開発や規格の標準化などを包括的に定めた。

 法整備を本格的に求めるきっかけとなったのは、2011年3月11日に起きた東日本大震災
だ。津波で甚大な被害を受けた宮城県南三陸町では、全人口1万7666人のうち死亡者は620
人に上り、死亡率は3・5%と被災した市町村の中でも高い方だった。しかし、障害者に限
れば940人のうち125人が死亡し、その死亡率は13%と一段と高くなった。避難するのに必
要な情報が届かなかったことも影響したとみられ、久松さんは「逃げる必要があることを
知らずに津波に襲われた障害者もいたのではないか。情報にアクセスできる環境が整って
いれば逃げられたかもしれない」と訴える。

 東日本大震災の避難所では食料配布を知らせる情報が「音声」のみで、聴覚障害のある
被災者に伝わらず、気付いた時には配給が終わっていたケースも散見されたという。この
ような過去の震災の教訓から、愛知県豊橋市の市民団体「豊橋手話通訳学習者の会」では
、避難時や避難所で意思疎通を図りやすいイラストが描かれた「絵カード」を作製してい
る。避難時には「避難 歩いてこちらへ」、避難所では「食べ物を配ります」などの案内
を絵と文字で表現し、避難所を運営する地域住民向けに講座を開いてきた。絵カードは無
償でデータを提供し、県内外の10を超える自治体に提供した。手話通訳士でもある平松靖
一郎会長は「大規模災害では手話通訳者も被災して、すぐに支援に入れない。ツールを用
意しておくことが必要」と話す。

 情報を得る際のハードルは、障害やその程度によってさまざまだ。新法を作成した超党
派議員連盟が17の当事者団体から聞き取りしたところ、文章では易しい漢字を使う(知的
障害)▽絵文字や図記号を使う(自閉スペクトラム症)▽テレビ番組でのテロップの読み
上げや解説放送(視覚障害)▽字幕や手話通訳の配置(聴覚障害)――といった要望が上
がった。聴覚障害者でも、手話や筆談など人によってコミュニケーション手段は異なる。

 新法では障害者が障害の種類や程度に応じた手段で情報を入手できるようにすることを
柱とし、国や自治体に具体的な施策を作るよう求めた。防災・防犯情報の迅速な共有や、
障害者が多様な手段で緊急通報できる仕組み作りも急務だ。豊橋市の市民団体のような取
り組みが広がる可能性もある。全日本ろうあ連盟の倉野直紀理事は「当事者の要望で広が
った支援に法的根拠ができることで、障害者が情報を得やすくするための取り組みが進む
のではないか」と期待する。

 ウェブサイトやアプリ、スマートフォンを通じて、いかに障害者が情報を入手しやすい
環境を作るかも課題となる。気管に障害があって発声できない中田雅貴さん(20)は普段
は使い慣れた筆談で話しているが、外出先で話しかけられたり、人を呼び止めたりする時
はタブレット端末に文字を入力すると機械音声で読み上げてくれるアプリを活用する。中
田さんは「アプリを知り、便利なものがあると驚いた。活動の幅が広がった」と話す。

 だが、思わぬハードルにぶつかることもある。クレジットカードの取得手続きの際、本
人の声ではないアプリの音声では受け付けてもらえず、母親に手続きを頼み、時間がかか
ったことがある。便利な機器が開発されても不便さは残る。

 不便さを解消しようと企業の動きも広がっている。東京都品川区のソフトウエア会社「
freee」では、障害者を含め誰でも使える商品作りに取り組む。世界各国で参照されてい
る民間団体「W3C」が作成する規格を参考に、独自のガイドラインを作り障害者にも使い
やすい企業向けの業務管理ソフトを開発している。具体的には、画像を使う時は文章での
説明を添える▽視力が極度に低い人でも見えやすい配色にする▽視線入力などでカーソル
を器用に動かせない人も押しやすいように、クリックするボタンを一定以上の大きさにす
る――といった内容。デザイナーとして働く伊原力也さんは「ガイドラインの活用によっ
て、障害のない人も含めて製品を使える人を増やしたい」と話す。

 既に欧米では、こうした規格を満たした製品の普及を法律で後押ししている。米国では
1998年から政府が調達する機器やサービスは、障害者も使える規格の順守を義務付けた。
欧州連合(EU)でも、19年に「欧州アクセシビリティー法」が成立。政府が使う製品に加
え、企業が製造や販売、輸入する製品も規格を満たすよう、罰則を含めた法整備を加盟国
に求めている。東洋大の山田肇・名誉教授(情報社会制度論)は「規格を満たさない製品
は欧州市場に参入できなくなり、国際市場を狙う日本企業にとって影響は大きい」とみる


 日本のデジタル庁が4月にまとめたガイドラインでは、政府が調達する際に規格を満た
しているか企業に情報開示を求めている。ただ、情報開示しなかったり、規格を満たして
いなかったりしても罰則はなく、実効性に乏しい。

 聴覚障害者で、NPO法人「インフォメーションギャップバスター」の伊藤芳浩代表は「
新法では製品が満たすべき規格が義務化されていないため、企業が誰もが使いやすい製品
を提供する仕組みとしては不十分だ」と訴える。山田名誉教授は「新法は罰則や義務がな
く、状況は大きく変わらないのではないか。ただ、アクセシビリティー(サービスなどの
利用しやすさ)に特化した法律が初めてできたことで今後議論が深まる可能性があり、最
初の一歩を踏み出すことができた」と評価する。

mainichi.jp





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